表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/14

悪の目覚めは突然に

 今日は僕、ミスティ・アーレンの十歳の誕生日だ。


 誕生日と言っても、夜は深まり今日も終わる。後はもう寝るだけ。カチカチと秒針が時を刻む音がする方に顔を向ければ大きな時計の影が見える。その時計の最上部にはアーレン家の薔薇の紋章が施されている。今は部屋の明かりを消しているので見えないけど。


 屋敷にあるあの紋章を……いや薔薇を目にする度、僕の両親は繰り返し「我が家は高貴な貴族の家系だ」ということを強調する。


 祖先は貴族として在るだけでなく、王家に騎士として仕え武功を上げ続けたと母は語り、またある時は神官を務めていたと父は語る。常日頃、両親は僕を「特別だ」「特別な子だ」と扱う。でも結局のところ僕自身が王室の騎士や神官というわけではない。僕は何者でもない。得意なこともない。夢中になっているものもない。何もない。


 伝統あるアーレン家に偶然産まれただけ。家柄しか特徴が無い。それが僕、ミスティ・アーレン。今日開かれた僕の十歳の誕生日パーティーは、その本人の何もなさに反比例するかの如く盛大に行われた。


 肉料理は勿論、海沿いに面していない立地にもかかわらず新鮮な魚料理が登場した豪勢な料理の数々、見ているだけで眩しい宝石を散りばめた綺麗な装飾、把握なんてとてもしきれない来賓たち。


 派手。煌びやか。豪華絢爛なパーティは、祝われている僕自身が萎縮する規模だ。だからか、その余韻もあってあまり眠れない。


 誕生日を祝われること自体は、嬉しい。自分がただ生きているだけで喜んでもらえる日。それが誕生日。


 でも、身内だけでしたいと思ってしまう。毎年、毎年、盛大なパーティーを開かれるものの、僕は家族や身近な、普段屋敷で働いてくれている人たちと机を囲み、ケーキを食べる、そんなパーティーがいい。


 豪華な食事や装飾、大多数の来賓者も、ありがたいと思うけど、必要かと問われればそうではない。


 でも、これは言ってはいけないことだ。伝え方を間違えれば父や母の気持ちを踏みにじる。


 先週、両親に今月二百五十九回目の欲しいものを聞かれた際「お父さんとお母さんが健康で居てくれれば」とあまりに無粋な返答をして泣かせてしまったばかりだ。もっと一人息子の誕生日を祝いたい親心を加味し、具体性のあるものを答えれば良かったのに無下にしてしまった。


「駄目だなぁ……」


 ベッドに転がっていてもどうにも眠れない。起き上がりベッドから離れ、カーテンと窓を開いた。春ではあるものの、肌に触れる夜風は冷たい。ぼんやり景色を見上げると、空には大きな月が浮かんでいる。その光は、今日の豪華絢爛なパーティーを思い出させるほど、きらきらと輝いている。その月を見て、ため息を吐く。


 今日は父の友人、母の友人、その他諸々が交代制で延々と繰り返す挨拶により、酷く疲れてしまった。疲れれば眠くなるはずだ、しかし人は限度を超えれば眠れなくなるらしい、一向に眠くならない。


 一人対、三百人規模の挨拶はもはや戦いだ。疲れるのも無理はない。窓の外、月明かりに照らされた我が庭園を見渡す。手入れが行き届き、どんな時に見ても美しい。花も木々も、まるでゲームのオブジェクトのように均等に並んでいる。庭師のフォレストが全て整えてくれた庭園たちを眺め、ふと我に返った。


「……オブジェクト……ゲーム?」


 自分で言っていて、言葉の意味が分からない。オブジェクトとは一体なんのことだろう。最近こんなことばかりだ。訳のわからない言葉が、口から飛び出してくる。


 ふと、視線を窓から逸らすと、窓枠にきらりと光る何かがあることに気づいた。近づくと僕の手鏡が置かれている。


 そうだ朝、身だしなみを確認しているときに、父に呼ばれここに置いて僕は部屋を出た。思い出しながら手鏡を拾い上げ、一応割れているところはないかと覗き込む。


 当然の様に映り込む、僕の顔。黒髪に赤い目をしたツリ目がちで、真面目な顔をしていれば怖い、何も考えていなければ虚脱していたり憂いていると誤解される僕の顔。映っていないほうが逆に恐ろしいはずなのに、言いようのない不安感が拭えない。この顔は、僕、アーレン家の嫡男。ミスティ・アーレンの顔で間違いないはずなのに。


「そう、ミス…」


 名前を呟いてからずきりと頭が痛む。その痛みが合図だったかの様に、映像が、音が、走馬灯のように頭を駆け巡ってくる。今まで見ていたもの、聴いたもの、感じた事、その全てが、全てが鮮明に。


 制服に身を包み学校へ行き授業を受ける僕。家で弟と会話する僕。ベッドに寝ころび、ゲームを操作する僕。そこに映る、ミスティ……ミスティ・アーレン。


 鏡に映りこむのは、ずっと画面ごしに見ていた、彼女の顔だ。


「僕ミスティだ」


 僕はまごうことなきミスティ・アーレンである。それは間違いない。しかし僕は、ミスティであってミスティではない。だからこそ、絶望した。


「なんで、僕が、ミスティに……?」


 ここが、恋愛シミュレーションゲーム……いわゆるギャルゲ世界だという、現実に。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ