アース・サンドロビッチvsコーネリアス・ウィザード 4
アース・サンドロビッチが両手の力をゆるめると、コーネリアス・ウィザードが巨大な土の手のなかでぐったりとした。
剣山に串刺しになっていたシャチの体が、水になって流れ落ちた。
海水面の水嵩が急激に減少し、元の土のフィールドに完全に戻った。
「さあ、もう降参しろ」
アース・サンドロビッチが促すが、コーネリアス・ウィザードはぐったりしたまま不気味な笑い声をあげた。
「なにがおかしい? 気でも狂ったか?」
「終了よ! やめなさい!」
アイリス・クローシスが血相を変えて駆け寄ってきた。
アース・サンドロビッチがアイリス・クローシスを一瞥する。
「ご主人様が終了だとよ。俺の勝ちだ。惜しかったが、詰めが甘かったな」
「まだだ・・・」
「まだ? 強がりはよせ。これ以上やったら本当に死ぬぞ?」
「アイリスさん、離れていてください。勝負はまだついていません」
コーネリアス・ウィザードが言った。
アイリス・クローシスがその言葉に立ち止まる。
「きみの言ったとおりだ」
コーネリアス・ウィザードがアース・サンドロビッチに顔をむけて言った。
「私がもっている水属性の技のなかで、物理的に攻撃できるものはほとんどない。まったくないわけではないが、実戦に堪えうるものには到底及ばない。そもそも、火、雷、土にくらべて、水と木は補助系に特化した技が多いから、致し方ない面もある。だが、一つだけ間違いがある。私は、物理的に攻撃できる技がほしくて雷を修得しようとしているわけでは決してない。複属性を得るうえでの醍醐味はなにかわかるか?」
「こんなところでレクチャーか? 時間稼ぎはやめて、はやく降参しろ」
「属性変質だよ。複数の属性エネルギーを体内で混合することで、新たな属性を産みだすことができる。こんなふうに・・・」
そのとき、とつぜんアース・サンドロビッチがうろたえはじめた。
「どうなってる?」
「時間稼ぎ? ご名算。まだ混合エネルギーを扱うのは不慣れなもので。下手にエネルギーを放出すると、自分もろとも凍結しかねない」
「凍結?」
「放射冷却の原理だ。まあ、きみに話しても理解はできないだろうから、知りたきゃウィキペディアででも調べろ」
「くそっ・・・手が・・・」
アース・サンドロビッチの巨大な土の手が、徐々に氷に覆われはじめた。氷は接地している地面にまで伸び、巨大な土の手と地面をくっつけた。
「自分の力を過信すると、最終的に痛い目をみるのは自分だということだ。いい教訓になったろ?」
コーネリアス・ウィザードが巨大な土の手から抜け出そうと、体を持ちあげようとした。だが、巨大な土の手が氷の層によって膨張したため、身動きがまったく取れなかった。
「・・・おい、もう諦めて、俺の体から手を離せ」
「離したくても、固まって動かねぇんだよ! お前こそ、はやくこの技を解きやがれ!」
「それはできん」
「なに?」
「だから言ったろ? 混合エネルギーを扱うのは不慣れだって」
「ふざけんな! 解き方もわからねえ技を実戦で使うんじゃねぇ!」
「だが、この勝負は私の勝ちだ。このまま時間が経てば、腕をつたって、きみの体自体も凍結するからな」
「・・・ちょっと待て。だとしたら、お前だって凍結するんじゃないのか? どちらかというと、距離的にはお前の体のほうが近いぞ」
コーネリアス・ウィザードは一瞬固まると、あわてて体をひねったり、上下に動かして、どうにかして巨大な土の手から抜け出そうと試みた。しかし、一向に抜けられる気配はなかった。
アース・サンドロビッチがニヤリとした。それを見て、コーネリアス・ウィザードがギクリとする。
「この勝負は俺の勝ちだ。俺は最悪、この腕を切り離して、お前を蹴り殺すことができるからな」
「そうなれば、俺は混合エネルギーを放出して、お前もろとも凍結するだけだ」
「あっ、そっか、別に蹴り殺す必要なんかないか。時間が経てば、どうせお前の体は凍結するんだから、俺は遠くから眺めてればいいんだ」
「よし、わかった、こうしよう」コーネリアス・ウィザードがあわてて言った。「今日の戦いはドローということで、また日を改めて行う方向で・・・」
「ぜんぜんわかってねぇよ! どう考えたって、今の状況はお前のほうが不利だろ」
「アイリスさん、話し合いが終わりました! 今日のところは引き分けということにします!」
「違う! こいつが勝手に!」
「どうでもいいけど、さっきからあんたたち何してんのよ? お喋りしに来たの?」
「アイリスさん、早いところトランスポート・サークル、お願いします。詳しいことは後ほど」
「もう。こんなところまで、いったい何しに来たのよ? まったく・・・召喚!」
アイリス・クローシスが不満そうに言った。
トランスポート・サークルがコーネリアス・ウィザードの頭上に出現し、彼の体を吸いとった。
「アディオス」
コーネリアス・ウィザードが去り際に言った。
「ふざけんな!」
凍った巨大な土の手にすっぽりと空洞があいていた。
アース・サンドロビッチが二、三度、腕を引っぱってみる。
そこでようやく自分のおかれた状況を理解した。
「おい、ちょっと待て! どうすんだ、これ!? どうすんだ、これ!?」




