ウィトの特訓
市街地から遠く離れた森で、ウィトはコーネリアス・ウィザードの指導のもと、力のコントロールの仕方を学んでいた。
右手を前方にかかげたウィトが、一本の大木にむかって雷を放出する。雷は放射状に散っていき、その大木をわずかにかすって消失した。かすった部分に焦げ目がついた。
「ええ、だいぶ良くなってきました。雷のエネルギーはうまくコントロールしないと、あたりに分散してしまう性質があるので、糸を紡ぐように、雷のエネルギーを一本にまとめなければなりません。その感覚をつかむには、こうやって実際に何度も的を狙う必要があります」
二人から少し離れた場所で、アイリス・クローシスが折りたたみ椅子に座って読書している。その傍らにアース・サンドロビッチが腕を組んで立っていた。
「別にあんたはいなくてもいいのよ」
アイリス・クローシスが本から目を離さずに言った。
「俺は、お前を完全に信頼したわけじゃねえからな。お前たちが少しでも妙なマネをしたら、すぐに戦闘態勢にはいれるよう、監視しておく必要がある」
「今のあなたに何ができるの? はやくその腕、治してくれない? 穀潰しもいいとこよ」
「そういや、あのちっこいヤツはどうした? お前の肩に乗ってたやつ」
「レオン・ド・シールズは別の仕事をしてるわ。あなたよりもよっぽど仕事ができるわよ」
「何の仕事だ?」
「どうしてあんたにそんなこと言わなきゃならないのよ?」
アース・サンドロビッチが疑いの目をむける。
「・・・まあいいわ。彼は今、ウィトン・シュタールが住んでたマンションにいる。ウィトン・シュタールそっくりに擬態してね」
「なんでそんなこと?」
「どうやら、あの部屋は24時間体勢で監視されているようなの。レオン・ド・シールズは私たちの目には見えない不可視光線も見えるらしくて、彼が言うには、壁の至るところから人工的な光線が伸びているそうよ」
「ってことは、国の機関がウィトン・シュタールを監視してるってことか?」
「間違いないわね」
「なんのために?」
「彼の能力が貴重だからよ。あの雷神すらもあっけなく消失させてしまう能力なんて、前代未聞の大事よ。多少の知識がある者だったら、誰だって彼に興味を抱くと思うわ。敵、味方問わずね」
「お前もそのひとりってか?」
「否定はしないわ。私も彼の能力には興味がある。その能力の仕組みを研究できるのならば、月100万クーンツなんて激安もいいとこ」
そのとき、ウィトの手から放たれた雷が一直線に大木の根元にあたり、大木は破裂音とともに真っ二つに割れると、ゆっくりと地面にへし折れた。
「すばらしい!」
コーネリアス・ウィザードが言った。
ウィトはその光景を見て、呆気にとられていた。
「すばらしいわ」
アイリス・クローシスは立ちあがると、二人に近づいた。
「ウィトン・シュタール、あなたの成長ぶりには目を見張るものがあるわ」
「あ、ありがとうございます」
ウィトが軽く会釈しながら言った。
「まるで泉のようにエネルギーが湧き出てくるようです」とコーネリアス・ウィザード。「この分だと、私なんてすぐに追い抜かれてしまいますよ」
「この調子なら、半年後の召喚獣能力検定試験にチャレンジできるかしら?」
「実技に関しては問題ないでしょう。あと学科試験をどうパスするかですね」
「学科に関しては私が教えるわ」
「なんだ、召喚獣能力検定試験って?」
アース・サンドロビッチが言った。
それを聞いて、アイリス・クローシスがどん引きする。
「・・・あんた、本気で言ってるの? 何年召喚獣やってんのよ? どれだけ世間知らずなの?」
「仕方ねぇだろ。養成学校は3ヶ月で辞めちまったんだから」
「はっ? あんた、履歴書に嘘書いたの? 最終学歴は養成学校卒業になってたわ」
「あっ・・・そうだったか?」
「それ、完全に犯罪よ。経歴詐称は、召喚獣にとっては大罪よ」
「別に強けりゃいいだろ。なにも、敵とテストの点数で戦うわけじゃねえしよ。腕っぷしさえありゃ、勉強なんてできなくてもやっていけんだよ」
アイリス・クローシスがニヤリとした。
「いいこと考えた。あなたも一緒に召喚獣能力検定試験を受けなさい。ライバルがいたほうが、いい刺激になるし。もしそこで不合格になったら、今度こそクビよ」
「ちょっ、待てよ! なんで俺が、そんなひよっこが受けるような試験を受けなきゃならないんだよ!」
「当然受かるわよね? なんてったってひよっこが、召喚獣としての一般的な能力をはかる試験なんだから。まさか経験豊富なあなたが、そんな試験で落ちるなんてことはないわよね?」
「・・・」
「よし、決まりね。検定料は私が持つから安心して。あなたたちは残りの時間をフルに活用して、訓練に励むように。それがあなたたちに課せられた当面の仕事よ」




