雷神進撃
地は割れ、森は傾き、空は灰色に染まった。
動物たちが震源からすこしでも離れようと、われ先に駆けだす。
「鬼だ! 鬼が出たぞ!」
町民の男が空を見あげながらいった。その瞬間、雷鳴が轟き、その町民の男は世界から消失していた。文字通り、血肉の一片も残らず消失していた。
電線をつたって流れた高圧電流は、各家庭のコンセントをたどって建物内にまで進入し、家電から空気中に放電された電気によって、民家に逃げひそんでいた町民たちは、ことごとく感電死した。彼らは自分の身になにが起こったのかわからないまま、息を引きとった。
建物、森、しまいには何もない土地の地面からも炎があがった。それはまるで、地下からマグマが押し寄せているかのような光景だった。
人々は逃げまどい、恐怖に泣きさけび、神に祈った。目の前に突然あらわれた鬼が、実は神だとはみじんも思うことなく。
筋肉隆々(きんにくりゅうりゅう)の身体をもつ雷神は、まるでジオラマを踏みつぶすかのように、町にひとつだけある教会を踏みつぶした。そこに神父の姿はすでになかった。いち早く危機を察した神父は、町外れにある自宅の地下のシェルターにひとり逃げこんでいた。だが、そこも安全ではなかった。そのシェルターにも40ワットの電球が備え付けられていたからだ。もちろんその電球に明かりをつける電気も、発電所から電線をつたって送られた電気だった。神父の心臓は、その電球が破裂したのとまったく同時に、破裂した。
空気中をただよう弱電流のせいで電波障害がおき、外部との通信手段は完全に失われていた。町はヘビに睨まれたカエルのように完全に孤立していた。
もはや神の前に救いは何もなかった




