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9/13

 翌日は朝一番に父から呼び出された。

「何度、恥をかかせれば気が済むんだ!! 昨日は王子殿下を残して勝手に帰ったというじゃないか!!」

「申し訳……」

「聞き飽きた!! お前の謝罪はいつも上の空で、本当に詫びているとは思えない。もう、懲り懲りだ。二度とパーティーには連れて行かん」

「……はい」


 父は私を書斎から出て行けと手で払い、大慌てで謝罪の手紙を書き始める。


 自室へと向かいながら、内心ほっとしていた。

 これでもう、ソレイス王子殿下と顔を合わす機会も無くなった。あとは時間が解決してくれる。


 初めて恋をした。

 

 子供の頃、カリスト様に惹かれていたけれど、それは単なる思慕だったと、この歳になって理解した。ソレイス王子殿下への想いに比べれば愛の重さは天と地ほど違う。

 カリスト様が遊び人だと知ったのは、驚いたしショックだった。でもそれだけだ。


「まま!!」

 私を見つけたアメリーが走り寄る。父に呼び出されている間、侍女が散歩に連れ出してくれていた。

 

 アメリーが、手に握っていたピンクの花を差し出しす。

「私にくれるの?」

「うん!!」

「綺麗ですね。ありがとう、アメリー。部屋に飾りましょう」

「ままも、いこう」

「花壇へですか? えぇ、行きましょう。沢山、咲いていましたか?」

「うん!!」

 

 手を繋いで歩き始める。

 この前までは抱っこだったのに……子供の成長は早い。


 侍女は「花はまだ咲き始めたばかりですよ」と笑う。

「きっとお嬢様と一緒に行く口実ですね」

 小さな子供でも、気を引く術を知っている。なんだかアメリーの方が世渡り上手な気がして、侍女と一緒に笑った。


 平和な時間が過ぎていく。

 

 ソレイス王子殿下も、流石に私との結婚は見限ったようだ。父が謝罪の手紙を送った依頼、音沙汰もない。


 冷静になって考えれば、あの夜の自分の行動を振り返れば見限られて当然だ。

 悲しい選択をしたのは私の都合で、王子殿下からすれば、恥をかかされ、顔も見たくないほどの嫌悪感を抱いていてもおかしくない。


 あれからも父は、数回、社交の場へ赴いたが、ソレイス王子殿下は参加されなかったのか、向こうから避けられていたのか、何も話さなかった。


 自分から逃げておいて、気にするなんて間違えている。気になるなら、最初からしなければよかったではないか。

 誰かに話せばそんなふうに言われるかもしれない。でも、あの時の私にはそうするしか方法がなかった。

 ソレイス王子殿下を愛する勇気が持てなかった。


 時間が解決してくれるなんて簡単に考えていたが、今は平和な時間が果てしない酷道に思える。

 

 パーティーに行かなくなり、お腹が苦しいほど締め上げるドレスも着なくて良くなった。

 頼まれた仕事をこなし、合間でアメリーとのティータイムを楽しむ。

 彼女が寝た後は本を読んで過ごす。


 波風の立たない暮らしの中で、ソレイス王子殿下を思い出さないようにするのは難しかった。

 直ぐに忘れるのは不可能でも、少しずつ考える時間が短くなっていけば良いと、自分を慰めることで気持ちを誤魔化す。


 悩みはそれだけではなかった。

 侍女から聞いた姉の話。

 

 頭の片隅で気になっているが、両親が私の前で話したがらないので自分からは聞けない。

 けれど自慢の娘の話をしないこそ、侍女の話の信憑性が増すというものだ。

 

 以前なら「アナスタジアなら……」と付け加えるのが口癖だった父が、今は名前すら出さない。


 両親の部屋にも出入りする侍女からの情報によれば、日々状況は悪化している様子であった。

 

「離縁されるかもしれないですよ」

「そんな話が進むほどなのですか。アメリーはどうなるのでしょうか……」

「例え出戻られたとして、直ぐに新しい出会いを求めてパーティーへ通われるでしょう。子供がいては何かと不利だと考える方ですから、返して欲しいとは仰らないと思いますよ」

「だと良いですが……。何があっても、あの子だけは守りますわ」


 姉への羨望は消えていた。

 彼女の人生に、口を出すつもりもない。いつだって、自分らしく生きればいい。

 けれど、何故か胸騒ぎがする。

 根拠のない不安に襲われる。


 (気のせいよ、セレフィナ。セレスの言う通り。アメリーを戻せなんて言うはずないわ。きっとソレイス王子殿下のことで、ネガティブになりやすいのね)


 精神面が不安定なままでは、アメリーに悪影響が及ぶかもしれない。

「アメリー、ハーブを摘みに行きましょう」

「いくー!」

 元気のいい声が響く。

 スッキリしたハーブティーを楽しもうと、敷地内のハーブ園へ向かう。


 ふと門扉に視線をやると、一台の馬車が入ってきた。モンフォール家の馬車である。

 両親はいないはずだ。じゃあ、誰が……。


 先程の胸騒ぎを思い出す。

 遠目にでも、馬車から降りてきた人物は誰か分かった。

 アナスタジアだった。


「アメリー、急ぎましょう」

 見つからないうちにと、この場を離れた。

 

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