第一章 第4節 『眠れる獣を撫でて』
生きるために抗う怪物の背に、微塵の怯えもなく座ったカリは、流れるような動作を見せた。右の手首から光の鎖を解くと、エネルギーの鞭は彼の左手に握られた他の鎖と共に、静かに束ねられていく。
一瞬の呼吸の隙を得たアノマリーは、絶望的な抵抗で首を動かそうとしたが、カリは動じなかった。慈しむような、ゆったりとした仕草で、幼き精霊は空いた右手を伸ばす。そして、最も熱が渦巻く赤結晶の背中に、開いた掌をそっと添えた。
触れた瞬間、怪物の放っていた狂暴な紅い輝きは、カリの指先から溢れ出した深く穏やかなエメラルドグリーンの光に飲み込まれていった。その輝きがあまりに純粋だったため、アランとベンジャミンは思わず目を細めた。
「おやすみ」
カリが囁いた。
その声は優しく、それでいて拒絶を許さない無垢な響きを帯びていた。
刹那、アノマリーの激しい震動が止まった。草を枯らしていた灼熱の熱気は消え去り、代わりに涼やかな風が吹き抜ける。先ほどまで強靭で致命的だった結晶の体は、見る間に生気を失って地面へと崩れ落ち、その火炎の輝きは濁って静まり返った。怪物は死んだのではない。ただ、その意識が深い眠りの中に封じられたのだ。
カリは手を離し、反抗的なペットをなだめ終えた飼い主のような好奇心を瞳に宿して、己の業を眺めた。光の鎖は空中に溶け、地面に触れる前に輝く塵となって消えていく。
丘に訪れた沈黙は、絶対的なものだった。アランとベンジャミンはただそこに立ち尽くし、青いジャケットを着た少年を見つめていた。倒された怪物の背に座ったまま、自分が引き起こした驚愕などどこ吹く風で、遠くの地平線を眺めながら足をぶらつかせている少年を。
アランとベンジャミンは沈黙したまま、その超現実的な光景を見守っていた。今は物言わぬ巨獣となったアノマリーの背に座り、カリは眠る猫を撫でるようなリズミカルな手つきで、濁った結晶に手を滑らせている。そのエメラルド色の瞳は、依然として地平線のかなた一点を見つめていた。
ベンジャミンが沈黙を破った。未だに細い蒸気を上げているバイオメカニカルな籠手を下ろし、眼鏡をかけ直して、隣の友人を盗み見る。
「なあ、アラン……」ベンジャミンは、青いジャケットの少年から目を離さずに囁いた。「あそこにいるの……本当に彼なのか? 大精霊カリ? 伝記に記された、宝瓶宮の具現だってのか?」
アランは長く安堵の溜息をつくと、黒いズボンのポケットに手を突っ込み、ようやく肩の力を抜いた。
「ああ」アランは、数分前の混沌とは対照的な落ち着いた声で答えた。「彼だよ。天の水の守護者だ。今はただ、誰かがお菓子を持ってくるのを待ってるようにしか見えないけどな」
ベンジャミンは眉をひそめ、持ち前の分析的な思考でカリの姿を上から下まで観察した。
「太古の存在だってことは分かったけどさ、でも……」ベンジャミンは困惑した仕草で精霊の服装を指差した。「なんで大精霊アクエリアスがあんな格好をしてるんだ? あの靴に、あのダウンジャケット……。彗星衝突前、旧現代世界のアーカイブに出てくる服装そのものじゃないか。なんで太古の精霊が、一世紀前の少年みたいな格好をしてるんだよ?」
アランは一瞬、口を閉ざした。彼は手を上げると、少し引きつった笑みを浮かべながら後頭部をかき、説明に困ったような表情で視線を逸らした。
「まあ……それは……」アランが濁した。




