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断罪  作者: RIO
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六十八話 虐殺

ヒルの運転は意外なほどに安全運転で、事故などの心配はする必要がなさそうだった。


でも正直に言うと運転するさまは笑ってしまうほどに似合ってなかった。

何だろう、本当に子供が無理して運転してるみたいに見える。


「どう、初めての運転の感想は?」

「口は閉じたほうがいいですよ。舌をかむと危ないです」

間髪入れずにそう返答するヒル。

そして、ここを見ろと言わんばかりにその指はスピードメータを指していた。

時速はいつの間にか90キロにまで差し掛かっている。

ゾクリとした。

あまりにも平静に運転しているからそんなにスピードが出ていることに全く気付けなかった。

時速はもう100キロに到達しそうだ。

そして目の前には、目的地である三丸刑務所。

私が、慌てて身を縮めた数秒後、バス全体にまるで巨大なバットで殴られたかのような恐ろしい衝撃が襲った。


痛みに顔をしかめながら目を開ける。

体は奇跡的に無傷のようだったけど全身がだるく動きたくない。

たぶん追突の衝撃で前座席に体をぶつけてしまったせいだろう。

バスは三丸刑務所の門を突き破り壁に衝突する形で停車しており、100キロを超えるスピードでぶつかったたためヒルが座っていた運転席は大破していた。


「ヒルは・・・」

大丈夫だろうか?

そんな不安が一瞬よぎったがそれは杞憂に終わった。

なぜなら、外を見れば集まってきた刑務所職員を射殺するヒルの姿が確認できたのだから。


‐自分が警護の数を減らすのであとの皆さんで受刑者達を殺害してください‐

出発前、そう言ってたヒルがどんな方法で職員を襲うのか気にはなっていたけど、まさか大きな事故をわざと起こして助けに来た職員たちを射殺するとは思わなかった。

人の善意や好奇心を利用した罠。

こんな自分も被害をこうむるようなやり方普通はしないだろうけどヒルにその常識は通用しない。

突然の事故に見せかけた予想外すぎる襲撃に職員たちはなすすべなく弾丸に倒れ、いつの間にかその場に立っているのはヒルだけになっていた。

「排除は終わりました。みなさん出てきてください」

その言葉で今までピクリとも動かなかった皆が一斉に立ち上がりぞろぞろと車外へと出ていく。

私は、誰も中に残っていないかの確認のため一番後列に回った。

バスから出ると三丸刑務所の外観が見て取れた。

今までも近くを通りかかったとき目にしたことはあったけど、目にするのはいつも灰色の壁。

けれど、こうして中に入ると大きな建物だけどいたって平凡、これといって特徴のない古い建物だった。

「皆さんは中に入って目についた人物を撃ってください。殺すのが一番ですが今は何よりも被害を大きくすることを優先に考え、相手の動きが止まれば生存の確認はせず次に移ってください。弾丸の数も限られていますしね」

そんな忠告を一通りするとヒルはみんなを刑務所内へとはなった。


私たち二人はいまだバスの前に立ち尽くしたままだ。

正直どう行動すればいいのかがわからない。

ヒルが動かないから何となく私も残ってしまったが、やっぱりみんなと一緒に行くべきだったのだろうか?

困惑する気持ちに答えがほしくてヒルのほうを見るとヒルは何の迷いもなく刑務所の出口へと歩き抱いていた。

「えっ、ヒル!どこ行くの?」

慌ててヒルに静止をかける私にヒルは当然のように。

「ここから逃げます。警察たちがこの騒動で駆けつける前に。犯人のめぼしももうついているでしょうし。貴方は自分についてきなさい、まだ役目があるので」

そう答えた。

「今日で全部終わるんじゃなかったの?」

「終わりですよ、響司の計画であった刑務所の襲撃は成功しました。刑務所内部で暴れているアレ等も警察官と対面すると自殺するように命令しています。道長慶介としても自分も今日で終わりです」

「私は?」

「もちろん、今日終わります。もちろん最後まで使ってあげます」

全部が予定通り、ヒルはそう言う。

そっか、全部思い通りなのか。

「わかったついて行く」

「はい。あと、銃は捨てていいですよあなたにはもう必要ありませんから。ただ弾薬は持っていてください、別に使いますんで」

私は言葉通り銃をその場に置くと同士たちを見捨てその場を去った。



その事件は恐らくこの国の歴史に新たな負の記憶を刻み込んだだろう。

三丸刑務所襲撃事件。

一般市民が刑務所で銃を乱射するという前代未聞のこの事件は発生から二時間ほどで終結した。

襲撃者達は銃で武装しているという報告もあり銃撃戦における負傷も皆覚悟してきたが結末は予想外なものだった。

事件は俺たち警察がこの場につくとすぐに終結した。

なぜなら、犯人たちは一人残らず俺たちと出会った瞬間にその銃で自殺を図ったのだから。

正直これはとんでもない失態だ。

けれど、いったいどうしてこんなことになったのか。

その思いは尽きない。

気弱な発言だがどうしようもなかった。

結果的にはこちらの被害はゼロ、とはなったものの、刑務所職員8名、受刑者13名そして容疑者達七名と計28名の死者を出す大惨事となった。

こんな大きな暴動による大量殺人がこんな街で起きるなんて予想してなかった皆は混乱しながら対応に追われている。

俺もこんな事態に直面するのは初めてで戸惑いを隠せない。

それでも、こうして思考する余裕があるのは年長者としてうろたえる姿を見せれないという一種のプライドと何かが起きるそんな予感があったが故の心構えが俺を保たたせていた。

それにもう一つ一番大きな懸念が残っている。

「岸野さん」

よく見る若い刑事が俺に話しかけてくる。

顔に覚えはあるが名前は覚えていない、たぶんさっき頼んだことの報告に来たのだろう。

「どうだった?」

「はい、容疑者達の遺体すべてを確認しましたが岸野さんの言うような十代の男女の遺体はありませんでした。どれも三十は超えていそうな人たちばかりで。あっもちろん見た目の判断なのではっきりとは言えませんが。容疑者達の特定もまだできていなくてすみません」

そう頭を下げる男を俺は手で制止させる。

「いや、十分だ」

確かに見た目だけで年齢を当てるのは不確定な部分もあるが、少なくともあの二人、道長慶介と金城百合を見て三十代だと思うことはないだろう。

「監視カメラの映像は?」

「今、鑑識のほうが調べてますが」

「ちょっと、見に行くか」

モニター室に行く人の男たちが見入るように画面に注目している姿が目に入った。

どうやら、俺たちが入ってきたことには気づいていないようだ。

何をそんなに見ているのか?

仕方がないので声をかけることにした。

「よぉ、幹ちゃん何か映ってたかい?」

「岸野」

振り返った幹達治の顔は顔面蒼白で他の鑑識はんの連中も同じような顔を並べていた。

それほどのものが映っていたのだろう。

「犯人が映ってた?」

「犯人かはわからん、ただこの場所から逃走しているように見えるから関係者ではありそうが」

道長と金城だ。

直感的にそう確信した。

「見せてもらっても?」

「あ、ああそうだな見てもらったほうがいい。俺にもよくわからん」

幹のその言い回しが気になったが俺は構わず画面を凝視した。

映っているのは正面門前の広場、そこに1人の女が立っていた。

遠目だが間違いない金城百合だ。

そしてその横には、わけのわからないものがあった。

「なんだ、これ?」

それは、影、あるいは黒いもやだった。

人の形をした黒い物体が金城百合の横にいた。

「これは加工された映像じゃない。つまり、実際いたんだ。この黒い何かがそこに。いったい何なんだこれは?」

その問いに答えれるものは誰もいない。

俺にもわからない。

けど、漠然とこいつの正体が道長慶介だという確信だけはあった。

けれど、だとしたらこの道長慶介という人物は一体何なのだ?

この姿、こいつは・・・。

そこで考えるのをやめる、それ以上考えるのが怖くなったからだ。


「とりあえずこいつらの後を追うぞ」

「マジですか!?」

若手刑事は明らかにいやそうだった。

「関係者かもしれないんだ。ほっとくわけにはいかないだろうが」

俺だって嫌だという思いは胸に秘めたまま俺たちは正面門まで引き返した。

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