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第四章|ヤキモチ子猫、さつきのおあやし

曉雨あめはまるで、小魚を横取りされた猫みたいにぷいっとすねて、

廊下の角にぴったり身を寄せ、壁の陰からそっと顔を半分だけのぞかせていた。

視線の先には、筱月さつき


彼女は今、笑顔を浮かべながらファンたちとオンラインでやりとり中。

スマホのフラッシュがぱちぱち光り、

「こんにちは!初めまして!」「これからもよろしくです!」とコメントが次々に届く。

筱月はその一つひとつに丁寧に、そして嬉しそうに返していく。

その顔は、嬉しさを隠せずにキラキラしていた。


……それが、面白くないのだ。曉雨は。


「ふんっ……」

小さな鼻息と共に、唇を尖らせて壁をちょんちょん。

指先で壁の模様を無意識に突っつきながら、

「……なによ、そんなに楽しそうに……」と小声でぶつぶつ。


その声はまるで猫の爪が床をひっかく音のように小さく、

でも――筱月の耳には、ちゃんと届いていた。


指が止まり、彼女はそっと視線をあげる。

曉雨の、ちょっと不器用に隠れているその姿が、

お見通しなのを知らずに、ぴょこっと覗く様子が――かわいくて、たまらない。


筱月はニヤリと微笑んで、何も言わずスマホを弄るふりを続ける。

気づかないふりをして、わざとそのままにしておく。

まるでソファの下に隠れた猫をちらちら見ながら、あえて構わない――

そのくすぐったい遊びのように。


「ふんっ!!」


今度は少し大きめの鼻音とともに、

ヒールが床を「コッ、コッ、コッ」と小気味よく鳴る。

まるでリズムを刻むように。あるいは、怒りの足踏みのように。


“拗ねてるよー!ねえ、気づいてー!!”

……けれど、身体はまだ壁にぴったりとくっついたまま。踏み出す勇気はない。


筱月は、とうとう我慢しきれず吹き出しそうになる。

スマホを置き、そっと立ち上がって――忍び足でその影に近づいていく。


曉雨はまだ、自分の世界に没頭中。

床の線を指で数えながら、「次はもっと大きく鼻鳴らすべき……?」と策を練っていた、その時。


手首がきゅっと掴まれ、腰元にぬくもりが当たる。


「……っきゃ?」


思考が追いつく前に、すぽんと懐に引き寄せられる。

顔を上げると、すぐそこに――筱月の、笑った目が。


「んん~?ここでむすっとしてる小さな子猫ちゃんは誰かな?」

筱月は顔を近づけ、鼻先が触れそうな距離で囁く。

その声はくすぐるような低音で、ちょっぴり意地悪。


「ん?誰かな~?」


「べ、別に私じゃないし!誰が拗ねてるってのよっ……!」


曉雨はそっぽを向いて言い返すけれど、耳は真っ赤、声は震えて、

その仕草すら小さな毛玉のようで――


その瞬間、ふわっと唇にぬくもり。


筱月が、そっとキスを落とした。

まるで羽根が触れたような、柔らかくて、ちょっとくすぐったいキス。


おでこにも、ちょん。


「うそつきさん。ほら、顔が真っ赤だもん。図星だよね?」


曉雨は小さく押し返すが、それはまるでぬいぐるみのような無抵抗。

口では「……ばか」と言っても、目元と唇は笑ってる。


さっきまでのちくりとした嫉妬心なんて、

こんな一瞬の優しさで、すーっと溶けてしまう。


曉雨は小さく「ふん」と言いながら、そっと筱月の胸にすり寄る。

まるでようやく飼い主に拾われた猫みたいに。


筱月はくすっと笑って、腕を強く回す。


「次からは、会いたくなったら素直に来なよ?

そんなとこで隠れてないで。私、食べたりしないんだから」


「だ、誰が会いたいって言ったのよっ……!」


その声はふわふわしてて、風に溶けてしまいそうなほど儚くて。

曉雨は顔をぐいっと胸に埋め、

彼女の匂いとぬくもりに包まれて、そっと目を閉じた。

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