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アナスタジアの姿が見えなくなると、ソレイス王子殿下は再びベンチに腰を下ろす。
自らソレイス王子殿下に取り繕ったということは、やはり離婚は確実なのだろう。
アメリーを取り戻すと言われた時は、気が気じゃなかった。嘘だと分かっていても、ソレイス王子殿下がいなければ、自分が正気を保てた自信はない。
「あの……ありがとうございます。私一人では、何も対応できませんでした」
「フィーフィの悪口を言うだなんて許せないからね。しかし、噂以上の人柄で驚いた。よく今まで我慢してこられたもんだ」
「でも、姉がパーティーに行ってくれるお陰で、私は避けられていたのは事実ですから。心底は嫌いになれないんです」
ソレイス王子殿下は「お人好しが過ぎる」と嘆いた。
「フィーフィがパーティーに来ていたなら、私たりはもっと早くに出会えていたかもしれないのに?」
「だとしても、ソレイス王子殿下が同じように興味を持ってくださる保証はありませんもの」
それに……と続ける。
「姉が言ったように私はとても地味です。自覚がありますので、お気遣いは結構ですが、私はどうしてもこういう飾り気のないドレスが好きで……パーティーの時は流石に侍女に準備してもらいましたが、本来の姿を見ても失望しませんでしたか?」
「失望? 私がフィーフィに失望などするものか。確かに君のドレスはとてもシンプルだが、生地やシルエット、ディテールにも拘っているのが伺える。全て自分で決めているのだろう?」
「見ただけでわかるのですか!?」
「近くで見ると、良く分かる。パーティーの時も素敵だったが、こっちの方が君の性格を表している。ボタンも、フリルも、柔らかい生地も、フィーフィらしいチョイスだ」
「あの、私がソレイス王子殿下から逃げてしまったのは、アメリーの理由が大きいですが、本当の姿を見られたくなかったのもありました。アクセサリーを買うより、本を買う方が好きですし、パーティーに行くよりも、こうしてハーブや花に囲まれてティータイムを楽しむ時間の方が好きなのです。家族は貴族らしくないと呆れていますが、これが本当の私……です……」
「あぁ、そうか」
ソレイス王子殿下はにっこりと笑った。
「アメリーを呼んで、三人でティータイムを楽しもう」
「はい!」
侍女のところへ走っていく。
アメリーも王子殿下の許に行きたがって侍女を困らせていたようだ。
ハーブ園に戻ったアメリーは、直ぐさまソレイス王子殿下の膝を占領し、ご満悦だった。
父を知らないまま育つはずだった。
けれど、こうして王子殿下と戯れているアメリーを見ていると、恋愛を諦めていたこれまでは間違えていたと実感した。
一人で幸せになってはいけないと思っていた。
けれどそうではないとソレイス王子殿下が教えてくれた。
みんなで幸せになるのだと。
胸がじんわりと温かくなる。目頭が熱くなり、さりげなく眦を拭った。
「王子殿下も、子供がお好きなのですね」
「あぁ、私たちの子供も沢山欲しいと思っている。アメリーも兄弟は多い方が楽しいだろう」
「へっ!?」
思わず赤面してしまう。
(子……子供を作るということは……それはつまり……)
「おや、フィーフィは意外と艶っぽい一面があるようだ」
「かっっ!! 揶揄わないでください!!」
「はは……! すまない、反応が可愛くてつい。けれど、子供が欲しいのは本当だ。なるべく早く結婚して、一緒になろう。いいね」
「……はい」
ソレイス王子殿下はアメリーの目に手を当て、私の唇を奪った。
⭐︎⭐︎⭐︎
三年後、私はお腹に二人目の子供を授かっていた。
アメリーは今年五歳を迎え、私とソレイス王子殿下との間には結婚してすぐ男の子が産まれた。
「私、次は妹が欲しいですわ。でも、弟も可愛いですし……あぁ〜ん!! 悩みますね!!」
「アメリーはどちらでも愛してくれるでしょう?」
「当たり前ですわ!! それに、兄弟は何人いてもいいってお父様も仰っていますし。ねぇ、お父様?」
「あぁ、そうだな。私たちの家族は、いくらでも増えて構わない。フィーフィもそう思うだろう?」
「ぅんんん……」
返事に困ってしまう。
ソレイス王子殿下からの寵愛は年々増していっている。
「どんな激務でも、こうして一日の最後にフィーフィや家族と過ごす時間があるから頑張れる」
そんな風に言われると、なんでも許してしまうのだ。
でも、これで良い。これが私の望んだ幸せ。
ソレイス王子殿下が約束してくれた未来に、今、私はいる。




