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守りたいもの



 甥が衛兵により連行された。現在隣では、手から夥しい量の血を流すノクター伯爵を夫人が手当てしている。伯爵はまだ気が収まらないらしく甥の去った方向を鋭い眼光で睨み付けている。


「あなた」

「……」

「あなた」


 夫人の注意に伯爵はしゅんとした。力関係が読めない。


「怖かったね、もう大丈夫よ」

「そうだ、私たちがついているぞ」


 一方、僕の両親は落ち着いていた。お母さんはレイ・ノクターの肩にぽんぽんと触れ、お父さんは僕の頭を撫でている。


「あの、アーレン伯爵、夫人、少しよろしいでしょうか?」


 衛兵の二人組がこちらに向かってくる、事情聴取だろう。さりげなく両親から離れつつもう一度ノクター夫人に目を向ける。伯爵をしきりになだめる様子は元気とは言い難いが生きていることに変わりはない。


 死ぬかと思った。


 足から力が抜け、地面にへたり込みそうになる。すると寸前のところで何かに支えられた。


「大丈夫?」


 レイ・ノクターが僕を支え、心配そうにこちらの顔を覗き込んでいる。先ほど自分の父を見ていたような呆然としている様子はなく落ち着いていた。


「だ、大丈夫です、す、すみません」


 頭が回らず、呂律も回らない。そもそもこの状況でどう接するべきなのか分からない。元気づけようとしても、僕の言葉で元気が出る訳が無い。なんて声をかけるのが最善なんだろう。そもそも、最善の言葉があるのかすら分からない。言葉をかけないほうが正しいのではないだろうか。支えてもらったお礼を伝え、レイ・ノクターから離れ周りの声に耳を澄ます。ノクター伯爵のほうも事件の聴取をされているらしく、今日この場にいる経緯を伝えていた。


「犯人は、何日も前から計画していた様でして、その、奥様の殺害計画を」


「ではあの時、扉を開いていたら」


「おそらく無事では済まされなかったでしょうね……今日はもう遅いですし、後日屋敷にお話を伺いに向かってもよろしいでしょうか? その……奥様にも、お伺いしたいことが、いくつか」


「ああ……、妻が話せるようになれば……僕の方は明日でもいい。協力は惜しまない」


「ありがとうございます。それでは失礼します」


 ノクター伯爵は大分落ち着いてきたのか淡々と返す。先ほどまで怒り狂い甥を太鼓のように殴りつけていた姿はもうない。じっと見ていると、伯爵はぐるりとこちらを振り向き、完全に目が合った。


「……えっと、失礼します」

「待ってくれ。話がある」


 誤魔化そうとすると、伯爵は引き止めてきた。


「君は、どうしてー……」


「一度戻りましょう、お互いの、子供たちのこともありますから」


 いつの間にか後ろに立っていた父の言葉が、ノクター伯爵の言葉をさえぎった。た、助かった。父は素早く馬車を呼びつけ、帰宅の準備の手筈を整えていく。そうして僕は、いや僕たちは馬車に乗り、誰も減ることなく屋敷へと帰ることができたのだった。





 劇場から止まることなく走っていた馬車がとうとう屋敷に到着した。辻馬車の御者が扉を開くのを見計らい父は母とともに降りた。そして父が追加のチップを支払い、馬車がアーレン家の屋敷から去っていくのを見届けてから両親に向き直る。月明かりに照らされた二人は、僕を見て不思議そうに首を傾げた。僕はそのまま頭を下げる。


「今日は、ごめんなさい」


 両親にはずいぶんと恥をかかせ、危険な目に遭わせた。流石の両親も、今回の我儘は咎めるはずだ。しかし二人は僕の肩に揃えるように手をのせた。


「謝らなくていいんだよ、理由があったんだろう? でもこれから先、何か怖いことが起こりそうになったらすぐに言うんだよ」


「え」


「ミスティを、私たちは絶対に疑わないわ、あなたは僕たちの宝物。何があっても、誰よりもあなたのことを信じるわ」


 二人は微笑んでいた。絶対に、気になるはずなのに。聞き出したいはずなのに。僕がどうしてこんな凶行に至ったのかの理由を、一切聞くそぶりがない。そのうえで、信じると言ってくれている。


 二人はそうして、大切そうに僕を抱きしめた。咎めるどころか、慰めてくれている。あれだけ迷惑をかけた、僕を。


「でも、僕、迷惑をかけて……」


「当たり前でしょう、家族なんだから」


「迷惑だなんて、子供が親に気にすることじゃないんだよ。いつだってミスティの好きなようにしていなさい」


 お父さん、お母さん。体温がすごく暖かい。その温度を感じるたびに申し訳なくて、それでいてあまりに優しくて、安心した。


「ありがとう、お父さん、お母さん」


 前世の両親も大切だ。それは変わらない。でも今世の両親は、この二人だ。大切な、大切な僕の家族だ。


 ……だから、絶対、守らなくてはいけない。その為に、僕は未来を変える。


 二人を抱きしめ返して、僕はそう強く誓ったのだった。





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