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 パーティー会場へ着くと、目に飛び込んできた豪壮な舞踏会の会場に目が眩んだ。

 

 (か、帰りたい……)

 既に人で溢れていて、父の背後に張り付いて入場するも、周りの人と視線を合わせられず、ずっと俯いていた。

 

「セレフィナ、挨拶くらいしてくれないと私が恥をかくだろう」

「申し訳ありません、お父様。緊張してしまって……」

「はぁ……、アナスタジアなら挨拶から躾けなくてもいいのに」

 父は盛大なため息を吐いた。


 こんな煌びやかな場所に物怖じしてしまうのは仕方ない。当然の如く、姉のように上手く周りに馴染めなかった。

 父は私を見切ったように突き放し、人の輪に入ってしまう。

 優雅な音楽が流れ、人々はダンスを楽しんでいる。

 

 ダンスは幼い頃から習っていた。けれど、ダンスは一人でするものではない。誘われる前提での練習なのだ。

 

 しかしこの広い会場のどこに、私のような人を誘おうと思う人がいるだろうか。

 たったの一人だっているわけもない。

 素敵なご令嬢は艶っぽい視線を男性に投げつけて『誘ってほしい』とアピールしている。

 

 (でも、殆どのご令嬢の本命はソレイス殿下なのよね。いまだに婚約もしていないって、さっき話が聞こえてきたもの。もしかすると、パーティーでの出会いを求めているのかしら)

 

 少なくとも、女性はソレイス王子殿下から見初めてもらうために着飾っている。

 ヘアドレスにまで拘りを感じる。

 誰もが気にかけてもらいたくて必死なんだ。


 私はみんなと同じ舞台には立てない。

 同じ熱量でパーティーに臨めない。

 

 この雰囲気に酔っている。来たばかりなのに、いつ帰れるだろうと、アメリーに思いを馳せてしまう。


 流れに逆らい壁際に移動する。

 (ここから眺めているのが一番楽しいかもしれないわ)

 学園に通っていた頃に目立っていた人たちを数人見かけたが、大人になり更に精悍さを増していた。

 (あの方は、リシェリオ公爵様のご子息……あちらは、カリステル伯爵のご令嬢……一緒に踊ってたっしゃるのは、確か婚約者の方ね)

 しばらくパーティーを眺めていたけれど、それにも飽きて、勧められたシャンパーニュを断ると庭園に出た。


 人の熱気で息苦しくなってしまった。

 着慣れないドレスも原因している。

 会場から一番近いガゼボに腰を下ろしたものの、ウエストを強く縛られていて息苦しい。

 ゆっくりと深呼吸を繰り返しながら、夜空を眺めていた。


「綺麗……」

 月は細く痩せているが、満天の星空は幾分か私の心を慰めてくれた。

 

「案の定、上手く振る舞えなかった。きっとお父様はカンカンに怒ってらっしゃるわ」

 明日はなんと言い訳しようかと、悩んでしまう。

 父の怒る顔を想像して、一人苦悶していたため、人が近づいているのに気がつかなかった。

 

「おや、こんな所で、お一人ですか?」

 突然、声をかけられ即座に立ち上がる。

 そこには見上げるほど背の高い男性がいた。相手が私を知らなくとも、この人が誰なのかを知らない人はいない。

 

「……ソレイス・ノエ・アルカディア王子殿下」

「私を知っているんだね。君は?」

「セレフィナ・ド・モンフォールと申します。本日はお招き頂き、ありがとうございます」

 カーテシーは完璧にはできなかった。

 パーティーへの出席を目標に、あれだけ練習したのに、やはり完璧にはできない。

 足がぐらついたのは、ソレイス王子殿下にもバレているだろう。


 ソレイス王子殿下は気にしておらず、ガゼボに並んで座ろうとしたので、私は慌ててガゼボから飛び出した。

 

「座らないの?」

「めめ、滅相もございません! 私は別の場所に移動いたしますので、こちらは、どうぞお使いくださいませ」

 ふわりとドレスを持ち上げお辞儀をすると、踵を返す。

 

 ボロが出る前に離れたかった。なのに、ただでさえ息苦しい上、慌てて動いたものだから眩暈に見舞われ蹲ってしまった。


「大丈夫? 体調が悪かったんだね」

 ソレイス王子殿下がいくら気遣ってくれても、慌てる原因を作ったのは殿下だ。

 だって賑やかな場所から離れた場所に、しかも一人で現れるなど、誰も思わない。

 

 しかもソレイス王子殿下は第三王子にも拘らず、学友だったかのようにフランクに話しかけるではないか。

 そんなの心臓が暴走して身がもたない。

 

 尋常ではない汗が流れている。脳が正常に働いていない。

 『逃げろ』

 脳から指令が出されている。

 私にお相手が務まるわけがない。早々に切り上げて、ここを離れろ。

 緊急指令は頭痛がするほど、けたたましく出されている。


「だ、大丈夫ですわ。早めに帰って休みます。本日はありがとうございました。失礼します」

 一刻も早く、馬車に乗り込まねば危険だ。

 

 私には確信があった。これ以上一緒にいれば、王子殿下を好きになってしまうことを。

 

 男性への耐性がないゆえ、少し気にかけてくれただけで惹かれてしまう。

 体調を気遣ってくれた中に、恋情は含まれていないと分かっていても、期待はどんどん膨れ上がるのだ。


「帰っちゃうの? 夜ままだまだこれからだよ。私と一緒に踊りませんか?」

 ソレイス殿下が手を差し伸べた。

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