8・頭上のヘリコプター
~双子サイド~
「………………」 「………………」
ふたりの前に、学校の高い門がそびえていた。
氷介はリターンしようとした弟の鞄をつかんで止める。
「何処行くの氷也?」 「帰る~っ!!」
「僕がついてるから大丈夫だってばー! それに、仲良くしてくれるヒトもいるかもよ?」
「ない! 絶対ない!」
氷也は首を横に振って、はっきりと全否定。
「そこまで言いきっちゃうんだ…。
まあ、シャカイ、ベンキョウ? のためにもいいんじゃない? 行くよー?」
門をすたすたとくぐると、氷介は弟を置いて行ってしまった。
「ああーっ!! ちょっ、どっち行って― ああ、もう!! 待てよこの野郎ー!!!」
「早く早くー。」
これから、ふたりは邪悪学園に通うことになった。
~ルーテさんとお兄さんサイド~
「ほほう。 今門をくぐったのが双子だよな?」
ルーテと兄は、空からふたりを見下ろしていた。
「僕にやられて生きてるはずないと思ったけどね。 あーあ、ぜーんぶ水の泡かよ~…」
「いや、そうでもない。 双子は、四大神のひとりと…接触してるはずだ。」
「え…?」
前に、兄がルーテに話した事がある。
四大神に力が及び、敵意のある危険な生命体が
その四大神に近付いた場合、兄にその情報が伝わるのだと。
「この機能が使われたのは、これでまだ3回しかないな…」
「? あとの2回はなんなの?」
「………。
1567年前に現れた最初の【狼の双子】と、それを倒した勇者だ。」
「………。 そっか、そうだったね…うん。」
『すっかり…忘れてたね。』
「よし、もう戻ろう。 早速その四大神が誰か、つきとめなくてはな。」
「はーい。」
~熊?~
熊は、のしっ、のしっと、町に姿を現した。
「ふうー…山の上よりはそう寒くは無いな…ん?」
熊は、[邪悪学園・入学式]と書かれた看板を見つけた。
その看板のわきには大きな門があり、奥には大きな建物があった。
「ほお…学校、か…。 ふん、丁度4月か…。
あいつらも、ここで入学式をあげてるかもな。」
熊はそのまま、その門をくぐった。
「はっはっは! 我が子と孫の顔を一度に見れるとは、な!
何て素晴らしいんだ! 入学式!」
~双子サイド~
1-1
教室の前にはそう書かれていた。
中にはふたりと同じくらいの子が、これからの学校生活を楽しみにしているようである。
「氷也、ここだよ。」 「あ、ああ…。」 「…は、入らなきゃ! 行くよ、氷也。」
「い、いや待て待て! まだ、心の準備が…。
だって、俺たちが教室入ったらどんな目で見られるんだよ!」
氷也は涙目で氷介の耳を引っ張った。
「ちょ、痛いってばー! ボクはあんまりそうゆうの感じないから、もう入るね?」
「ええっ!? ま、まてって!!」
『何でだ? 氷介の奴でも、嫌がると思ったのに…なんか、変わったな…。』
ガラッ。
氷介はけろっとした顔で教室に入ってきた。
とたんに他の一年生たちの眼が、歩くたびに揺れる白い髪、
その切れ間に見える獣の耳、深い緑の眼に釘付けになった。
氷介はきょろきょろと教室を見渡す。
「えーと、ボクの机は…あ、あったあったー♪ …ん?」
氷介はまだ戸に隠れている氷也を、不思議そうに見つめた。
「氷也―」
椅子を引いて戸のほうへ向かおうとした氷介は―
横の窓に、一気に大きな、暗い影が出るのに気付いた。
「 ―?」
ヘリコプターのパラパラパラという音が空から響く。
他の一年生たちは冷気が入ってくるのもかまわずに、窓をガラッと上に押し上げた。
氷介もそばの窓を素早く開けると、雪の地面にひらりと出ると、上を見上げた。
そこにはやはり、空でヘリコプターが空中停止していた。
「…? 誰か、…降りてくる?」
皆気付きはしなかったが、廊下側で教室の後ろの戸を開けようとしている影が、
氷也には見え、誰か、分かっていた。
「…あ。」
~熊?~
「ふん…ここか? 教室の構造ってのはよくわかんねえな…まあ、いいか。
教室の場所も突き止めたし、開けるぞ、……せェーのっ!!」
熊は勢い良く、その教室の戸を開けた。