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交響楽団の章〜第5話

挿絵(By みてみん)


 雲が切れ、光が射していた。けれども城の前に集まった、霧でできたプリズムが晴れることはない。

 城の上空に終結した霧に映し出された光景で、尖塔付近の出来事は全てを見通すことができた。

 いったい何のために、こんなものを……

 国風の剣士が、もう城にたどり着いていた。

 迷うことなく突進して強烈な斬撃を絶望にあびせかける。

 そんなに焦るな、聴けよこの音を!

 上気した顔で絶望が言う。


それと同時に、城の城門が大爆発を起こし閃光が上がった。

「爆導索!?エメラルド、あの火薬女キチガイ、街ごと壊す気か!」

 ジャスパーさんが忌々しげに吐き捨てた。

 弦にぶら下がった袋のようなものが、滑り突如として誘爆する。あっという間に弦は火の手に包まれた。


 それに答えるように城の周りへ、多数の兵が集結する。

 その時、もう一度光が走った。蝶だ!あの女の子が変わった姿が、恐ろしい勢いで飛びまわり、飛び去った後に白い光跡をまき散らしていた。

 蝶の体からは、しなびた二対の足が伸びているのが望遠鏡を通して見えた。男性と女性だろうか、たくましさには大きな隔たりがあった。

 唐突に吐き気がこみあげた。

 あれは、あれはあの女の子の両親の足だ。棺桶の底より蘇った人の足だ。なぜだかそう確信した。


 あの子は、もう人ではないのだろうか?

 見た目と同じ化け物の姿へと変わってしまったのだろうか?


 ふわりと飛ぶ蝶が、その体を支えるには、あまりにもか細い弦の上に止まった。


TeTe MuMa

TeTe MuMa


 なんだ、一体何をしたい?揺れはその外の弦を伝って、僕らのところへもそれは伝わってくる。

「なんだ……」

 弦読み士の一人が、困惑の表情を浮かべる。

 とっさに僕もそのそばにあった、弦を握る。言葉になりきらない単語を、必死な思いを、弦は伝えようとしていた。

 前に教えてもらった弦読みを必死に思い出す。

 振動が僕の手に言葉を伝える。

 それは。

〝ここは、どこ〟

〝寂しい〟

弦の振動は僕に、次々と言葉を告げる。

〝苦しい〟

〝ごめんなさい、苦しい、苦しい、苦しい、ごめんなさい、パパ、ママ〟

そしてまた、悲鳴とも甘えともつかない悲痛な鳴き声を上げた。


TeTe MuMa


 蝶は再び言葉を発し、弦を震わせ、自分の感情をその金属の鋼線に乗せて、発し続ける。

〝助けて〟

 そう最後に一言ぽつりと残し、蝶は再び空へと舞い上がった。

 絶望が浅く笑いながら、蝶を指揮するかのように、右手を振るう。

ぶるりと身を震わせて、決意した。

 そうだ、決意したんだ。

 僕は僕にできることを、僕の身の回りの人をせめて助けなきゃ、そうやって手を差し伸べるって、決めたんだ。

 

「結晶!」

 呆然としていた結晶が、僕の方を振り向いた。

「何!」

「あの子を助けに行こう!」

 びっくりするぐらいに、眼を見開いた。

「無理だよ!どうするんだ、あんな姿だ」

「姿は変わっても、あの子はあの子だ、何も変わらない。とにかく城付近まで」


「どうやって、もう間に合わない!」

 叫ぶ結晶。

「僕らも弦の上を走ろう!」

「馬鹿か、僕らに弦走りなんてできるわけないだろう、それに、もう一度行ってどうするんだ、また足手まといになるのかよ!?」

ぐっ、と歯噛みする。僕らは小さな子供で、とるに足らない戦力だ。

 結晶の言うことが正論だ、でも

「助けてって、言われたんだ」

 むぐっと結晶が一瞬押し黙る。

「さっき、震える弦が僕に言葉を伝えた。本の少しの間だったけど、たしかにあの子の言葉を聞いたんだ!まだ何とかなるかもしれない、僕の言葉を聞いてくれるかもしれない」

「無理だ!って、目を覚ませよ、あの子はもう化け物なんだぞ!」


「おい」

 ジャスパーさんが僕らの方を見た。

「俺は今からあいつを狙う」

 そう言うと城の周りを超高速で飛び交う蝶を指さした。

「足手まといでも何でもいい、手伝え」

 そう言うとそこから無言で走り出す。

 僕らも兵たちと一緒にその後を追った。今は自分にできることをするんだ。

 

 城壁外部へと兵士たちが押し寄せ、開きかけた門に殺到し、教徒との小競り合いが続く。

 その中に、今まさに、蝶が襲いかかろうとしていた。震える羽根は触れる物、全てを両断した。木々を、壁を、大地を、そして人の体を断ち切らんと迫る。

「くそっ、させるか」

 ジャスパーさんがそう叫び、銃を構える。

「こんな距離から!」

結晶がそう言うと。

「俺のは特別性だ!」

そう叫び、狙いを定め蝶へと撃った。銃弾は羽根に吸い込まれるようにして飛び、燐粉があたりに飛び散る。


 悲鳴を上げるようにして鳴き声をあげ、兵士に襲いかかろうとしていた蝶がこちらに気づく。

 怖い、ただ単純にそう思った。

 「散れ!」

ジャスパーさんがとっさに叫び僕らは、弾かれるようにして、その場から跳ねた。空間を蝶の羽がなぎ払う。

 同行している数名の竜騎兵も、同時にそこから跳ねた。

 ビリリと甲高い音を立てながら、羽が城壁に触れて、レンガや石壁が震え、削り落ちる。

 瓦礫を両断し、防壁をゴリゴリと削りながら、蝶は圧倒的な速度でその場を飛び去った。

 竜騎兵の一人が手にした銃で、蝶の頭を狙う。

 銃弾は、羽根をむしり、触覚を軽くえぐった。あたりに鱗粉が飛び散る。

 

「くそっ、はずれか・・・」

「結晶、星座を守れ。トパーズ隊長の指示で、竜騎兵団もあの蝶を狙う」

「星座は、とにかくやつの気を引け、何でもいい、あいつが人間だったころの記憶に引きづられて、一瞬でも動きをとめれば十分だ」

「俺が仕留める」

フリントロックの銃を構え、ジャスパーさんが城壁越しに仁王立ちになる。 

 

 あの子を殺すのか。

 そんなのは嫌だった。

 止めたい、こんな争いはすぐにでも終わりにして、またみんなで仲良くやりたい。

 僕は、あの子を助けたい。

 そのためにも今は自分にできることをするんだ。それがどんな結末を迎えようとも、とにかく足掻いて、動き続けるしかない。


 蝶が空を旋回した。体を震わせ、揺れる羽が空気に伝わり、音を奏でる

っと唇をかみしめ、蝶の目にとまるように身を起こす。

 僕の姿をとらえ、一瞬で迫る。

 思い出せ、あの女の子は何にいったい反応した。僕にできることはなんだ。結晶がそばで息をのむ。

 なにを言えばいいんだ、何を。

 ああそうだ、あの子は五年間ずっと。

 再び叫ぶことばがすぐに脳裏に浮かんだ。眼前に蝶の羽が迫る。


「上手だね、お絵描き!」


 叫ぶように、両手を広げ、もうどうなっても構わない。涙でぐちゃぐちゃになりそうだった。

 涙がこぼれる。ずっと失った両親に会いたくていつも自分の心を殺すかのように描き続けていたんだ。

 僕もそうだった。だから分かるんだ。大事な物失いそれを求めてさまよってしまう気持ちが。

 その結末がこんなのかよ、何かに腹が立って悔しかった。

 こちらに向けて猛然と飛び交う蝶が、超高速でその身を捻り僕を避けるようにして過ぎ去る。突風と遅れてやってくる轟音が僕の耳を破壊しそうだ。

 結晶がすんでのところで蝶の体を剣で受け止め無理やりに軌道を捻じ曲げていた。

「ぼけっとするな!」

 死ぬぞ。

 そう、現実感のない言葉が耳に突き刺さる。

 僕の力では女の子はおろか、自分の身一つ守ることはできないのだ。


 すぐそばを猛然と過ぎ去った後を追うかのように、ジャスパーさんが目を細め、狙いを定めた。。まだ撃たない。弱点を見定めるかのように、危機的状況の中、冷静に相手を観猿する。

 再び蝶がこちらに体を向け、遠方から目標を定める。ジャスパーさんが、すうっと構えた。圧倒的に不利な戦い。

 銃弾は蝶の頭部へ吸い込まれるようにして、砕けた触覚は一瞬で再生した。

「ダメか、それなら!」


 銃声を合図にして、城の上層部から

 兵士達が何か樽のような物を、動きを止めた蝶めがけて投げおろした。

 それに向かって、再びジャスパーさんが銃弾を放つ。

 空中で爆散した。

 小さな光の後に振動で鼓膜が震え、目の前が真っ白になった。

 遅れてやってきた爆音がたなびき、黒煙の中、焼け焦げ悲痛な叫び声を、蝶はあげ続けた。

 ああ、僕がその声に耳をふさぎかけた時。

 城の頂上付近が急に騒がしくなり、霧の向こうから、剣撃を超えて、声が響く。憎らしい絶望の声だ。


挿絵(By みてみん)


「交響楽第一章!」

 孤独ソロ

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