すべて僕の思い通りにする
「レイ様と一緒に行きたい行きたい行きたい行きたいいいいいいいいいーーーーー!」
這いつくばり唸る僕を囲い、ノクター夫妻、レイ・ノクター、我が両親は呆然と立ち尽くしている。そんなことは一切気にせず、僕は全力で暴れる。
「イキタッイヨォオオオオオオオオオアアアアアアアアア!!」
人が不愉快だと思う音程と声量を狙い、お腹の底から声を張り上げる。
ノクター夫人が殺害される当日の昼、僕はただただノクター家の屋敷で、暴れていた。
つまるところ両親のところへ向かい僕のしたことは「わがまま」だ。ミスティ・アーレンの切り札、それは「父と母にお願いして強引に事を進める」この一択である。
ある時は証拠隠滅、またある時は主人公の友人を退学に陥れる為に、「パパママにおねがーい」をしてきたミスティ。主人公もといプレイヤーは、このミスティの必殺技により苦しめられた。いわゆる伝家の宝刀。今使わないでいつ使うべきかと、僕は昨日寝室へ向かう両親を追いかけ、「レイ様のおうちに遊びに行きたい!」と我儘を言い続けた。
始めは僕のアグレッシブな態度に、熱があるのではと屋敷の中で待機している専属医を呼ばれかけたし、ノクター家に迷惑と普通に注意された。しかし流石というべきか、ゲームで数々のミスティの悪行に加担しただけあり、両親は息子の僕に対して大層甘い。最後には馬車を出すことを許してくれた。
約束すら取り付けず、家に突撃するなんて非常識この上ない。しかし僕は夫人の命を守る為、今日、こうしてノクター家に突撃し、劇場に同行ひいては殺害現場になる馬車に同乗する為、ノクター家、つまるところ他人の家で癇癪を起していたのだった。
「一緒にいぃーくぅーのおおおおおおおおおお」
採れたての新鮮な魚のようにびたんびたんと両手両足を伸ばし、憤りを現すべく一心不乱にそれを地面に叩き付けることを繰り返す。
高級な絨毯と言えどその下は冷たい大理石だし、普通に全身が痛い。叩くたびにダメージが全身を駆け巡っていく。自分の行動を考えると精神的にも死にたくなるが、人命を考えれば構っていられない。見栄も恥も知ったことではない。
しかしながら「今まで我儘なんて言わなかったミスティが我儘を…」と両親は感動していることがまた地獄をより一層深いものにする。記憶を取り戻すまでも僕の意識はミスティではなく僕だった。我儘どころか、こうした夫人の命が危ないみたいなトラブル以外は置物のように過ごしていたので、両親からすれば相当な驚きだろう。
ノクター夫人は苦笑しているし、レイ・ノクターと伯爵に関しては、まるで化け物を見るかのような目で見ている。正常な反応だ。良く知らない相手が自分の家で大声を出して暴れる。普通なら通報確定だ。
空間的には公開処刑場という表現が正しい。「困ったな~地獄絵図の見本が欲しいな」と困った誰かのニーズに完璧に応えられる状況だ。最悪。しかし人命がかかっているのだ。むしろ人命がかかってなければしない、人命がかかっているからしている。これは夫人の死亡する未来を変えるための計画の一環だ。
そう、これは計画……殺害現場になるであろう馬車に同乗し、扉の席に陣取り、甥が来ても開けない。そこで甥を挑発し、僕を殺しかかったところを劇場の守衛や護衛に確保してもらう、という背水の陣どころか腰まで水に遣っている大博打。
本来は劇場に向かうことを阻止するのが一番好ましい。しかし劇場行きを阻止しても甥が殺しに来なくなるとは限らない。行動が把握できる今取り押さえるしかない。
かといってこの計画には問題や欠点も山積みだ。
だって相手を上手く怒らせ刃物を出させなければならないから。
相手は面識のない男でもなく身内枠。だからこそ接近できたのだろうし。怪しい行動だけでは衛兵に突き出せない。犯人逮捕の決定打という最も肝心な点が運任せ。でもこうするしかない。
よって、馬車への同乗を許してもらうために現在癇癪を起している。早く馬車に乗せるのを許可してほしい。どうせ今日が過ぎればこちらから突撃することも無い。今日だけでいい、早く許可しろという祈りを込めて壁を連打し始める。
「やだああああ一緒に行くのおおおああおあおあ!!」
加えて断末魔を二十秒おきに繰り返すこともやめない。祈りの押し切りビブラート。助けてくれと心から願う。ノクターの屋敷に来ていつも思う。助けてくれ。
「こんなに行きたいって言っているのだから、連れて行ってあげましょうよ家族になるのだし、ね」
鶴の一声ならぬノクター夫人の一声が聞こえる。夫人は困ったように笑っていた。こんな人間普通に家族にしたくないだろうに。聖母か何かだろうか。一方ノクター伯爵とレイ・ノクターは僕を軽蔑していた。流石親子。そっくり。正直なところ今日さえ終われば自分からノクター家に関わるなんて絶対にしない。今日で最後です、ごめんなさいと僕は心の中で謝った。




