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あなたに贈る花

作者: 菜乃葉
掲載日:2008/01/01

この小説は「視点の変わる小説」に参加しています。

また、KN−T先生の『心は今もあの人の元に。』の旅人視点です。


 僕がここで一晩泊めさせてもらおうと思ったのは偶然だった。

 

 嵐にならなければ。


 お城が僕の目の前になければ。


 僕はあの人と出会うことなんてなかった。





 「どうしよう。ここしか頼む場所がないよな……」

 

 思わずつぶやいてしまう。僕は今晩の宿に困っていた。

 なぜなら外は嵐で歩くのも困難な状況におちいっている。

 そして目の前にはお城がある。もし頼むとしたらここしかない。


 「しょうがない。行くしかないか」


 僕は覚悟をきめて中へと入ろうとした。なんとか交渉して泊めてもらうしかない。

 

 「どうかしたのですか?」


 門の兵に呼び止められる。僕は今までのいきさつをその兵に話した。


 「そうだったのですか……。では中へどうぞ」


 信じられないくらいあっさりと中へ入ることが出来た。それでこの城は大丈夫なのかと心配になってくる。兵に案内され、僕は後についていった。


 「こんなにあっさりといれて平気なのですか?」


 「あなたのような方がたくさんいるのですよ。そのような人のための部屋がありますから」


 こんなことになるのは僕だけではなかったらしい。仲間がいたと思うと少しほっとした。


 「ただし、泊るためには王様に会ってもらいます」


 あまりに驚いてしまい、僕は立ち止まってしまった。なぜ? とか聞きたくても驚きすぎて口が動かない。


 「ここの部屋に王様がいます。どうぞ、お入りください」


 兵に背中を押され、転びそうになりながらも部屋にはいるとそこには王様がいた。


 「ようこそ、我が城へ」


 王様は王の風格があった。その場にいるだけで圧倒されてしまう。まるでへびに睨まれたかえるのようにその場から動くことが出来ない。

 ぼくがそんな状態だったので、王様が先に口を開いてくれた。


 「そなたはこの城にどのくらい滞在するのだ?」


 「この嵐が止むまで滞在させて頂きたいと思っております」

 

 王様が僕の言葉を聞き、少し考えているようなそぶりを見せた。

 この交渉が終われば、安心して休める。そう思ったのもつかの間だった。

 



 「ふむ。いいであろう。ただし、私の娘の話し相手になってくれたらの話だが」


 「話し相手、ですか?」


 この城に来てから驚かされっぱなしだ。

 僕は旅人で王様に会うなんて縁のない人間なのに、こんどはお姫様に会うことになるなんて。


 「そうだ。娘のところまではここまで案内した兵に案内させよう」


 そう言うと、さっきの兵が僕の腕を掴み、王様の部屋から退出した。


 「それでは、姫の所へと案内しましょう」


 僕はただ兵についていくしかなかった。もしかしたら僕は夢の中にいるのかもしれない。

 きっとそうだ。もうすぐで目が覚めるはずなんだ。

 だって、現実でこんなことが起こるはずがない。


 「姫の部屋はここです。がんばってくださいね」


 兵はそう言ってきた道を引き帰ってしまった。

 僕の口からはため息しか出てこない。夢なら早く覚めてくれ。

 こんなことをしていてもしょうがないのでドアをノックする。


 「どうぞ」


 中からきれいな声が聞こえてきた。声からも中にいる姫はいつか人の上に立つことが想像できる威厳を持っていた。


 「失礼します」


 言葉に気をつけなければ。そう思ってドアを開けた瞬間に僕の視界は白い物でうめつくされた。


 「ぶっ!」


 僕の顔にぶつかってきたのはクッションだった。

 鼻のあたりが少し痛い。これで夢では無いことが分かった。

 そしてさっき兵がなぜ『頑張ってください』と言ったのかも理解することができた。

 この姫はお転婆だったのか。


 「お父様! また婚約者を連れてきたの!? 私は好きな人とじゃないと結婚なんてしないからね!……て、あれ。あなた誰?」


 姫が僕の前に姿を現した。彼女のその姿はまだ蕾のバラのようだった。

 今はまだ咲き誇っていないが、それでも姫の美しさはにじみ出ていた。

 このバラが咲いたら、きっと誰もを魅了することが出来るだろうと僕は思った。


 「この城に一晩泊めさせてもらうことになりました、旅人です」


 僕は事情を話すことにした。

 すると、目の前にいる姫の顔は次第に赤くなってきた。


 「ごめんなさい。てっきりお父様がまた婚約者を連れてきたと思ったので。でも、あなたはなぜここに?」


 そんなことは僕が知りたかった。とりあえず王様に言われたことをそのまま伝えると、姫は僕を部屋の中へといれてくれた。




 

 沈黙が続く。

 話そうにも何を話せばいいのか分からないから話せない。


 「ああ! もうなんでもいいから話してよ。そのためにきたんでしょう?」


 とうとう姫がきれてしまった。このままではクッションどころか椅子まで投げられてしまうかもしれない。急いで何か話そうとした。


 「僕は、旅でいろいろな花を見てきました。花はそれぞれにいろいろな花言葉を持っています」


 「へえ、そうなの」


 姫の表情から花についての興味がうかがえたので、そのまま話すことにした。


 「そうです。例えば『勿忘草わすれなぐさ』。これは『私を忘れないで』という花言葉があるんです」


 「そうなの。他には?」


 姫は前に少しずつのりだしてきた。それに調子をよくした僕は見せるつもりは無かったのに、鞄の中から花を一輪だして姫に見せてしまった。


 「これはなんの花なの?」


 「これは『スターチス』という花です」


 これは僕の中でも特に大事な花だ。人に見せることだってしないのに、なぜか姫には見せてしまった。


 「でも、この花は乾燥しているわね。なぜなの?」


 姫は好奇心からか、僕に質問をしてきた。


 「これは、僕の大事な人からもらったんです」


 そう、これは僕の大事な友人からもらったものだ。

 友人はよく酒を飲み、周りの人間に暴力を振った。

 周りの人間はその友人を嫌っていた。

 けれど、僕は友人を嫌いになんてなれなかった。

 彼だけだったのだ。僕が花が好きだと言うことを理解してくれたのは。

 彼は僕に周りになんと言われても花が好きだと言うことを貫き通すようにと言った。

 僕は彼と約束した。周りなんて気にせずに、それぞれの道を歩んでいこうと。

 そしてこの花を僕に約束を守れとくれたのだ。スターチスの花言葉は『変わらぬ誓い』。

 しかし、その友人はもういない。友人の存在を思い出せるものは、もうこの花だけだ。

 僕の言葉を聞いた姫は笑って僕に向かっていった。



 「そうだったの。ではこの花は大切にしないといけないわね」



 その言葉に僕は救われるような思いだった。

 周りの人間は僕が友人からもらった花を持っているとみんな嫌な顔をする。

 そして僕に向かってそれを捨てろ、という。

 けれど彼女は認めてくれた。友人を。そして花を持っている僕のことを。


 「ありがとう」


 自然と声がでた。姫はきょとんとした顔をしている。


 「ええと、どういたしましてって言った方がいいのかな」


 少し困っている顔をして僕にそう言った。

 しかしすぐにさっきまでしていた好奇心丸出しの顔に戻って、


 「それで他にはどんな花があるの?」


 と僕に続きを催促さいそくしてきた。

 僕はそれにつぎつぎと答えていく。

 初めて姫に会ったときとは別の感情が僕の心を満たしていく。

 外が嵐なんてことはすっかり忘れていた。



 「あれ……?」


 僕は話しに夢中になって姫の部屋で寝てしまったみたいだ。隣では姫が寝ていて起きる様子がない。

 外を見るともう朝になっていて、雲の1つも見つけられないほど空は青かった。


 「もう出て行かなければいけないんだ……」


 思わずひとりごとを言ってしまう。

 たった一晩いたとは思えないほど姫とは仲良くなった。離れてしまいたくない。そう思うが、彼女は次の女王様となる人で、かたや僕はただの旅人だ。

 体がなかなか彼女と離れようとしない。そんなとき


 「お迎えにあがりました」


 と言う声が聞こえ、ドアの方をみるとそこには昨日の兵が立っていた。


 「王様がお呼びです。ついてきてください」


 そう言うと兵はどんどんと歩いてしまう。最後に姫の顔を見ることができず、僕は部屋を去った。


 昨日の王様がいた部屋へといくと、王様は昨日と同じ場所に座っていた。


 「娘はどうであった。話はできたか?」


 王様は僕にそう尋ねてくる。姫のことを思い出すと胸が苦しくなってしまった。

 僕が顔をしかめていると王様は嬉しそうに僕に話しかけてきた。


 「娘に惚れたか? それはよかった! 姫と結婚させよう」


 「ええっ!」


 そんなに簡単に娘の結婚を決めて良いのか?

 しかし、僕の心はだんだんと喜びに満ちてきた。

 ほんとうに? ほんとうに姫とずっと一緒にいられるのか?




 「ただし、そなたが一人前の男になれたらの話だ」


 「それはどういうことですか?」


 僕には王様の言うことが分からなかった。


 「それが分かるまでは娘とは結婚できない。しかし、そなたが分かるまで姫がそなたのことを忘れなければ待っていておこう」


 僕は困ってしまった。王様の言う一人前の男というのが分からない。しかも、それが分かっても姫は僕のことを忘れてしまっているのかもしれない。

 そしてあることを思いついた。


 「王様。これを姫に渡してもらえませんか?」


 そして手渡したものは紫蘭。

 姫は花について興味を持っていたから、きっとこの花言葉に気づくはずだ。





 こめられた願いは『お互いを忘れないように』

 


 そして、もう一つ。僕の彼女への気持ちもその花へとこめる。





 「分かった。必ず娘にわたしておこう」


 そして僕は城から去った。再びここへと訪れるために。







 

  

 



 

 「やっともどってきたか」


 「はい」


 僕は再び王様の前にたった。

 王様の顔は緊張からかこわばっていた。

 月日はどんどん流れていったので、もう王様は王様ではなくなり、姫は女王様となった。

 


 「一人前の男になれたか?」


 「ええ。今は女王様となっている彼女を守れるようになりました」


 「そうか」


 王様の目がやわらいだ。


 「ではそこにいる兵、この男を娘の元へと届けてくれ」


 僕の目の前にあらわれたのは昔案内をしていたあの兵だった。


 「お久しぶりです。では女王様の部屋へとご案内いたします」


 そう言うとさっさと僕をおいて行ってしまう。こういうところは昔と何も変わっていない。

 僕はその後に慌ててついていった。


 部屋の前につく。

 あの時と同じ部屋だ。

 兵が必死で女王様となった彼女に呼びかけているが返事が返ってこない。

 それでもがんばって呼びかけているとやっと返事が聞こえた。


 「何よ!?」


 その言葉を聞いて僕は思わず笑ってしまう。こんなところは変わっていない。


 「えっと……旅人が、一晩泊めてくれと」


 兵はそう言うと僕に向かってがんばってくださいね、と声を出さずに言った。

 ますます昔を思い出した。


「いいわよ。通しなさい」


 彼女が許可したので僕は部屋の中へと入っていく。


 

 姫はもうすっかり女王様になっていた。

 バラの蕾だった彼女は花開いていた。

 僕がその姿に魅了されていたら、彼女は急に泣き出してしまった。


 「今までどこにいってたのよっ、このばか!」


 泣きながら叫ぶ彼女もとてもきれいだった。


 「僕が渡した花言葉の意味分かった?」


 「分かったわよっ、『互いを忘れない』でしょ!」


 彼女はやはり僕の願いを分かってくれた。

 しかし、僕が彼女に伝えたかったもう一つの言葉は伝わっていない。


 「それもそうだけど、もう一つあるんだよ。僕のきみへの気持ちはその花言葉に込められているんだ」


 「なによ、それ」


 彼女の顔はずいぶんと間抜けな顔になっている。それを見ていたら笑いがこみあげてきた。


 「笑ってないで教えなさいよ! 結局なにがいいたいのよ?」


 「それは自分で調べて。分かったら僕の口からいってあげる」



 


 そう、僕のきみへの気持ちは『変わらぬ愛』なんだよ?





グループ小説の2作目です。

1人でこんなに書いてすみませんでした。

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[一言] 面白かったです。読んでいて、何故かほんわかしてしまいました(笑) 短編としても、よくまとまっていたと思います。 早速気になった部分を挙げますと 最初の部分。 嵐にならなければ →もし天気…
[一言] どもっ!KN−Tです。 菜乃葉さんの2作品、『女王様の涙』と『あなたに贈る花』、両方読ませていただきました。 なんといいますか、まず、上手いですね!僕も長くは書いていないので大したことは…
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