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どうして、年齢差のことで笑わないのか、子どもの憧れだと決めつけないのか。
どうして、ジャックのほうがいい男になるのか。
とか、疑問に思うことがいくつかあり、それらが頭の中で渦巻いて言葉にならない。
言葉にならないまま、パティのことを見ていた。
と、足音が聞こえて、ドアが開いた。
「やっと帰ってきた」
先頭に見えるのはジャックで、その後ろにダグラス。と思っていたら、ジャックとダグラスの間に栗色の髪をした少年がいた。
「……その子、誰?」
パティが眉根を寄せて問うと、ダグラスはそうだろうそうだろう、と言うように数回肯く。
少年は、ひょい、とジャックの後ろから顔を覗かせてにっこり笑ってみせた。
「こんばんは! 僕のことはディーって呼んでよ」
ディー…と、ジェインは心の中で何度か呟く。祖父の名前と似ているので、混乱しそうだと思う。
「ディーくんね。それで、何者、なのよ」
パティは腕組をして見下ろす。
ディーはちょっとだけ目を大きくしてから、胡散臭い笑顔を浮かべた。
「実は僕、家出少年なんだ。だから、見つかると困るから匿ってもらえるよう、二人にお願いしたんだよ」
自分で「家で少年」なんて言うのかな、とジェインは思う。ジャックとダグラスを見れば似たような感想を持ったと判る表情をしていて、ディーの胡散臭さに拍車がかかった。
「お願い、ねえ…」
パティは呟くように言うと、ディーに負けず劣らずの笑顔になった。
「よほど頼みを聞きたくなるようなステキな関係、ってことよね」
「うん。おねーさんよりは親密な関係だと思うよ。ね、ジャック」
ぽんと肩に乗せられた手を心底いやそうに眺めるジャックの返事も待たず、ディーはにこっと笑って言葉を続ける。
「でも、せっかくだから、おねーさんとも仲良くなりたいなあ。ねえ、さっきのことを話してもいい?」
パティは溜息を吐いた。
「先輩、私これで失礼しますね。また何かあったら連絡をください」
そして、何事もなかったかのような笑顔で言う。
「あのね、少年。何もかもを共有することが仲がいいってことじゃないのよ?」
「知ってますよ? それくらい」
言われたディーも涼しげな表情で返す。
「イヤガラセにしてはよろしくない方法だってこと。じゃあね」
ひらひらと手を振り、パティは荷物を持ってドアへ向かった。
ドアを開ける前に、追いかけようとするダグラスに「家は近いし、今日は明るいから大丈夫!」と言うのを忘れない。
「悪いね。この借りはいつか返すから」
すまなそうに言う彼に、小さく微笑んでみせる。
「先輩。話せないことがあるのは判ってるんです。それを無理に聞こうだなんて、考えてもいません。ここに無理矢理居座って、大切な時間を無駄にするなんて、したくもありません。だから、気にしないでくださいね」
判った、と肯くダグラスに軽く頭を下げ、ジェインとジャックに手を振り、彼女は帰っていった。
「イヤガラセなんかじゃなかったんだけどなあ…」
パタンと閉じられたドアをなんとなく見ていた三人は、その呟きを聞いて、その場にもう一人いたことを思い出した。
「ま、いいや。僕は一応自己紹介すんだよね? 今度はあなたたちの番だと思うけど?」
家出少年のディーで、自己紹介が済んだと思えるあたりが腹がたつが、ダグラスは諦めて事故紹介することにした。
「私は、ダグラス。そこの彼女――ジェインの知り合いだ」
「ダグ、ね」
うなずいて、今度はジャックを見る。
「ジャック、ジェインの友達」
「ふうん」
「私は、ジェインです。……あの」
「うん?」
「……家出って、どちらから来たのですか?」