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水晶魚【すいしょううお】  作者: 今西薫
【第1章】
14/28

13

 ジャックは道に迷っている…というより、人に流されて中央の公園まで来てしまっていた。しかも、祭壇から結構近い位置で、よくこんな隙間が残っていたなと、不思議に思うような位置だった。

 唯一の救いは、マックスが傍らにいることと、大人ばかりでなく子どもも多いので、犬を連れて歩いていても、周りが配慮してくれるということ。

 ジャックは身動きがとれずただ流されるままの状態で、マックスから離れないように背中に手を置いて移動していた。

 ようやく動きが止まっても、今自分がいる場所が公園のどのあたりかも判らないので、きょろきょろして、現在位置と退路を探す。

 その様子を不審に思ったのか、すぐ後ろにいる男が声をかけてきた。

「坊や、どうしたんだい?」

「ちょっと流されてここまで来ちゃったからさ、どうにかして公園から出られないかと思って」

 見上げると、人の良さそうな男と目が合った。人の好さそうな顔立ちで、目を細めて笑んでいる。

「君は、祈りの子どもになりたいわけではないのだね?」

 男は少し驚いたように言ってから、ふむと思案顔になる。

「そっちの大きな犬は、君の連れかい?」

「うん」

「そうか。その犬がいなかったら、私が君をかついで外まで行くこともできるが、それは難しそうだね」

 ジャックは肯く。自分一人でもそんなに軽いわけではないのに、四〇キログラムを超える犬を一緒に担いでいくのは難しいだろう。

「君は、本当にいいのかい?」

「うん、まあ…」

 マックスの排泄が目的で、それがまだである、ということはなかなか言いづらい。このままここでさせるわけにもいかないし、とにかく、人込みから逃げ出さねばならない。

「では、右手を出して。左手はその犬をしっかりと持って…」

 言われるがままに、右手を出すと、しっかりと握られた。

「手をつなぐから。離してはダメだからね」

「え? おじさんはいいの?」

「この年じゃ、祈りの子どもに選ばれるわけではないからな」

 じゃあ、何のためにこんなところに居るのだろう。子どもがいるなら、引率者と思って思えないことはないが、子ども連れでないのなら、ここにいる意味は? と、そんなことを思う。

 男は、器用に対面する人たちとくるりと向きを変えながら歩く。

 ジャックは、置いて行かれないように、必死で握られた手に神経を集中した。

「祈りの子どもに選ばれた子どもには、願い事が適うと言われている。君には願い事もないのかな?」


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