とある平和な王国の物語
とあるところに、大きな王国がありまして、そこにはたいそう仲睦まじい王と王妃がおりました。王はその賢王ぶりから国民たちから好かれ、王妃もまたその美しさと優しさで国民たちから慕われていました。良い政治に恵まれた国民たちは、日々の生活を意欲的に過ごしておりました。
王と王妃はそれはもうラブラブで、政務をしている時間以外は常にいちゃいちゃしておりました。あまりの糖度の高さに、二人を守る近衛兵たちは甘いものをみると拒絶反応を起こすほどでした。
ですが、王は日々のいちゃいちゃばかりにかまけず政務も精力的に行っていたので不満はありませんでした。せいぜい大臣たちから普段は残念と思われる程度です。
国民たちはむしろそのラブラブな様子を見て、あんな夫婦になりたいと思っておりましたので、王様を嫌うことはありませんでした。一部の熱狂的な王妃のファンが王に嫉妬するくらいです。
大きな事件もなく、戦争に巻き込まれることもなく、王国には平和な時間が流れていました。
ところが、二人のいちゃいちゃを面白く思わない人がいました。王国内のパン屋で働く魔女のイザベラです。彼女は幼少期に王と王妃で三人で遊んでいたのでした。そのころから彼女は王にベタ惚れだったのですが、王は王妃と恋に落ちて大恋愛の末に結婚してしまったのです。
彼女は諦めずにあの手この手で王を誘惑しましたが、王妃にベタ惚れの王は一向に靡きません。何度も言っては玉砕しているうちに徐々に手段を選ばなくなっていってしまいます。
彼女はついには禁じ手である魔術も使いだし、王と王妃を分かれさせて自分に振り向かせようとします。
最初は王の前にカエルを呼び出し、王をびっくりさせて幻滅させようとしました。
二人してカエルにびっくりした後、笑い合ってさらにラブラブになりました。
次に王妃の服を破り捨て、はしたない感じにさせて幻滅させようとしました。
王は特に気にすることなくいちゃいちゃしました。
その次は、下着姿で王の部屋に転移し、直接誘惑しようともしてみました。
王はその頃、王妃の部屋に行っていちゃいちゃしておりました。イザベラ、顔真っ赤です。
業を煮やした彼女は、もっと強い魔法を使ってしまいました。するとなんということでしょう、王妃の外見が身長2mを超す偉丈夫になってしまいました。腕は丸太のように太く、腹筋は8つに分かれています。張りつめた筋肉は今にも服を破ってしまいそうです。そのさま、まるで世紀末覇者のよう。
しかし変わったのは外見だけで、中身は王妃のままです。お上品な言葉づかいで、おしとやかな佇まい。まさしく王妃の名にふさわしい動作です。
この外見とのミスマッチに王は戸惑いました。寝て起きたら王妃がガチムチなマッチョになっていたのです。その混乱の度合は計り知れません。しかも動きは普段と変わらないのです。ガチムチな外見でたおやかに迫ってくる……そのプレッシャー。さらには、自分は外見だけで王妃のことを好きになったのかという自己嫌悪。
王は、王妃といちゃいちゃしなくなり、また政務にも手がつかなくなってしまいます。自室にこもって、物思いにふけっています。
王妃はそんな王に気を使ってあまり話しかけないようにします。
そのため、すっかり二人は話さなくなってしまいます。仲の良かった二人が疎遠になってしまったことは、王国に暗雲がたちこめます。政務は滞り、活気に満ち溢れていた城下町には暗い雰囲気が漂います。
そんなときです。王が部屋にこもっていると、いつもよりも必死にドアをたたく音がします。何事かときくと、なんと王妃が魔物にさらわれたというではありませんか。王は焦り、すぐに会議を開いてなんとか王妃を助け出そうと話し合いました。
ちなみに、実はこれは魔女イザベラの策略だったのです。不仲になった二人をさらに引き裂こうとした彼女の次なる一手です。魔物はすべて彼女の手の者です。ここで王妃を亡き者にすれば、あとは自分が王を慰めてハッピーエンド。だらしがない笑顔で妄想にふけっています。
王はすぐに討伐軍を編成し、王妃がさらわれたという方向を目指しました。もともと平和な王国には軍隊がいないので、国民たちの集まっただけのありあわせの軍隊です。しかし、敬愛する王妃様がさらわれたとあってはみんな黙っていられません。これから魔物と戦うというのに士気高く進んでいきます。
途中の村人たちに話を聞き、支援を受けながら魔物たちのいるとうわさされている場所へとたどり着きました。
そこには魔王の城のようにおどろおどろしい雰囲気の洋城が立っていました。周りにはごつい魔物たちが守衛のように待ち構えています。イザベラ、雰囲気出しすぎです。ですが、王と国民たちは気にすることもなく突っ込もうとしました。
まさにその時です。城が爆発しました。爆発の衝撃は周りの魔物たちも巻き込み、あたり一面を襲いました。王たちはぎりぎりのところで爆発の余波から逃れましたが、砂煙が立ち込めてあたりが見えません。
砂煙が晴れるとそこには覇王が立っていました。…ではなく、王妃様が仁王立ちしていました。爆発の衝撃なのか服は破れ、まさに世紀末覇者です。オーラすら見えるようです。
王は、王妃の姿が見えた途端に走り出し、王妃に抱きつきました。王は小柄なほうなので、まるで親子のようです。そして、無事に会えたことに喜び大粒の涙をこぼします。
そんな王を王妃は力強く抱きしめました。あまりの力強さに王から嫌な音が聞こえます。ですが、王も王妃も抱擁を緩めようとはしません。二人は愛を確かめ合うかのように抱きしめあいました。
「ここのところ迷っていたが、やはり私はお前のことが好きなんだ。容姿なんて関係ない。愛してるよ」
「わたくしもお慕い申し上げております……」
そうして、二人の影が重なります。まわりの国民たちはヒューヒューと囃し立てます。生き残っていた魔物たちも一緒になって囃し立てています。ハッピーエンドですね。
その後、二人はともに王国へと帰り、末永く幸せに暮らしましたとさ。
ちなみに。イザベラはマッチョになった王妃と王がキスをしたシーンをもろにみてしまい、王をそういう対象としてしか見られなくなってしまいました。そして、夜毎に妄想を爆発させることになります。
ちなみにちなみに。彼女の作品は王国内では大ベストセラーとなり、彼女はいそがしくも充実した日々を送ることになりましたとさ。




