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可愛い子供に一生を捧げると決めたので、王子殿下との結婚はお受けできません。  作者: 亜沙美多郎


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10/13

①⓪

 心臓が大きく伸縮している。

 アナスタジアが帰ってきた。カリスト様との不仲を耳にしてからも、実家に帰ってきたことはない。


 いよいよ、離縁目前なのだろうか。

 突然帰ってきた理由はなんなのだろうか。

 とにかくアメリーに会わせたくない一心で足を進める。


「いたい」

「あっ、ごめんなさい。強く引っ張ってしまいました」

 必死に逃げようとするあまり、腕を引く手に力が入り過ぎていた。

 しゃがんで腕を撫でてあげる。

「ごめんね」

「いいよ」

「ゆっくり行きましょうね」

「うん」


 私情にアメリーを巻き込んではいけない。

 楽しく過ごすためにハーブ園に向かっているのだ。私が怪訝でどうするの。

 アナスタジアが、わざわざ私を探して回るとは思えない。

 それにハーブ園は敷地の南端にあり、室内からは人影くらいしか見えない。

 少しくらいはしゃいでも問題はない。


「アメリー、今晩飲むハーブを摘みましょう」

「これ」

「ラベンダーですね。可愛いと思いますよ」

「あれも」

 アメリーは次々指差して走っていく。カゴの中はみるみるハーブが積み上がっていった。

 爽やかな香りに何度も深呼吸を繰り返す。

 ここに来たのは正解だった。


「そうだ、お菓子を食べましょう」

「はい!!」

「ふふ……、いいお返事。焼き菓子を持ってきましたよ。座りましょう」

 ハーブ園内にあるベンチに並んで腰掛け、バスケットを開く。

 アメリーが食べやすいように千切って渡すと、小さな口いっぱいに頬張り幸せですと表情で物語る。

「美味しいですか?」

 うんうんと頷く。

 アメリーの好きな焼き菓子だから尚のことだろう。


 二人で明日は何をしようかと話し合う。久しぶりに街へ出かけるのもいいかもしれない。

 髪が伸びてきたアメリーに可愛い髪飾りをデザインしてもらうのはどうだろうか。

 アメリーはアナスタジアのDNAを受け継ぎ、華やかなドレスやアクセサリーを好む。そしてそれらがとてもよく似合っている。

 何を着せても可愛いので、私も侍女も毎日のコーディネートが楽しくて仕方ない。

 (そうだ、セレスも同行してもらおうかしら)


 なんて考えていると、その侍女が慌てた様子でハーブ園に走り込んで来た。

「何事ですか、セレス」

「お嬢様、大変です」

「落ち着いて、お茶を飲んでください」

 自分のティーカップにはまだ口をつけていなかったので、侍女に促した。

 侍女は「申し訳ございません。いただきます」と一気に飲み干すと、大きく肩で息をし、「セレフィナ様にお会いしたいと、ソレイス第三王子殿下が訪問されております。お嬢様のいる場所に案内してほしいと」

「王子殿下が? それで、今はどちらに?」

「ハーブ園の入り口でお待ち頂いております。アメリー様はいかが致しましょうか」

「え、そんな、急に言われても……」


 アメリーは慌てふためく私と侍女の顔を交互に見ている。

 そして視線を前に移すと、「あっ!!」と声を発して走り寄った。

「こんちわ」

 その人を見上げて挨拶をする。

「こんにちは。ご挨拶ができるのかい。えらいね」

「えへへ〜。だれ?」

「私は、ソレイス・ノエ・アルカディアだ。あなたは?」

「あえりー」

「アエリーちゃん?」

「あえいー!!」

 アメリーとまだはっきり言えず、もどかしそうに必死に繰り返す。

 聞き取れずに困っているソレイス王子殿下に、つい「アメリーです」と合いの手を入れた。


「アメリーちゃんか!! 失礼した。ごめんね」

「いいよ」

「お詫びに菓子をあげよう」

 ソレイス王子殿下は、アメリーを抱き上げて私に向き直った。

 アメリーは背の高い男性に抱っこされて、高くなった視界に「きゃっきゃ」とはしゃいでいる。


「やぁ、久しぶりだね。フィーフィ」

「王子殿下……どうして」

「突然、すまない。本当はもっと早くに訪ねたかったのだが、仕事が忙しくて。君に忘れられているかもしれないと思いながらも、どうしてももう一度話をするまでは私も諦めがつかなかったんだ。それで……もしかして、フィーフィが私のプロポーズを断る理由は、この子にあるのかな」


 ソレイス王子殿下は、普段通りの質素なドレスに、最低限しか施していないメイクの私を見ても、落胆の色を浮かべなかった。

 それどころか突然の訪問を詫び、一方的に逃げた私と話がしたいなんて、どこまで優しい人なのだ。


 こんな人に嘘はつけない。

 私は、アメリーの全てを包み隠さず話そうと決意を固める。


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