二十七話 ある日の休日、図書館にて
「最近、七川さん。やけに慶介に話しかけてんね」
「そお?普通しょ」
昼下がりの図書館そこで修は恵子にこっそりと話しかけた。
桐村修からみた七川浅利という女の子は一言で言うと地味系、それにつきた。
内気で、あまり大勢とつるむのは好まず、教室の隅の方で少人数で喋っている感じ。
顔の方も特に可愛いというわけでも美人というわけでもない。
まぁ、ブサイクというわけでもないのだけど。
けれど磨けば光るといったタイプでない。
本当に平均的な容姿をした女の子。
だから、恵子が友達になった、なんて報告をしてきたときは、またその厚かましさで絡んでいったんだろう。
七川さんもいい迷惑だろうに、そんな程度に思っていた。
その考えが改まったのはやっぱりこの前の海水浴でのことだろう、あの時の仲の良さそうな二人の姿を見る限り七川さんも本当に楽しんでるのかも?
なんて、思うようになった。
(まぁ、もともと誰とでも打ち解けれる恵子なら友達同士になってもおかしくはないか)
「ってか、アンタはそんな話より目の前の課題に集中する!さっきから全然進んでないじゃん」
ガッと机の下で足を蹴られた。
「イテッ!だって、またみんなで集まるっていうから百合も来るかと思ったらいねぇんだもん、これじゃあやる気なんて出ねぇーよ」
「百合は私らと学校違うし向こうは進学校だからなかなか予定が合わないのよ。文句言うな!」
「でも、凪紗は来てんじゃん」
恵子の横に座りながら参考書を読みふける凪沙に目をやる修、その顔は明らかに不満が満ちている。
「ごめんねー百合じゃなくて。百合はあたしと違って忙しいからね。今日はあたしで我慢してちょ」
なんてことを冗談ぽく言う凪沙に修はますます不機嫌な顔になっていく。
白岩凪紗と桐村修はあの海水浴以来頻繁に連絡を取り合う間柄になっていた。
元々、凪沙がメール好きでしょっちゅう連絡を寄越してきたことと修の方もそれに律儀に全部返信していたら今の関係性が出来上がっていた。
それに二人の仲が進展したのはお互いの利害が一致したからというのもあるだろう。
凪沙の通う胡桃宮中学は女子中学ということもあり、異様に男子との交流が少ない。
というより男子は汚らわしいものなんていう教えを広める時代錯誤なオバさん教師も居るくらいで、生徒の中にはその教えに浸透しきってしまい変な方向に目覚めてしまう娘まで出てきてしまう始末。
そんな百合漫画が現実と化した学園に通う凪沙だが、彼女自身は至って健全むしろ女子だけという抑圧された空間と思春期特有の心境の変化も相まって彼氏を強く欲っするくらいには欲望が溜まっていた。
前回の海水浴の参加もその際のあのきわどい水着も全て男ウケを狙っての行動だったというわけだ。
まぁ、決死の思いで行った水着作戦の方は完全なる失敗だったわけだが。
けれどその無茶な頑張り?のかいもありみんなとアドレスを交換しそのうちの一人修とは十分に友達と言える間柄になれたのだけど。
当の修は百合一直線なので脈なしとみなし、今は修を通して素敵な王子様を探している最中というわけであり、修の方もその王子様探しに付き合う代わりに百合の情報を逐一報告してもらえるという特権を手に入れることができた。
そう、まさに今の二人は互の願いのために手を組み合う友なのだ、まだ出会ってから日は浅いがその絆は他のみんなと同等に強いものとなっている。
「つか、まだ7月じゃんか、なんでこんな早々に勉強会?こんなもん最後の数日でみんなと協力して終わらせるってのがセオリーじゃん」
「馬鹿じゃん!アンタそれ実行できた試しないでしょ、始業式でいっつも怒られてんじゃん。あれ、いい加減目ててうざいんだよね。だから、この夏休みは初っ端のうちに課題終わらせるよ」
「なんだよ、その強制。課題なんて生徒の自主性で取り組むもんだろうが。こんな、無理強いは断固反対だね俺は!うん、自由の権利をここに主張する!」
ビシッと人差し指を突き出し宣言する修のその指に恵子は折るほどの勢いでチョップを繰り出す。
「そんな自由権があってたまるか!つーか、アンタにはその自主性が欠けてるからこんな目にあうんでしょうが。自業自得諦めなさい。それに文句言ってんのあんただけじゃん、他のみんなは真面目に取り組んでんのに」
真面目に取り組んでいる連中というのはこの勉強会の他のメンバーである浅利、慶介、成久、凪紗のことなのだがこのメンバーも真面目かといえば微ミョーではある。
浅利は恵子の言うように真面目に課題に取り組んでいるが、その浅利に勉強を教えている慶介はというと図書館の小説コーナーからいくつかの本を持ち出しそれに集中してしまっている。
それでも、浅利の質問にはきちんと対応し自身の課題は既に終わらせてしまっているあたり流石というべきであろう。
学校始まって以来の秀才の名は伊達ではないというわけだろう。
勉強の方もこのメンバーの中では一番はかどっているというところを考えるとやり方はともかく問題はないようだが、あとの二人、成久と凪沙は修と同じく全くといっていいほど勉強に身が入っていない。
凪沙は勉強を手伝いに来たなんて言いつつ先ほどのように恵子と修の二人と話してばかりでその役割を全く果たしていない。
そして誰からも相手をされない悲しい成久はふて寝状態だ。
そんなカオスな状態の中で勉強ができないという修の意見は意外と的を射っているのかもしれない。
彼の場合は、それが理由ではないが。
「あー!もう、少し休憩。俺の頭じゃこんな長時間の勉強は耐えられません」
ガタリと席を立ち上がり逃げるように机を離れる修、恵子はそんな修に怒鳴りかけたがここが図書館であることを思い出し言葉を飲み込む。
そうこうしているすきに修は出口側の休憩室の方へと姿を消してしまった。
「ったく、アイツ!」
すぐに呼び戻そうと立ち上がる恵子を慶介は本を読みながら呼び止める。
目線は本に向けたまま声だけをこちらに向ける。
「やめた方がいいんじゃないかな?今連れ戻しても勉強なんてできないでしょ。修の方も黙って帰ることはないだろう。気分転換できたら戻ってくるだろうし、それまで待ってなよ」
「甘すぎじゃない?こんなのパッパッと終わらせばいいのよ」
ふん、と悪態を付きながらも渋々席に着く恵子に慶介は笑いかける。
「ありがとう。優しいね。恵子は」
「はぁ!?な、何言ってんの?バカじゃないの」
そう、罵倒する恵子の姿を見て慶介はさらに微笑むのであった。
三丸図書館は小高い丘の上に立つ小さな図書館だ。
その小ささのせいか、置かれている本も古い小説や辞典、それにかつての新聞記事などかあるだけ。
ここを活用する人なんてあまりいないし、修も恵子に無理やり連れてこられなければ一度も足を踏み入れることはなかっただろう。
もともと本になど興味はないし、静かにしなければいけない場所というのはどうにも苦手だった。
けれど、ひとつだけ気に入ったことがあったそれが、この図書館の休憩所だった。
この図書館の休憩場は外の広場に設けられており、自販機とベンチを置いてある質素な場所だ。
こんな何もない場所は修は好まない彼が好むのはいつだってみんなのいる明るい場所だから、だけど。
「ああ、いい景色だな」
この小高い丘から見える三丸町の景色、ここからだと小さのこの街はその全体図をさらけ出す。
小さくも周りを山々に囲まれた街、今の季節なら一層山の緑が増して太陽の光は緑黄色に輝く。
「へぇ~、ここからだと中学まで見えんのな。やっぱ、ちっちぇーなー俺たちの街」
先ほど自販機で買ったコカコーラーをあおりながらより街並みがよく見える柵の前まで赴くと、そこには意外な先客がいた。
こんな鳥も空を飛ばず日陰で休むほどの真夏日だというのにそいつはこの晴天を塗りつぶしてしまうかのような真っ黒な長袖のシャツに太陽の光をすべて弾くような真っ白な長ズボンを身にまとい高台の柵に腰をかけていた。




