越木です。
何か色々溜まったので書いてたら結構書けたので投稿。
「うむぅ……ん。」
ピピピッと鳴り響く電子音が真っ暗な部屋の中で鳴り響き、部屋の主がのそりとその身をベッドから起こす。
眠そうな目をこすりながらいまだ鳴り続ける目覚まし時計を手探りで探し、起こされたことの鬱憤をはらすようにソレを殴打する。
ビッ!という明らかに鳴っちゃいけない音と共に電子音が止まり、部屋の主……俺は朝飯を作りにキッチンへと這いずっていった。
「休日なのに目覚まし止め忘れてたよ畜生……。」
昨日の自分への呪詛を撒き散らしながら簡単な朝食を作り、こんがりと焼いたチーズトーストを冷ましつつ朝の用意をしていく。
乱雑にカーテンを開いて朝日が差し込む中、ケータイに何かメールが来ていることに気づいて程よく冷めたトーストを齧りながらソレを片手で開く。
離れた場所の家族からの定期連絡以外に使われることがなく、ホコリをかぶっていたボロのケータイの長い起動時間を待つと、大好きなアニメキャラの笑顔の待ち受けと二通のメールを示すアイコンが表示された。
いつもの家族からの定期連絡のメールの他にもう一通メールが届いていた。
誰から来た?
送信元を見てみても見覚えは……無い。
関係ないと思った事は直ぐに忘れる性格なので確実に他人だとは言いきれないのが嫌なところだ。
「うーん……。
何のメールだろ……。」
かこかこと反応の悪いメタリックブルーのボタンを押し込んでその謎のメールを開いてみる。
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あんさんは選ばれたんやで!
異世界を救うために、頑張って敵倒してくれへんか?
期限としては、三日後までや!
ええ返事待っとるで!
まぁ、返事なかったら同意とみなすんじゃけどの。
ほな!
by.いせかいのめがみさま。
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何だこれ……。
新興宗教の勧誘みたいな変なメールだった。
日曜日にしか定期連絡のメールが来ないからケータイを代金の節約のために電源を切ったまま放置しっぱなしだったので、到着してから既に二日の時が経過してしまっていた。
ほぼ引きこもりで休日にする事といえば寝る事しか無い高校生。
外見はよくも悪くも無いって感じのフツーのヒト属ヒト化の生物だった筈だから……。
こんなの内容が本物だとしても自分なんて選ばれる筈がない。
189と背が高い事と、意味もなく鍛えたせいで質の良い筋肉が全身を覆っている事はこれには関係ないだろうし。
だって、ゲームにラノベ読書にサイクリング三昧でチートに成りそうな知識もそこそこすらなく、もはや無に等しい。
しかも、転生で体が強靭になろうと危険に首を突っ込んで死ぬ自信がある。
自分の価値観からして奴隷制度とかあたりの面倒な問題に真っ向から逆らって数の暴力で剃り潰されるのが目に見える。
というか、女神なのになんでなんちゃって関西弁なんだよ……。
まぁ、友人曰く関西弁って感染するらしく暫く大阪の人とかと喋るといつの間にかこんなのになってしまうらしいが。
ビリケンさんでも友達なのか?女神。
日本の中で関西限定の神様と言えばビリケンさんだし。
あ、ビリケンさんは尖った頭と釣り目の子供の姿をした神様で、大阪の新世界にいらっしゃる幸運の神様の事で、日本に限らなければアメリカにもいらっしゃるらしい。
噂で聴いただけだけど。
――話を戻すと、こんなもの有り得ないって訳だ。
返信したら最後、いわゆるフィッシング詐欺にあってアドレスを抜かれ、スパムメール辺りが洪水で流れてくるだろう。
「消すか。」
削除ボタンを5回ほど連打して、消去する。
連打するのはただの気分だ。
削除した勢いそのままに家族に生存報告のメールを送り返して電源を切る。
液晶がブツンと音を立てて消えたのを確認して布団に投げ込み、トーストの欠片を掃除しながらトーストを乗せていた紙皿をゴミ箱にぶち込む。
ペット達に各自の固形飼料を投げ込み、今日やるべき事はそこで終了する。
残りはやりたい事をやるだけだ。
「さて、次はなんの小説を読もうかな。」
まだ暖かさの残ったままの布団に潜り込んで、積み上げた本の山から一番上の本を開いて読み始める。
今読んでいるのは、風呂っていいよねって人が書いている異世界物だ。
なんでそんなユーザー名にしたかは流すとして、だ。
主人公がチートなのに現地民がそれを超えるチートだし、魔法使う為に魔法使いに弟子入りしたら解体されそうになってるし。
しかも勇者と魔王居るのに、魔王は人間だし勇者はやる気ないし。
と、いった内容で、まるで見たままを描いたかのような魔法や世界観の描写がなかったら絶対書籍化していなかったであろう作品だ。
よく、エタらずにここまでの文章を書けたものである。
と、そんなわけでネット小説やらラノベやらを読みふけっている内に、あのスパムめいたメールのことなんざ頭の中の粉砕機にかけてしまった訳だ。
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~翌日~朝
アパートのカーテンを開けると目の前にシスターが干されてたりする訳でも、一面焼け野原にいつの間にかなっている訳でも、異世界に既に踏み入れている、なんて訳でも無く。
何時もの朝だ。
カラカラと勢いよく回しぐるまを回すハムスターを眺めながらいつもの朝食を食べ、
横に置いてあるケージのウサギと目の前のハムスターの餌皿に固形飼料を一掴み、
後ろの亀の水槽へとひとつまみの飼料を投げ入れる。
ガツガツと各人が、いや各動物がエサを頬張るのを見ながら、制服へ着替え、教科書を鞄に詰めて学校へ行く準備を始める。
「てめえら!脱走するんじゃないぞ!そとは危ないんだからなっ!フリじゃねえぞっ!」
炊いていない米を餌皿に盛って床に置いてウズラに食べさせた後、気持ちだけだが仲間たちに声をかける。
ベランダから落ちでもしたら大変だし、ペットの轢死体を見るのは心が折れる。
前にやらかした時には友人から自殺するんじゃないかとまで心配されたくらいだし。
野良猫が入って来て荒らされないようにように窓をきっちりと締め、
ウズラをゲージに入れ、
玄関のニホントカゲの水槽にに冷蔵庫から握ってきた冷凍コオロギを入れて玄関の扉を開く。
「ちゃんと留守番してるんだぞっ!」
両親に借りてもらったマンションの鍵を確かに締め、履きなれて柔らかくなった革靴をアスファルトに叩きつけるように走り、閉まり始めた校門へ飛び込む。
教育指導の先生のギリギリだった事へと小言を聞き流して教室へ向かう。
さて、また代わり映えもしないただの日常が始まる訳だ。
通学鞄を忘れた事に気がついた頃にはもう手遅れでちょっとだけ何時もとは違う一日になったのは内緒だ。
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放課後。
校庭にある誰も整備しなかったせいで中身がヘドロ化しているなんちゃってビオトープを自主的に清掃もとい、ペットの餌集めをして兎への手土産にすべく気付かれにくい場所のぺんぺん草をこっそり貰っていく。
m級にでかくもっさり育った草を持ち、もうそろそろ帰ろうと振り向いた時、ソレは背後から現れた。
「期限やでーっ!」
は?
何処かから歌手にでもなればソプラノ歌手として一財産稼げそうなくらいに綺麗な声が響き、ちょっと汚くて油が浮いてたけれど底が見えない程では無かった水面がサイケデリックに濁り、アニメの毒沼みたいな感じに紫のドロドロとした模様が出てそこからヘドロまみれの手が生える。
「一名様、ご来場ーっ!」
いきなり沼から出てきた女性の腕に制服を掴まれ、そのまま引きずり込まれる。
そこら辺の木の棒をその人物の居そうな場所に何度も振り下ろすが手応えがなく、その腕の細さからは想像出来ないほどの怪力で引きずられて沼へと引き込まれていく。
マズイっ!何か分からないけどマズイっ!
「放しやがれっ!
ってうわあぁぁぁあっ!」
ぬかるんでいた泥に足を取られ体勢が崩れたのが運の尽きで、謎の腕に水面へと体が引き寄せられ……。
トプン
水面に一つの波紋とプリントの入ったビニール袋一袋をその場に残して俺はこの世界を去ったのだった。
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「かはっ、けほっ……。」
口の中に入ったザ、毒としか言えない味のヘドロを吐き出し、その味の酷さに勢いで昼飯を吐き出す。
……うぐぅ、胃酸のせいで喉が痛てぇ……。
よくある異世界ラノベみたく、目を覚ますとそこはきらびやかな神殿だった……
という訳でもなく、高級感とはかけ離れ過ぎている光景……すきま風が吹く隙間が塞げないほど沢山ある木製の小屋。廃屋だ。
目の前でガッツポーズをして雄叫びみたいなのをあげているのは所々に露出している肌だけは綺麗な大人な女性。
所々に、といったのは顔以外の部分が泥沼でシンクロナイズドでもしたみたい服も肌も泥のないところを探すのが厳しいくらい泥まみれだったからだ。
自分で切ったのか、不揃いでバサバサな黒い短髪と伸ばしっぱなしの長過ぎるポニーテール。
背は二m行くか行かないかの長身。
顔はすこし痩せた感じで、たれ目。
鼻筋は通っているものの、肌は荒れ気味。
あと、ついでにいえば泥化粧で美貌が殆ど台無し。
何?なんなの?この人。
状況からしてラノベとかでよく見る異世界転移系な感じなのだろうけど……。
説明も無しでかれこれ5分位放置されてるんだけど……。
「やっと見つけたんやで・・・。救世主。
ついにわいの所にもメシアがやってきたんじゃあぁ・・・。」
──そこ、喜んでないでなにか説明をしてくれよ……主犯でしょうに……。
「事情を説明してくれないか?誘拐犯さん。メシアだなんて覚えが無いんだけど。」
「あぁ、あんさんにはメールをした筈やん?貴方は選ばれたんやでって。
ついでに言うと、ワイはあんたの読んでた小説の作者、風呂っていいよね、や。
読んでくれてありがとな、
で、私の生活のためにも世界を救ってくれんかっ!」
そう言われてもねぇ……。
「ヤダ。もっと具体的に言ってくれ。」
え……と女が固まり、しばらくして再起動した女性が図鑑サイズの本を取り出して、押し付けられた。
「具体的な所は此処に書いてあるから!
世界のバランスが崩れかけてるんやから、ダンジョンの主になって、私の異世界のエネルギーを再吸収して欲しいんやっ!
報酬もたっぷり用意するし、なんならあんさんの部屋の中身もダンジョンの初期部屋のうちの一つに入れたる!
更にあんさん以外許可した奴を除いてその部屋に入れなくするロック機能もつけて……どや?
将来の夢、決まってないんやろ?高三なのに、まだ。」
「そこを抉るなっ!
まぁ、好条件だな……。
世界観はお前の小説の通りでいいんだよな?
基本的な現代ファンタジーで円状の世界。
四分割するみたいに山が富士山くらいの山がありジャングル、雨ばかりの土地と川、火山と砂漠、怪鳥どもの山脈、の四つの地域があって、
大きな国はジャングルを除く地域にあってそれぞれ一つづつでほそぼそ。
これで認識はOKか?」
「おkや。
条件を飲んでくれるか?
あ、異世界によくあるチートスキルは4つまで今は行けるけど……あとは報酬で頼むな?
いまのワイのエネルギーは世界の維持と
あんさんの召喚だけできつきつやねん。
すまんな。」
──うーん。
その範囲だとトカちゃんが置いていかれてしまうな……。
「そこまで言うなら飲もう。
持ち込むのを自分の部屋だけじゃなく、家全体にするならね。
玄関にいるトカちゃんが取り残されてしまう。」
「えーーっと。
そいつの居る水槽を部屋へ転移させればええんやないと・・・痛い痛いっ!ギブギブっ!」
「トカちゃんをそいつ呼ばわりするな……っ!。」
トカちゃんをトカちゃんと読んでいいのは育てた私だけなのに……っ!
怒りのままに目の前の敵の頭蓋骨をへし折らんべく、力を入れていく……。
──放置した挙句失言をしてくれるってのは流石にちょっと位起こってもいいよね……。
今ならリンゴだって絞れる気がする。
ビクビクッと女神の手足が痙攣し、抵抗しなくなってだらりとしたところで力を抜いて地面に落とす。
──ちょっと冷静になったし。
「ヒュゥゥ・・・ヒュゥゥ・・・。
死ぬかと・・・思った・・・。」
呼吸困難に成っていたのか、肺炎でもしているんじゃないかって息の音をしているが、関係無い。
──というか、標準語に戻った……。
やっぱ、無理して言ってたんじゃないか。
呼吸を整えた後土下座している女神を横目で見つつ、説明を聞くのを続けるとまたもや何かしらのミスをしてちょっとにらんで土下座をする。
こういうやり取りを暫く繰り返し、
チートの他にペット達の不死性が追加された。
「じゃぁ、世界の循環さえ元に戻せれぱいいって事だね。」
「そうやで。
出発はそこのドアから頼むな?」
「わかった。
無礼っぽい事もしたし、なるべく早く達成出来る様に努力するよ。」
「そうしてくれると助かるわぁ……。」
手を振る女神を背に、
建付けの悪い異世界へのゲートという名の木扉を開いた。
さぁ!冒険の始まりだっ!