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光がかなり強くなったあと、
ドスっと何か重い物が落ちる音。
硬い何かが砕ける音が続いて響く。
――失敗しちゃったのか・・・?
不意に、顔に少し湿った肌が触れる。
――この少しぶよっとした肌の感触は・・・!
「主人・・・。
顔をお上げください・・・。」
顔を上げ、目の前に居るソレの頭部を見上げる。
「ご・・・ゴンザレス?」
「はい!」
あんなに小さかった亀のゴンザレスの姿は・・・。
金髪碧眼のイケメン。
背も高く、スラッとした金属鎧の騎士。
・・・と言う訳ではなく。
獣人やら竜人やらの亜人の居るこの世界では、
人型っていうのは二足歩行していればいいっぽいようだ。
・・・結果、ニンジャタ○トルズみたいな感じ。
つまりは人間サイズまで大きくなった上で二足歩行になっただけの姿になってしまった訳だ。
まぁ、笑顔とかを浮かべれているのを見ると、
筋肉やら骨やらの種類が増えて人類に近づいたみたいだ。
元来、亀に表情筋無いし。
「ご主人に少しでも近づけて、感激の極みでございます!」
目の前で170ぐらいの背の亀が跪いている訳なのだけど・・・・・・。
「あっ・・・・・・。
ピーちゃんちょっと離れてて!」
水槽が砕け、
溢れた水が床を濡らしていた。
「ご主人っ!何か・・・
「ちょっとゴンザレスはじっとしてて!」・・・ハイ。」
雑巾を使って漏れた水を拭き取り、隣の部屋へ汚水を流す。
亀、及びその住んでいる水には、
サルモネラ菌が含まれ食中毒を起こす訳で・・・。
ともかく不味いのだ。
排水作業を終え、
新聞紙を使ってガラス片をくるんでまとめる。
「ゴンザレス・・・怪我はない?」
「はい、なんとか。」
「でも、一応の為、吸っとこう!」
「へ?主人・・・それははしたないのでは・・・。」
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「ギャァァァ!
主人っ!ヤメッ!」
「まだまだ始まったばかりじゃない。
我慢なさい。」
掃除機でガラス片を吸ってやると、
ゴンザレスはかなり嫌なのか大暴れしている。
甲羅を抑えているから逃げられずに涙目になってるのを尻目に、尻尾、足、甲羅の隙間。
どんどん吸わせ、綺麗にする。
これしか方法無いし、嫌がられてもやるしかない。
「いやぁぁぁぁあ!」
「暴れるなぁぁぁあ!」
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「うぅぅう。
主人・・・酷い・・・。」
「しょうがないでしょう。
怪我をしてもらっても困るし。
第一、甲羅の隙間あたりは手がとどかないでしょ。」
「そうですが・・・。」
ウサやトカちゃん達の生暖かい目を浴びて、恥ずかしくなったゴンザレスは縮こまってしまった。
「そろそろ行こうか。」
問答無用で甲羅の上端を掴み、引きずる。
「歩きますから離してくださいっ!」
「初めからそう言えばよかったんだよ?」
にっこりしながら
甲羅を離し、割れた水槽をかわりに引きずっていく。
危ないし部屋の中に置いておく訳にはいかない。
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「ほぅ・・・。」
ダンジョンの中身を見せている間、
私の部屋側の角に水槽やらのゴミを積み上げる。
・・・邪魔だし。
「主人。
此処はかなり立地が悪そうです・・・。」
「は?
何故立地なんて分かるんだ?」
まだ、この世界に来てから二部屋しか移動してないし。
増して、外なんて出てないしなぜ分かる?
「空気が乾燥してます。
感覚的に少なくとも一週間は降ってないと思われます・・・。」
「つまり・・・?」
「砂漠です。」
本当だったら凄いね。
「・・・・・・確信は?」
「3割位ですかね・・・。
異世界なのでしょう?ここは。」
「うん・・・。」
――確かにね・・・。
異世界なら毎日スコール降り続けても地表は沼どころか普通の草地が広がってそうだ。
現実なら地面はヘドロ化するけどな。
「ま、次の部屋を見てから外を見て確定するとしましょうか。」
「そうですね。」
二十畳 ぐらいは普通にありそうな広さの何もない大部屋を出て、次の部屋へ進む。
さっきの部屋がそのまま小さくなったみたいな廊下を通過し、次の部屋に着く。
「・・・・・・。」
ダンジョンには、その機能を維持するための宝玉――ダンジョンコアが有り、それが取られるとダンジョンは崩壊するらしいのだが・・・。
「・・・なんで入り口に・・・・・・。」
入口の目の前に大々的な台座が置いてあり、
その上で水色の光を放っていた。
そう、入り口入って正面すぐ。
――大事なことなので二回言いました。
「ひとまず、これはどうにかしなければいけませんね・・・。」
と言っても移動はどうすればいいんだ?
「そうだね・・・。」
女神本をめくって探しつつ、返事を返す。
程なく、その項目は見つかった。
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ダンジョンコア
ダンジョンの心臓部と言える石。
かなりのエネルギーを溜め込むことが出来、
モンスター、人など多くの生物に狙われる。
ダンジョンマスターはSTを使って土台ごと切り離し、移動することが出来る。
さらに、ダンジョンに関する仕掛けや、ステータスを見たりする事が出来る。
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――STって何だよ・・・。
探すと意外とすぐに見つかった。
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ST
ダンジョン拡張や、設置物の移動ができる。
下にあるダイアルで切り替えが可能。
あと、壊れない。
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「・・・ツルハシ?」
――確かに台座の近くに黒曜石的な物で出来てる物が確かに有るけど・・・。
近くに寄って見ると、
材質は透明な黒色のガラスで、光を当てると紫色の光を照らし返してくる。
――禍々しくて、正直呪われそうだったし、触れたくなかったんだよな・・・・・・。
柄に手をかけて、引き抜く。
「主人、それは?」
「・・・ツルハシ。
ダンジョン整備のアイテムだとさ。」
模様が全体に彫り込んであり、
肝心の刃の部分には蔦が巻き付き、
果ては薔薇の花まで上の中央に一輪咲いている。
材質は模様も もちろん黒ガラス質だ。
すぐ壊れそうだけど、
女神本に書いてあった通り、下にはダイヤルがついているので壊れない奴なのだろう。
そのツルハシをひとまず肩に担ぎ、
コアへ顔を向け、手を触れる。
『ダンジョンマスターの存在を確認。
メニューを起動シマス。』
病院とかの電子読み上げ音声と同じ音がコアからして、
目の前に光の板が1枚浮かぶ。
「ゴンザレス、
誰か外から来ないか見張っててくれない?
背中からざっくりやられたくはないから。」
「主人、了解した。
誰か来た場合はどうすれば?」
――そんなの決まってるじゃないか。
「私の場所まで戻って来なさい。
声を上げて、私に知らせてから・・・ね。
あ、忘れてたけど、
はい、装備。」
鉄製の棍棒と盾を7000ポイント使って作成者。
これで残り430ポイント。
「了解しました。
では、いってきますね?」
「おう!」
彼が重い大盾と棍棒を軽々と持って歩いていくのをチラ見しつつ、
光の板をいじり始める。
「ふぅん?」
ダンジョンの設備はDP――ダンジョンポイントという物をつかって増やし、
ダンジョン自体を広げるにはつるはしを使うしか無いらしい。
しかもツルハシは私しか持てないっていう制限付き・・・。
つまりはどこぞの本のように外にいきなりダンジョンを出現させたりなんて出来ないし、
後半戦になろうと私はひたすらツルハシを振るわなければいけないようだ。
――炭鉱夫プレイって・・・・・・
冗談でしょ・・・。
今の所のDPを確認すると、
虎バサミを3つ設置できれば良いところって言う質素過ぎる状態だった。
――どうすればいいってばよ・・・。
某忍者アニメみたいな感じのため息を心の中でついたっていいじゃない・・・絶望的な資金難なんだし・・・。
課金したくとも、有機物 じゃないと駄目で、
無機物や、価値のある部位はダンジョンコアのメニューで見かけた奴 。
倉庫へ収納されるらしいのでいろいろ、完璧な訳だ。
「ゴンザレス~~!終わったよー!
そこで待っててー!」
「分かりましたー!主人ー!」
ゴンザレスの元へ走っていき、外へ出る。
「うわぁ・・・。」
「勘が当たってしまったようですね・・・。」
異世界で初めて見た外は、
砂を除くと照らす太陽しか見えない不毛の地。
黄色い大海原。
水の大切さを教えてくれる場所。
つまりは砂漠である。
砂漠のど真ん中である。
有機物が必要なダンジョン経営なのに、
その有機物が限りなく少ない、砂漠である。
たいへん大事なことなので三回言ったのだけど、
どうする?コレ・・・。
水を手に入れるにもDPが要るのに・・・。
「積みじゃねえかぁァァァァァァ!」
私――堀川 潤の異世界生活は・・・
始めっからクライマックスなようです・・・。