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ンザンビの召喚士  作者: 鰯 寛之
プロローグ1
5/113

コーネリアス・ウィザード

「まあ、主要しゅよう施設しせつはざっとこんなとこだな。なんか質問あっか?」


 ライトニング・ウルフが振り向くと、そこにウィトの姿はなかった。しばらくして、ウィトが大汗おおあせをかきながらよろよろとやってきて、ライトニング・ウルフの前までくると、床にへたり込んだ。


「は、速すぎるよ・・・」


 ウィトが息を切らしながら言った。


「なに言ってやがんだ。まだ10分の1もスピード出してねぇぞ」


「な、なにか飲みものがほしい・・・のどがカラカラだよ」


「ほら、そこに自動販売機があんだろ。全部無料だ。好きなの飲め」


 ウィトはその自動販売機のところまでくると、とりあえず一番端の緑色の飲みものを選んだ。


 缶を開け、一気に口の中に流しこむ。と、あまりの苦さにすべてを吐きだした。


「まずいよ。なにこれ」


「それは陽獣ようじゅうの飲みもんだからな。陰獣いんじゅうのやつらは、その隣の自販機だ」


「それ先に言ってよ」


 ウィトは再び自販機の前までくると、水のボタンを押した。

 ライトニング・ウルフは、ウィトがベンチの上に置いた緑色の缶を口にくわえると、上を向いて口の中に流しこみ、空になった缶を吐きだした。


「いっしょにてといてくれ」


「うん・・・」


 ウィトがその空き缶をひろう。


「ねえ、さっき言った陽獣と陰獣ってなに?」


 ウィトが水をひとしきり飲み終わったあと、きいた。


「そんなことも知らねぇのか、おめぇさんは。簡単に言うと、陽獣ってのはおれみたいな容姿のやつで、陰獣ってのはお前みたいなやつってことだ。つまり、人間の形をしているか、そうじゃないかってこと。なかには区別のはっきりしないどっちつかずのやつもいるから、一概には言えねぇが、俺とお前は間違いなく陽獣と陰獣だ。まだこんなことまで話す段階だんかいじゃねえかもしれねぇが、いずれ知ることになるから今言っちまうと、陽獣と陰獣は、生まれながらに格差がある。もちろん表向きは平等ってことになってるが、この飲みもん一つとっても、多くの陽獣には不便ふべんだ。陰獣のほうが手先が器用なやつが多いから、陽獣は多くのことで陰獣の手をかりなきゃならねえ。まっ、おれぐれぇになると、たいていのことはひとりでできるが、なかにはそのことで陰獣を目のかたきにしているやつもいるぐらいだ。だから、もしおめぇもここでやっていく気なら、そのことは忘れないほうが身のためだぜ。おれみてぇに物わかりのいいやつらばかりとは限らねぇからよ」


「・・・うん」


「さぁ、もう休憩きゅうけいは十分だろ。そろそろ行くぞ」


「どこに行くの?」


「お前の住むことになる部屋さ。ランクの低いおめぇさんは、3体部屋で暮らすことになる。ランクを上げていけば単独部屋になったり、部屋が広くなったり、執事しつじがついたりする。そこに関しては陽獣も陰獣も公平だ。強い者が上にいける」


「じゃあ、ライトニング・ウルフさんの部屋は相当おっきいんでしょ?」


「単独部屋ではあるが、広さは普通だな。まだ執事もついてねぇ。おれもまだここの学生だし、アルバイト契約けいやくでおめぇみてぇな新人相手にこういった仕事をしてるだけだーーおれの話はどうでもいいだろ。さぁ、いくぞ」


「うん」


 ウィトは空き缶をゴミくずに入れると、手綱たづなを手にとった。


「もうちょっとゆっくり行って。もう足がパンパンだよ」


「ああ、わかってら」


 と、そのとき、物陰ものかげから声がした。


「ーー新人のくせに生意気なんだよ、てめぇ!」


 ライトニング・ウルフがそちらを素早くふりむくと、うなり声をあげた。ウィトがとっさに身をちぢこませる。

 柱の裏側で、うずを巻いた角が頭に生えている、身長3メートル以上ある屈強くっきょうな体をした鬼のような生物が、メガネをかけた華奢きゃしゃな体の人間の胸ぐらをつかんでいた。


「ああ、こっちじゃねぇのか・・・」


 ライトニング・ウルフが何ごともなかったかのように歩き出そうとす

る。


「いいの、助けなくて?」


「まあ、日常にちじょう茶飯事さはんじだしな。だいじょうぶ、陽獣と陰獣のあいだのケンカはよくあることだし、殺しあいのケンカになることは滅多にない」


滅多めったにって・・・たまにはあるってこと?」


「まあ、そりゃ、たまにはね。こんだけエネルギーの有り余ってるやつらが集まってんだ。そういうこともあるだろ」


 その時、メガネの青年がその鬼の太い手首をつかんだ。


「水属性だからってなめないでもらいたい。いくら雷属性が弱点だからって、きみみたいなザコにやられるほど、ぼくは弱くない」


 メガネの青年は鬼の手首をひねって、その巨体を軽々と倒すと、右手のひらを床につけた。


「頭を冷やせ、このうすのろ」


 とつぜん床がうねりはじめ、鬼の体か床のなかに沈んでいった。鬼は必死にもがくのだが、あっというまにのみ込まれていき、完全にのみ込まれたあと、床がゆっくりと元の状態にもどった。

 メガネの青年は着ているジャケットのえりを正すと、何ごともなかったかのように歩き出した。


「あのおっきな人、どこ行っちゃったの?」


 ウィトがライトニング・ウルフにそっときいた。


「だいじょうぶ」メガネの青年は立ち止まると、ウィトのほうを見た。「ぼくは殺生せっしょうは嫌いなんだ。殺しはしてないよ。この階の真下って、何があったか知っていますか?」


「たしか陰獣用のトイレじゃなかったかな?」とライトニング・ウルフ。


「きっと彼はそこで頭を冷やしていることでしょう」


 メガネの青年がウィトに手を差しだした。


「初めまして。わたしはコーネリアス・ウィザードといいます」


「ぼくはウィトン・シュタールです」


 ウィトが手を握ると、コーネリアスが電気を感じてすぐに手を引っ込めた。


「ごめんなさい・・・ぼく、まだ自分の力をうまくコントロールできなくて・・・」


「いや、いいんだ。ぼくが水属性の陰獣だから、きっと敏感びんかんに感じただけだと思う」


「水属性って事は、きみはここで水と雷の混合こんごう属性ぞくせいを身につけようとしているのかい?」


 ライトニング・ウルフがきいた。


「ええ。水属性にとって雷は弱点ですが、弱点は強みにもなる。通電性つうでんせいの高い水と雷の組み合わせは、使い方によっては強力な攻撃力を得られます。水属性に関してはマスタークラスまでいけたので、今度は雷属性のマスタークラスを目指そうと思い、先月ここに来ました。ただ、もともと持っている属性ではない種類の属性を獲得かくとくするのは、やはり並大抵なみたいていの努力ではできませんね。きみもここの新入生?」


 コーネリアスがウィトにきいた。


「ええ、まあ。まだ正式に決まったわけではないんですけど・・・」


「そう。機会きかいがあったら、また一緒になれるといいね。きっときみのほうが雷属性に関してはうわてだろうと思うから、その時は僕にいろいろアドバイスしてくれたら嬉しいよ」


「いえ、そんな・・・」


 ウィトがずかしそうにうつむく。


「それじゃ、私はこれで」


「さようなら」


 コーネリアスが去っていった。


「かっこいい人だね」とウィト。


「・・・におうな」


「におう? なにが?」


「いや、こっちの話だ。さあ、おれたちも行くとしよう。ずいぶん時間くっちまったからな」


「いいけど、もう走るのなしだからね」


「・・・ああ、もうめんどくせえなぁ」


 ライトニング・ウルフがウィトの前にやってきて、背中越しにふり返った。


「乗れ」


「えっ? いいの?」


「今日だけ特別だ」


 ウィトがライトニング・ウルフにまたがった。


り落とされねぇよう、しっかりつかまっとけよ」


「OK」


 ライトニング・ウルフがもうスピードで駆けだした。

 ウィトはその背中にしっかりとしがみついていた。


 陰獣用のトイレの個室。下の階まで水没すいぼつした鬼は、逆さまの状態で便器のなかに頭をつっこんだまま、気を失っていた。


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