盗まれた雷神
「諸君らに緊急で集まってもらったのはほかでもない。先日、雷アリーナでの進入獣事件のことで緊急に報告すべき事案が発覚した。これは極秘情報のため、各アリーナの最高責任者と施設管理主任者以外には内密に願いたい。進入獣がどこの国の召喚獣かは、現在その亡きがらを解剖して割だしを急いでいる段階だ。だが、今回は、そこは最重要の問題ではない」
「というと?」
「うん。どうやら、その進入獣は陽動だったようなのだ」
「陽動というのはつまり、注意をそらすためにつかわれたと?」
「ああ、そういうことだ」
「では、最重要の問題とは?」
「・・・雷神が盗まれた」
「雷神が?」
「まさか」
「そんな」
「何重ものセキュリティをくぐりぬけて、犯人は雷神が封印されている羊皮紙を持ちだした。だが、封印を解く方法が記述されている羊皮紙は別に保管してあったため、無事だ。よって、すぐに封印が解かれるという事は考えにくい」
「だか、解読される可能性はゼロではないと?」
「・・・」
「犯人の目星は?」
「それも現在捜査中だが、どうやら内部に他国のスパイがまぎれ込んでいたようだ」
「なるほど。それならば、アリーナに張られた結界を素通りできた理由がわかる」
「起きてしまったことはしかたない。なんとしてでも犯人を割りだし、取り返すことに全力をそそぐ。それに加え、施設管理主任者の方々は火神、水神、土神、木神の保管、管理、運営に対して、改めてセキュリティの強化をはかってもらいたい。二度とこのようなことが起こらぬよう、諸君らもくれぐれも注意してくれ。私からの話は以上だ。なにかこの機会に確認しておきたいことはあるか?」
「・・・誰が犯人か、ある程度目星がついているんじゃありませんか?」
「・・・」
「各神の保管場所やセキュリティの情報を知っている者は、内部の人間でもそう多くはない。陽動をつかったところで、簡単に持ちだせるようなものではないでしょう」
「ああ、その通りだ」
「やはり目星が?」
「・・・何名か重要参考人として話をきいている。だが詳しいことは、たとえ同国の召喚獣関連事業者の方々であっても、まだお教えすることはできない」
「雷神の力を悪用されては、国などわずかな時間で滅びますぞ」
「この件に関して、上層部の進退についてはどうなされるおつもりで?」
「その件に関しても、いまはまだ何もお教えできない。まずは雷神を取りもどすことが先決だと考えている」
「各アリーナから優秀な生徒たちを集めて、捜索にあたらせるというのはどうでしょう?」
「その選択も、場合によっては・・・」