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断罪  作者: RIO
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三十二話 はきだめの王

在仙法事は力を欲していた。

貧しい家庭に生まれ、それでも自分に優しくしてくれた両親はある日『ごめん』という手紙とともに目の前から消え去った。

それからは、惨めという一言に尽きる日々。

学校では親なしと虐められ、引き取られ先のおじさん宅では厄介者と殴られる日々。

目の前で買っていたハムスターを踏み潰されたときはショックのあまり涙も出なかった。

その時、おじさんの言ったセリフ

『こいつは弱いから死んだんだ。お前も弱いから俺に嬲られる。兄貴達がお前を捨てたのもお前が弱くて邪魔だったからだよ。お前の弱さがみんなお不幸にするんだよ』

この言葉がやけに印象に残った。

そして同時のその通りだと目が覚めるように納得した。

そう、結局世の中弱い奴は強者の糧となって消えゆくその自然の摂理は人間界でも同様だった。

弱い者は保護される、そんなものは嘘っぱちだ、建前に過ぎない綺麗事でしかないかけらの意味もない。

だから、法事は力を求めた。

けれど残念ながら法事には経済的力も人望も筋力も何もかもがなくまた本人も自分には才能がないと、はなっから諦めていた。

そこで彼が思いついたのが寄生だった。

自分に力がないなら他者の力に依存すればいい、力あるものに擦り寄りそのものの糧の残り香を貰えばいいそうすれば晴れて自分も強者の仲間入りそう考えてのことだった。

虎の威を借る狐、まさにその通りに法事は生きてきた。

そのためにならどんな悪さでもした、多くの人を傷つけてきたそれが強さの象徴だと信じて。

そして気づけば三丸町でも一二を争うと言われるほどの不良グループ、アルマゲドンの一因となっていた。

怖いものなどない、もう全てが思うまま、まさに自由だ、そう思っていた、あの時まで。


それは今から半年前、まだ雪がちらつく朝焼けのも差し込まない暗い路地裏から始まった出会いだった。

『弱いなお前ら』

『はぁ?』

突然の罵倒、それに一個の命のように同時に敵意を向ける十三の命、その一つに法寺もいた。

そこにはブカブカのジャンパーにフードを深くかぶった少年が立っていた。

『なんだガキ?俺らになんか用?』

『オイ、奈佐。まだチビだあんまり怖がらせるなよ』

感情の赴くまま立ち上がり少年に掴みかかろうとする銀髪の少年、奈佐をスキンヘッド青年、明志が止めるがフードの少年の馬頭はなおも続く。

『お前たちは、ただ集まるだけでせっかくの集団の力を何も生かせてない。なにがアルマゲドンだ笑わせる、居場所が欲しいだけの羽虫どもめ。おまえたりの力は俺がもらう、今日から俺のための働きアリになれ』

『おい、おいおいおいおいおい!急に出てきて何言ってんだお前?羽虫が湧いてんのはお前の頭だろうが、いい加減にしないと殺すぞ。あぁ!!!』

とうとう堪忍袋の緒が切れたのか、つながれた鎖が切れたかのような勢いで少年に迫りその襟首を締め上げる奈佐、そんな奈佐を少年は一瞥すると静かに、

『殺す?アンタそれがどういう意味か解って言ってるのか?』

そう言った。

瞬間、奈佐の両腕に手を回しバネのように体を弾けさせ顎に膝蹴りを食らわす少年。

それを傍から見ていた法寺達には少年がまるで空でも飛んだかのようにも見えた。

少年の飛翔に対し無残にも地に落ちていく奈佐、そんな仲間の姿を見た法事が抱いた一番の感情は少年の突然の行動に対する驚きでも、仲間を傷つけられた怒りでもなく、ただ純粋なまでの。

『カッコいい』

『はぁ!法寺、お前何いちゃてるの?』

法事のあまりに場違いな感想にすぐツッコミを入れる明志、その顔には緊張が走っていた。

地面に倒れる奈佐は全く動く気配がなく、どうやら一撃で意識を刈り取られたようだ。

『一撃かい、はは。あの子、想像以上にやばいかもね』

『馬鹿だな、なぜわざわざ宣言するんだ?不意打ちこそが強みの一つだというのに。さぁ、俺を殺すんだろ?やるなら面倒だから一斉に来い、一匹残らず俺が捕獲してやる』

そこからの記憶が法事にはない、ただ最後に覚えているのは自分の顔面に飛んできた少年の靴裏、飛び蹴りをされたと気づいた時にはもうすでに遅く、そこで完全に目の前が暗転したのだった。



子供の頃、あれは確か家族で近所のお祭りに行った時だった、あの日俺は新しい着物にとてもはしゃいでいて両親はそんな俺を見て苦笑を漏らしていたっけ。

おろしたての着物はタンスの香りが漂っていてとても落ち着いた。

家族で行った祭りはとても小さなものだったがそれなりに賑わっていて中でも一番人を集めていたのが軍鶏レスリングという屋台だった。

それは言葉通り二匹の軍鶏トーナメント戦で相手が動けなくなるまで戦わせ最後まで残った軍鶏にかけていたお客さんに豪華商品をお送りするというなんとも王道的なもので、けれどその王道さゆえのわかりやすさによりどの屋台よりもこの屋台が盛り上がっていた。

俺が来た時にはもう抽選は終わっていて賭けには参加できなかったが軍鶏同士の激しい戦いは見ているだけで面白かった。

けれどふと両親に目をやるとさっきまで笑顔だった父さんはやけに神妙な面持ちでその光景を見ていた。

『どうしたの、父さん。楽しくなぁい?』

いつもとは違う父さんの顔、あの時はそれがどういった感情のものなのかわからなかったけど、多分あれは気分が沈んでたんだろう。

嫌なものを見たときすぐ目をそらすのがあの人の癖だったから間違いないと思う。

『いや、父さんどうもこういった暴力を見るのは苦手でね。あまりいい気分じゃないんだ』

『暴力って、鶏どうしの戦いが?』

『たとえ動物でも生き物どうしが傷つけあうのは父さんは好きじゃないんだ。いいかい、法事』

すっと、腰を落とし自分の目線までかがむ父、父は俺の頭を撫でながら言い聞かせるように呟く。

『法事、お前も男だから強くなりたい気持ちがあるのはわかるしそれが悪いことだとも父さんは思わない。誰だって強くなりたいもんな。けどな、力はむやみに振るってはいけないそれじゃあただ傷つけあうだけでみんなが痛い思いをするだけだからね。あの鶏みたいに』

『見ているみんなは、楽しそうだよ』

『それは、人ごとだからだよ。見ているだけじゃ痛い思いなんてしないからね。それに、悲しいことに人間は少なからず暴力を楽しむ傾向があるからね』

『どうゆうこと?』

『うん。痛々しくない暴力は人にとって娯楽になるってことで・・・ごめんごめん。話が難しくなっちゃったね。つまり父さんが言いたいことは、力はむやみに振るうものじゃなくて大切なものを守る時に使いなさいってことだから』

『大切なものって?』

『そうだな、法事が好きなもののことかな』

『もち、ハンバーグ』

そのあまりの即答ぶりに父さんは苦笑してたっけ。

『ああ、そうだね。法事はハンバーグ大好きだもんな』

『うん!じゃあさ、父さんも大切なもののためなら戦うの?』

『そうだぞ、父さんだってやるときはやるんだからな』

そう、自信げに頷く父さん。

もしも過去に戻れるならもう一度父さんに聞きたい、父さんは大切なものを守るとき力を使うのは正しいことだと言っていたけど、ならあの時ひとり残されて捨てられた俺は父さんにとって守るべきものじゃなかったってことなの?

俺は父さんにとって大切な存在になり得なかってことなの?

教えて、お願いだから誰かその答えを教えて。

痛いんだ、あの日から両親のことを思い出すために胸が頭が痛くなる痛くて痛くて堪らない。

痛い、痛い、家族と過ごしたあの日々の全てが・・・・。



『痛い』

目を覚ますとまず一番最初に伝わってきたのは冷たく硬いアスファルトの感触だった。

口にはほんのりと鉄臭い血の味が広がっており鼻には顔をしかめてしまうほどの痛みが響いていた。

そういえば、顔面に蹴りをくらったんだっけ?

痛む鼻に手を添えるとねっとりと生暖かい液体が手に絡みついてきた。

鼻血だ。

ぽたりと落ちる紅い雫、それを見ているうちに意思ははっきりとしてきて周囲の状況にやっと気づけた。

この空模様をそのまま写したかのような灰色の寂しい路地裏、その冷たいアスファルトの上には自分と同じように、まるで路上に転がるゴミのように惨めに倒れふせる仲間たち。

そして、倒れる自分たちの中心には同じようにボロボロになりながらそれでもひとり立っているフードの少年がいたのだった。

右目は晴れ上がり、頬は擦り切れ、服はところどころ汚れている、それはなんともみすぼらしい姿であったが、それでも誰もが倒れ伏せている中一人だけ立っていた。

その姿はさながら絶体絶命の窮地の中でも守るべきもののために戦い抜いた勇者のようで神々しいほどに威厳に満ちた姿をしていた。

『カッコイイ』

その姿に見惚れっていると少年はあたりを見渡しながら、

『見ろ、これが現実だ、結局お前らはただ集まりそれを強さだと勘違いしていただけの烏合の衆に過ぎなかった。俺と来い、そうすればお前たちをいずれ本物の強者にしてやる。俺がお前たちに力をやる、だからお前たちの力を俺にかせ』

そう、宣言した。

『力を貸せってどういうことだい?』

腫れ上がった右目を抑えながら明志が尋ねる。

『大したことじゃない、俺の言うとうりに行動する。ただそれだけだ』

『ただそれだけって、充分大したことだと思うけど』

『ふざけるな!俺らにテメーの手下になれって言ってるのか!!』

抗議の声をあげる奈佐だが、少年は全く意に返す様子がない。

『そうだ、力に従う。それが世の常だ、解りやすくていいだろ。お前らもそうやって今まで無駄な力を振りかざし弱者を従わせてきたんだ。なら、弱者へと成り下がったお前たちは従うべきだ強者である俺に。それとも、もう一度、俺の力を見るか?』

その言葉で、抗議の声を上げていた者たちも押し黙る。

あの圧倒的な暴力の前に誰もが反抗の心を折られ、痛みにより服従の気持ちを植えつけられてしまったからだ。

『反論は・・・ないみたいだな。じゃあ始めるか。この町は俺、近衛太志が管理する』

少年はそう不敵に笑って見せるのだった。



それが今から半年前のこと、あの時の出会いを境に法事の環境は太志のおかげでめくるめく季節のように穏やかに、だが全くの別物へと変質していった。

その変質の大一幕、太志がまず始めたのはこの町の整理だった。

太志たちの住む三丸町は和やかな田舎風景とは裏腹にお世辞にも治安が良いとは言えず窃盗やレイプなどは珍しい話ではなく殺人という重大犯罪もここ五年のうちに二件も発生してしまっている。

この三丸町は若者の多さと半比例するような形で娯楽があまりにも少ない。

そもそもそれは現町長の叶井正孝の古き時代を残し現代の若者たちの廃れた心に潤いをもたらそうという教育方針から来たもので、彼はこの街から徹底的に現代的な娯楽を排除していった。

この町にはコンビニすらなく、買い物もみんなスーパーなどで済ませている。

唯一の娯楽とも言える大通りにあったゲームセンターも一ヶ月ほど前に取り壊され今は 喫茶店へと姿を変えていた。

これも、みんなの心にゆとりをもたらすためと町長は言ったそうだが、それが致命的なまでに見当違いだったわけで。

抑圧された欲望を爆発させた一部の若者とそれに乗っかってきた悪人達は町を縛るルールをことごとく壊し始めたのだった。

警察の方も何かと手を打ってはいるようだがそれ以上に犯罪率が高くだんだんと軽犯罪は見て見ぬふりをするという体たらく。

それらの悪循環が最悪の形で広がりいつの間にかこの緑で囲まれた三丸町は山々の檻で閉じ込められたクズの掃き溜めとかしてしまっていたのだった。

そんな町は非行少年たちが溜まろうにはもってこいの場所で、法事たちのアルマゲドンをはじめとして多くの少年たちによる組織が出来上がり、彼らは縄張りを求め争った。

毎日のように起こる少年たちによる闘争は時には一般人をも巻き込みこの町の大きな問題の一つとなっていたが、この問題に終止符を打ったのがほかでもない近衛太志だった。

彼はその圧倒的な暴力でことごとく他のチームを潰してはアルマゲドンへと吸収していったのだ。

もちろんそんなことをされてはほかのチームの者たちは黙ってはいないし、アルマゲドンのメンバーも彼のまだ十四という若い年齢に疑問を持つ者もいたが彼はそのことごとくを

力でねじ伏せた。

そう街の不良たちは太志という突如現れた狩人に駆逐され尽くしてしまったのだった。

そして、そうこうしているうちにやがて太志への不満を漏らすものもやがていなくなった。

なぜなら、彼に逆らう者はことごとく圧倒的なその力で破滅に追いやられ彼に従ったものはその力の恩恵を受けることができたからだ。

そんなもの考えなくてもどちらに付くべきか明白だった。

それから半年後、気づけばアルマゲドンはこの三丸町で荒見組と双璧をなす組織へと成長し、大志はその頂点に君臨していた。

その様はまさに三丸町という国に君臨する王様のようだった。


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