侍女とお出かけ 前編
メロは僕に気づくと「ミスティ様」と近づいてきた。手を振るとメロはサッと僕の手を取る。
「では行きましょう、ミスティ様」
「うん」
差し出された手を、ぎゅっと握る。そして僕はメロとともに門の外に留めてある馬車へと向かっていった。
「なんか、こうしてメロと歩いてるだけで楽しいなぁ」
メロと手を繋ぎながら街に並ぶ店を眺め歩いていく。澄み渡る青空で天気がいいこともあり、人の出はそこそこあるように思う。店のテラス席では貴族たちがお茶を飲み、絵にかいたような穏やかな時間を過ごしている。道は従者を連れた令嬢や令息が歩き箱や袋を抱えていたり、馬車に荷物をこれでもかと詰め込んでいる。
先ほどまでは、僕もメロと、そして御者のソルさんと共に買った荷物を馬車へ詰め込んでいた。本当に大変な作業だった。というのも僕はリザーさんをはじめとする掃除夫のみんなに肌荒れに効く香油を購入した。香油といっても匂いのないものだ。香り自体は後から足し、自分で香りを選んだり混ぜたりして使用するらしい。それらを買って、他にも色々買ってみようと選んだ。門番のブラムさんは新しいヴァイオリンが欲しそうだったし、侍医のランズデー先生の好きな画家の絵も発見したし、とにかく色々買って、家令のスティーブさんが好きな本も見つけた。そうして色々使用人のみんなに物を買い、あの人に買ったからこの人にもと探すうちに増えてきて、荷物が膨大になってしまったのだ。
そして荷物を馬車に詰め込みまたメロと買い物を再開させ、ゆっくりのんびり街並みを見物しながら歩いている。街並みを見るのは、そこそこ好きだ。楽しいと思う。けれど今はメロと手を繋ぎメロと話をしながら歩いているからか、すごく楽しい。
「私も、ミスティ様の手を繋ぎ、こうして歩いているだけでとても満ち足りた気持ちになります」
メロは僕の手をきゅっと握る。ただ二人で何となく微笑みあい、きちんと前を向いていなければメロまで巻き添えにして転んでしまうと気づき、はっとして前に顔を向けた。すると通り沿いに、目に焼き付いた金の髪が、日の光を受けより煌めくように輝き風に靡く姿が見えた。その様子に肝が冷えるとメロは「ミスティ様?」と僕の手を握る力を強めた。
「レイ様がいる」
通りを挟んで、いわゆる対向車線に、僕たちとは進行方向が明らかに逆へ向けれど・ノクターとその護衛が歩いているのが見えた。メロは小声で「こちらに注意をひきつけましょうか?」と問いかけ黙って首を振る。
「しないで。今日は知り合い誰とも会いたくない気分だから」
そう伝えるとメロは不思議そうに僕を見た。当然だ。婚約者に会いたくないと言ってるようなものなのだから。しかし理由は説明できない。メロの手を握りそのまま相手に気づかないふりをして歩いていく。同じ道ではなく馬車の走る道を挟んでいたことが良かったのだろう、レイ・ノクターは僕に気づかずそのまま歩いていった。
「ミスティ様?」
「大丈夫……」
メロに心配をかけないよう誤魔化す。そして後ろが気になるけれど振り返らずメロを連れるように歩いていく。メロは始め僕の後を追うようだったけれどすぐに僕の隣に並んだ。そのまま大通りを外れるように曲がると、そこには小さな店がいくつも並ぶような通りになっていた。先ほど大通りを歩いていた時と同じように店眺めて進んでいくと、ふいに大きなショーウインドウが視界に入った。通り沿いに面するように並べられた、いくつもの写真立て。どことなくそれが気になり足を止めるとつられるようにメロも足を止めた。
この店に、入ってみたい。漠然とそう思ってメロに声をかけると、彼女は頷き店へと足を向けた。そのままメロとともに厚く艶めく木の扉を開いて、中へと入っていく。中はほんの少し薄暗く、棚やカウンターをすべて木で作り上げた温かみのある店内だ。そして中央には棺のような硝子のケースが置かれ、中には右から左、上から下まで写真立てが並べられている。初めて入る店だけど、どことなく親和性が高い。壁沿いには雑貨が並べられていて、どことなく一点物が多い印象を受ける。ふとメロの方を向くと、メロが硝子ケースに手を当てて、ある写真立てをじっと見入っていた。黒薔薇と銀の彫刻があしらわれたもので、ところどころに宝石がはめ込まれていた。そんな写真立てを見るメロの目を見て、確信した。
「メロ、ちょっとあっちの、何だろう、壁にかかってる布の値段見てきてくれない?」
「……? わかりました」
さりげなくメロを遠ざける。一瞬、手を繋いでいることで躊躇われたり約束を破ったと見なされるのではと考えたもののメロは頷いてタペストリーのほうへ向かっていった。その姿を見届けてからメロの見ていた商品を買うべくすぐにお会計のカウンターへと向かう。
「ああ、ミスティ・アーレン様! 勇敢なアーレン家の若様とお会いできる日が来るとは」
店主の口から突然言われた言葉に違和感を覚える。けれどメロが帰ってくるまでに店員さんには包み終わってもらわなければいけない。他に追加で買い物をしなければ余裕だろう。ほかに買いたいものもないし、大丈夫だ。
「あの、あそこの品物を購入したいのですが」
「かしこまりました」
店主は手袋をはめ、硝子のケースへと向かっていき写真立てを取り出した。メロが帰ってこないか気にしつつ、写真立てが包まれていく様子を見ていると、ふいに店員さんがレジスターの横から箱を取り出す。
「こちらの写真立てはいかがですか? 対になっているものでして、それがこちらに……」
「……買います。袋別でお願いします。あとこっちは贈るものじゃなくて自分用なので、簡易包装でお願いします」
頷くと店主はにやりとしながら追加の写真立てを包み始める。商売が上手すぎる。でもこれでメロとお揃いだ。僕は満足しつつ、店主が包み終えるかメロが戻ってくるかとじっと二人の挙動を注視していた。




