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水晶魚【すいしょううお】  作者: 今西薫
【第1章】
23/28

閑話1

続きを投稿しようと思っていたのですが、体調が思わしくなく、閑話を入れることにしました。

オチなし意味なしのものですが、とりあえず。


…書いてあることは、嘘ではないハズです…


この家に居候をはじめて数日経つと、内情が判ってくる。

自分をここに引きずってきた老人ディルと、その孫娘ジェイン、そしてゴールデンレトリーバーのマックスがこの家の住人だ。

大型犬どころか、犬と一緒に暮らした経験のないダグラスは、最初はかなり戸惑いを感じた。

マックスは、基本的にジェインにくっついているか、居間で寝そべっている。たまに来る客人にも、首を上げてちらりと見るくらいで、まず動かない。動かないのは他のどんな時も同じで、たとえ通り道に寝そべっていたとしても、どくことはない。

一つ例外があるとすれば、ジェインがどけるよう指示をした時だ。その時ばかりは、当たり前のように立って道を開ける。

ダグラス自身、マックスを跨がざるをえない時は、噛まれるのでは?とドキドキしながらしていたものだった。

マックスは動かないおとなしい犬かと思っていたら、ジェインとボール投げをしている時は溌剌として、居間でひたすらに寝そべっている姿が想像できない程だ。

……つまるところ、マックスの主人はジェインなのだ。

マックスはジェインに呼ばれると素早く立ち上がり尻尾をゆらゆらと揺らして軽い足取りで行く。

それがディルでも一応は立ち上がって行くが、ジェインの時とは違い、まず首を少し持ち上げ、しばらく考える素振りを見せてから、よっこらしょと立ち上がる。足取りもゆったりとしていて、尻尾は振られない。

ようやく犬との生活に慣れてくると、今まで聞いたことのあった、犬はボスに従うという話と、随分と違うということに気付いた。

そのことをディルに訊いてみると、彼は面白そうにニヤリと笑う。

「そりゃ、随分古い考え方だな」

「そうなんですか?」

聞き返すとうなずく。

「犬の祖先は狼で、狼は群を作り、群のボスに従うから、犬にもその傾向がある、ってヤツだろう?」

「そうです」

「一理はあるが、全てではない、ってのがその後に出てきたはずだが」

「それはつまり、ジェインとマックスみたいなのも普通である、ということですか?」

「そう。確かに犬は順位を重んじることもある。そういう犬もいるし、そうでない犬もいるということだな。そうでないと言っても、群のボスの言うことを聞かないわけじゃない。ただ、自ら、順位にこだわり、ボスになろうとしないだけだな。マックスの場合、あきらかに、こちらのパターンだ。ヤツはジェインに拾われて可愛がられ、遊んでもらい、食べものも与えられている。自分にとって、一番の喜びを与えてくれるのがジェインだと判っているんだよ」

「だから、ジェインのいうことをよく聞く、と」

ディルは小さくうなずく。

「人間も同じだろう?ちゃんと認められて褒められると嬉しいが、見当違いな褒め方をされても胡散臭いだけだ」

「なるほど」

上司と自分を思い出すと、なんとなく判ってくる。

「ジェインは何気なくつきあっているように見せて、実はマックスの動きや表情にかなり敏感に反応して、褒めたり、たしなめたりしている。そこが一番大きな差なのだろうな」

よく判らなくて説明を促すと、ディルが言うには、ジェインがマックスの側にいる時は、マックスが良い行動をとろうとした時にはニコリと微笑み、悪い行動をとろうとした時には顔をしかめたりもしているらしい。

要するに、会話意外の表情で、意思を伝えあっていると言うのだ。

だとすれば、マックスは的確に褒められ、的確に叱られているということになる。それは、「キミのことを理解しているよ」というサインだ。

人に置き換えるなら、なつかない方がおかしい。

「ボスの考え方は間違いではないが、絶対的な力で支配するだけが「ボス」

のありかたではない、ということだな」

そして、説明は終わったと、研究室に引っ込んだ。

取り残されたダグラスは先ほどの言葉と、マックスの行動とかさなる部分を頭に浮かべ、理解できたような、出来なかったような、不思議な顔つきをしていたのだった。

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