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断罪  作者: RIO
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二話 疫病神、其れは小さなストレス。

子供たちが授業を終え、時実養護施設へと帰ってくる午後四時。

職員たちは一斉に自分の仕事へと取り掛かる。

これからの時間帯はまさに戦争だ。

職員の一人、神山京香もその一人であった。

「神山さん、今日も学校までお迎え?」

「ええ、この前うちに入ってきた、近衛くんに響くん学校が終わっても道草ばかりくってまだ小学四年生なのにほっといてたら夜まで帰ってこないんですよ!」

京香はそう急ぎ足で玄関に向かいながら同僚の鳩山静稀にこたえる。

「そう、なら急がないと」

「言われなくとも」

そう受け答えしながら京香は軽やかに院を後にした。


京香の目的地である三丸小学校は徒歩約五分という近場にある。

今時珍しい木造建設の昭和の遺産でもあった。

そんな少々古ぼけた校門から学業を終えた子供たちが次々と姿を現す中、京香の待ち人たる二人は一向に姿を現さない。

かれこれもう三十分は経過したというのに。

とうとう業を煮やした彼女は近くにいた女生徒に二人の居場所を聞くことにしたのだった。

「ねえ、少しお話いいかな?」

「何おばちゃん?」

あどけないかわいらしい顔をこちらに向けてくる少女、実に素直そうな子だ。

(しかしそんな子におばさん呼ばわりされる私って・・・これでもまだ二十六なんだけどな。)

そう軽くショックを受けてみる。


「うん、あのねこの学校に近衛大志くんと響司くんっていう子がいると思うんだけど知ってるかな?」

「うん知ってるよ同じクラスだもん」

「じゃあ、二人はまだ教室にいるの?」

私のその問いに少女は小さく首を横に振った。

「うんうん。二人とももう帰ったよ。本当は放課後みんなで掃除して帰るんだけどね、二人ともサボって勝手に帰っちゃった」

あ、あのガキども~!!

「おばちゃん顔怖いよ」

「ああ、ごめんごめん。ありがと助かったわ。じゃあ、あなたも遅くならないうちに帰りなさいな」

「うん、バイバイ」

「バイバイ」

少女に笑顔で手を振る私、しかし内心は穏やかではない。

「もー、あの子たち校門前で待つように言ってたのに、何で約束守れないかな!」

ずんずんと大通りを歩く京香。

あの二人は学校帰りにはよくこの大通りあたりで道草をくう。

ここには、ゲームセンターをはじめ様々な遊び場があるからだ。

今日もそれを見越しての行動だった。

思惑通り数分で二人は見つかった。

ただし無事ではなかった。

「あいつは」

二人を威圧するように前に立ち、何やら怒鳴っている男には見覚えがあった。

時実泰三。

このあたりをいつもふらついているガラの悪い男だ。

そんな男がなぜ?

「ちょっと何やってるんですか!」

「あん?」

こちらに向けられる人を射殺すかのような目。

怖い、瞬時にそう思ってしまった。

「あんた誰?」

「「せんせー」」

近衛君と響君は今にも泣きそうな顔でこちらを見上げた。

「私、この二人が暮らしています、児童施設の神山と申します。あの、この子たちが何か?」

「この餓鬼どもいきなりワシに喧嘩吹っかけおったんじゃ。院長先生をいじめるななんとかってな!たく、どんな指導しとるんや」

「どうゆうこと?」

「だってこの人いつも院長先生をいじめてて」

「ああ」

子供たちのその言葉で京香は大体の事情を把握できた。

つまりこの子たちは毎日のように院長のところにやってきて怒鳴り散らすこの男を先生をいじめる悪者だと認識したのだろう。

この子たちからすれば母親、いや祖母をいじめられているようにみえ、いてもたってもいられなかったのだろう。

事実その認識はほとんど間違ってない、ただ一点を除いて。


「えっとね、近衛君・響君この方はね院長先生の息子さんなの。だからね虐めているわけじゃないのよ」

そうさとす京香に対して近衛と響は半信半疑な顔をする。

「だったら何でこの人院長先生にあんなに怒鳴ってるんだよ!俺見たぞ!院長先生が泣いてるの、院長先生の子供なら何で優しくしてやらないんだ」

「こら!」

正義感が強く怖いもの知らずの近衛君がしきりに叫び何とかかばおうと背中に隠す。

「餓鬼が人んちの家庭の事情にかまうな!あんたも、このガキども管理してるなら年上への口の利き方くらい教えとけや!!」

最後に一発怒鳴ると泰三はそのまま去っていった。

そして彼が完全に立ち去ったのを見送ると京香は近衛たちへと向き直る。

「あなたたち駄目じゃない!何してるの!!先生が来たからよかったけどもし私が来なかったら・・・わかってるの!!」

そう、もし京香が来なかったらあの男は子供であろうと平然と暴力をふるっただろう、もしかしたらそれ以上のことも、そんなことを平気でできる男であることを京香は知っているだからこそ怒っているのだ、軽率な行動をした彼らのことを。

そして彼らは驚いている、自分たちが京香に怒られるのはこれが初めてではなかったがここまでの涙をためてまでのお叱りは初めてでありここにきてようやく自分たちが悪いことをしたと知ったのだった。

「ご、ごめんなさい先生」

「ごめん・・・なさい」

驚きながらも謝る近衛につられる形で響も涙ながらに謝る。

この響司は近衛とは仲がいいが彼とは違い非常に臆病な子であった。

怖がらせるつもりはなかった京香としてはこれはよそうがいであった。

「わかればいいの。でももうあんなことしちゃだめよ」

最後に笑った京香につられたのか二人も笑顔を見せる。

その無邪気な笑顔に京香の心は休まる。

そうだこの子たちがあんな男にかかわる必要はない。

時実泰三、時実養護施設院長時実早子の一人息子。

三十を迎えても定職にはつかず、月に二回ほど施設にきては怒鳴り金を奪っていく。

しかも金をとる理由が自分は息子なんだから親に養ってもらって何が悪いという、なんとも救いがないものであった。

そんな彼は自分以外に自らの母が可愛がっている施設の子を疎ましく思っているようであの怒鳴り声もわざとであろう。

そんなことは子供たち以外つまり職員はみんな知っていることだった、だからみんなで話し合いあの男には決して近づけさせないように決まったのだった。

京香も大いに賛成だった、だからこそ安心したこの子たちが反省したのならもうあの男と関わることはないだろうと。

それが彼女の若さゆえの未熟さだった。


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