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断罪  作者: RIO
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四十話 僕と彼女の日常

その事件の始まりは今から4年前、僕がまだ中学生の時だった。

事件が起きたのは夏休みが終わりに近づいたある日のこと。

あの日はそう、台風が近づいたことで天気は大荒れで僕のように家に籠っていたという人間がほとんどだったろう。

そんな人気の少ない町で事件は発生した。

事件の内容はいたって簡単、僕の彼女と同じ学校の女子生徒が殺された、言葉にしてみれば一言で片づけられるその事件、けれどそれが四年間も続く悪夢の始まりとはだれも思いもしなかっただろう。


事件が展開するのはその二日後、容疑者と目された少年が廃工場にて他殺体で発見された。

その遺体には何らかのメッセージなのかドクロマークが刻まれていたという。

そしてそれを皮切りにしたように殺人事件は起き続けた。


被害者は四年前から今に至るまで数えて四名、けれどこれを連続殺人と言っていいのかは疑問がつくところだ。

連続殺人というのは普通短期間の間に続けて起きるものをいう、けれど今回の事件は事件事件の間が妙に開いている。

二件目の殺人こそ最初の殺人の一か月後に発生したが続く三件目はその半年後そしてその次が一年半後と不定期であり、まるでみんなが忘れたころを見計らってまだ終わりじゃないよと囁くかのように。

そしている間に一向に犯人を捕まえられない警察の信用はどんどん堕ちてゆき相反するように世間での事件の注目度はどんどん高まっていった。

その要因というのが被害者たちのとある特徴にあった。

最初の被害者である少年は通り魔殺人の容疑者、二人目は三丸町に巣食う荒身組というヤクザの組長、三人目は近所でも有名な万引き犯の老女、四人目は素行の悪い少年だった。

彼らは大なり小なり何らかの社会悪を行った罪人、それらの人物が殺された。

何者かの手によってその命を絶たれた。

罪人は裁かれた殺人という罪により。


殺されたのは罪人なんだから別にいいじゃん?

別におれ等には関係ないし。

むしろ死んで良かったんじゃない?

事件に関係のない人たちは口々にそう語り、中には姿なき犯人をヒーローのように見る人々まで現れる始末。

そうして、全国でもこの謎の殺人事件を模倣し、悪人に裁きをと名目のもといくつかの傷害、殺人事件も発生した。

みんながこの馬鹿げた、狂った事件に踊らされている、その陰の悲劇などには全く目もくれず目先の娯楽だけに浸りきっている。

断罪事件、これが世間がつけたこの事件の通称、なら僕は犯人に問いたいこの事件が真に罪人をさばくのが目的なら君は最後に自身すらも殺すのかと?


「ん・・・」

ベッドの眠り姫が目覚める気配を感じ取り僕はここまでの思考をいったん停止し目の前のハムエッグづくりに気を切り替える。

「やぁ、おはよう。よく寝れたかい?恵子」

まだ寝ぼけているのかベッドの上に一糸まとわぬ姿のままちょこんと座る恵子はしきりに首をかくかくとうなだれていた。

そのさまが可愛らしく、こんなハムエッグなんかほったらかして今すぐ抱きしめたくなる。

だけど、そんな相手の気持ちをないがしろにして自分の欲求を押し通すようなことを僕はしない、あくまで紳士的にいかないと。

「恵子、起きたならちゃんと服を着ないと。もう十月なんだし、風邪ひくよ」

まるでお母さんのように注意をする僕を恵子は一度だけ見るとのそのそと着替えを始めだす。

まるでカメのように遅い動作、やれやれあれじゃ着替えるだけで十五分はかかりそうだ。

やっぱり早めに朝食を用意してて正解だった。

苦笑交じりに食器をテーブルに並べてると恵子がのそりと近づいてきて静かに『おはよう、千晃』と僕と少しずれての挨拶をしてきてくれた、僕はそんな彼女にこたえるようもう一度笑顔で『おはよう』とあいさつをした。


こんなやり取りを始めたのは今年の春になってから、就職を機に家を出た僕はすぐに恵子を誘い同棲を始めた。

あの事件以降、少し情緒が不安定になっていた彼女を少しでも見守りたいという思いと単純に彼女ともっと時間を共有したいと考えての行動だった。

急な申し出だったため最初は面食らっていた彼女も特に断る理由はないからと快く了承してくれて今に至る。


「む、このハムエッグ黄身の部分が硬い」

「そう?うーん、うまく出来たと思ったんだけどな。少し焼きすぎたか」

自信があっただけに恵子のその指摘は耳が痛い。

元々実家暮らしだった僕で料理なんてしたことのなかった僕は今は恵子に教わりつつ朝食づくりを日々の練習として担ってる。

恵子の方は当番制にしようと言っていたのだが僕の方がそれを断った。

そんな風に頼っていたらいつまでも腕が成長しないし、今年は受験を迎える恵子に余計な手間はかかせたくなかったからだ。

念のため言っておくが恵子の料理の腕は素人の僕からしても素晴らしいと言えるものがある。

子供のころから施設で育った彼女には自炊なんて朝飯前だろうし、僕は会ったことは無いが同じ施設出身の友人、料理上手の百合ちゃんからいろいろ教わったらしくレパートリーも豊富だ。

そんな彼女からすれば料理ベタな僕の用意する朝食は満足足りえるものではないのだろう。

「私、半熟が好きなんだけど」

「うん、知ってる。意識はしてみたんだけど、うまくいかなかったね。申し訳ない」

「せめてこのくらいはうまく作れないと、次の段階に進めないよ。私、もう固い目玉焼きはこりごりなんだから」

「精進します」

「精々頑張って。それじゃ私、学校あるから行くけど。千晃は今日有給なんだって?」

食べ終わった食器を流し台に持って行きながら恵子はそう尋ねてきた。

座っていては全部は見えなかった恵子の制服姿は可憐でやはりかわいかった。

この姿があと数ヶ月で見納めというのは少々残念に思うところがあるけど、それも彼女が成長した証なんだからしかたがない。

「うん、友人と会う約束をしててね。君が出かけたら僕も出るよ」

「ふ~ん。相手って女の人だったりする?」

そっぽを向きながら聞いてくる恵子。

「なに?やきもちかい?」

「ちっ!ちがう!!んーもういいよ!」

ガシャリと食器を強く流しに置く恵子、食器が無事かと少々不安になる。

どうやら、からかいすぎたようだ。

「冗談だって、そんなに怒るな。相手は男だよ心配しなくても」

「・・・あっそ」

そっけない返事とは裏腹に笑みをこぼす恵子、表情を隠せない素直さがおかしくて笑いそうになる。

でもそんなところ恵子に見せたらまた怒られるので僕はコーヒーを飲み緩みそうになる頬を苦味で打ち消した。

「それじゃ、行ってくるから」

シュタっと手を上げ部屋を出ていく恵子、今の時刻は七時三分、この分なら遅刻はないだろう。

彼女の通う三円学園は電車で二駅先の場所に位置してる偏差値はそれほど高くないが主に部活動で大いに活躍している根っからの体育系学園だった。

恵子もその学園ではバレー部に所属しレギュラーメンバーとしてなかなかの成績を出しているらしい。

そんな彼女の活躍を僕はひそかに誇らしく思うのだった。


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