ライトニング・ウルフ
リーディアとウィトは廊下にでた。
廊下といっても、横幅が20メートル、高さが10メートルもあり、ドームを一周している通路のため先細りして、どこまで行っても突き当たりは見えなかった。
「学校のなかを紹介するわ。正式に入学するかどうかはその後に決めればいい。ちなみに入学費用や授業料、生活費は国から出ているから安心して。あなたは命一杯、その才能を伸ばせばいい」
「召喚獣って、いったい何をするの? 敵がいるの?」
「ひと昔前は小規模なパーティに所属している召喚士に仕えることが多かったんだけど、今の時代の召喚獣は国に仕えるものがほとんどよ。つまり、国同士の戦争の兵器として、召喚獣を必要としているの。召喚士が国家資格になったのが今から20年ほど前で、それ以降は勝手に召喚士を名乗ることができなくなった。もちろん召喚獣もただ強ければいいという時代は終わって、国に認められるために品行方正さを求められるようになった。民間人までやたらめったら攻撃するような召喚獣は、国によって牢獄に入れられるか、処刑される。もちろん、召喚士も同じで、無登録の召喚獣を雇ったり、召喚獣を悪用すればそれなりの罰があるわ。ちなみにあなたをここに連れてきたのも、事前に裁判所の許可を受けた上でのことよ」
リーディアが床に両手のひらをつけた。
「!!! ライトニング・ウルフ 召喚 !!!」
漆黒のサークルから全身に黄色いオーラをまとっている、全長2メートル以上あるオオカミのような生物があらわれた。
「ここからはあなたに任せるわライトニング・ウルフ」
リーディアが言うと、ライトニング・ウルフがふり返った。
「お安い御用だぜ、リーディア」
ウィトはその生物が喋ったことに驚いた。
「しゃ、喋った・・・」
「ここにいる子の多くが喋れるわよ。まれに言葉がわからない子もいるけど、そういった子にも言葉を教える授業がちゃんとある。共通の言語がなければ契約もなにもないしね。ライトニング・ウルフ、この子まだ力をうまくコントロールできないの」
「ああ、なるほど。まったく問題ねぇ」
ライトニング・ウルフはそう言うと、自分の首から伸びている手綱をくわえ、それをウィトに差しだした。
ウィトがリーディアの後ろに隠れる。
「大丈夫よ」
リーディアがかわりに手綱を受けとった。
「そこから電流を流して、おめえの力を相殺してやるってんだからありがたく思いやがれ、ちくしょうめ」
ライトニング・ウルフが言った。
「この子、口は悪いけど、とってもいい子だから」
「リーディアさんは行っちゃうの?」
「わたしもそれなりに忙しいの。担当している他の子もいるしね。大丈夫、なにかあればすぐに駆けつけるわ」
ウィトが手綱を受けとった。
「それじゃよろしく頼むわね、ライトニング・ウルフ」
「よっしゃ、じゃあ行くとすっか。なにがあっても、ぜってぇ手綱離すんじゃねえぞ」
ライトニング・ウルフはそう言うと、体を上下に動かしながらかけ出した。ウィトが前方に引っ張られる。
「ほら、なにしてやがんだ? ちんたらやってたら日が暮れちまうぜ」
「ぼく、かけっこ苦手なんだよ」
「だったら、もっとスピードあげっぞ。たくさん走りゃ、そのうちかけっこが得意になっぜ」
ウィトはライトニング・ウルフに引っ張られながら、必死にあとについていった。
リーディアはそれを見つめながら微笑んだ。
「さてと・・・」
リーディアは再び両手のひらを床につけた。
「!!! ディメンション・フラッパー 召喚 !!!」
漆黒のサークルから、ガイコツが大きく口を開けているようなデザインの黒い扉があらわれた。リーディアはその扉をあけ、なかに入ると、姿を消した。