(一)二人の出会い
ある夏休みの午後の市立図書館は強い日差しが照りつけて、ブラインドからは筋状の光が薄く差し込んでいた。程よいクーラーが爽快感を増して快適な空間を醸し出していた。
窓際の座席にはまだかなりの空席があった。
タケルは、学生のころからの愛読書である恋愛小説を図書館の棚から取り出そうと手を伸ばした、その時隣から、白いワンピースの髪の長い、タケルと同じ年代らしい若い少女の手が、タケルの本に差し伸ばした手に触れた。
「あっ。すいません。私もこれ読みたかったもので......」
「君もこの本を......?」
「そうなんです。でも。あなたが先だったから.....」
彼女はかなりおとなしそうな雰囲気で、控えめに言った。
彼女の声は、透き通った声で、アニメの声優を思い出させた。
すでにその本はタケルの手許にあり、少女は、幾分嬉しそうに彼を見つめていた。
「あなたもこの本をよく読むの?」
タケルの胸元にあるこの本の表紙に目をやりながら、笑顔を浮かべて彼女は尋ねた。
「学生時代からの愛読書なんだ。」
彼女の笑顔は、彼への愛情を思わせる、深い意味を含んでいるように思えた。
彼女は「この本の中の好きなシーンは?」と優しそうに問いかけた。
タケルは近くの空いている座席に目をやり、あの座席でゆっくりをこの本を読みましょう、と彼女の手を優しく引いて、案内した。
図書館の四隅の2人用の区切られたブースで座席に座り、LED電気スタンドのスイッチを入れた。
すぐ脇の窓のブラインドからは夏のそよ風で緑の木の葉の揺れる影が見えていた。
2席に仲良く座って、1冊の本をテーブルに置いて開き、クーラーの風がスウィングしてそよ風のように、本のページが「パラパラパラっと」数ページめくれた。
彼女は「私はこの本は5回は読みました」
タケルは「この本を読むと心が落ち着いて、安らぎます」
あるページには軽く折り目がついていた。
彼女「この折り目、私が読んだ時についたんです」
そのページには、涙の跡なのか、シミがついていた。
彼女は「このページのこのシーンとで何度も涙したわ」
「思い出すだけでも、感涙しそうなの。」
タケル「僕もなんだ。このシーンは一度読むと忘れらない、名シーンさ。」
不思議と、視線が合わなくてもお互いの心が分かり合うようになっていた。
図書館の中の独特の静けさが妙に二人の雰囲気を際立たせていた。
二人の心は「シーン」とした静寂に包まれていて、しかし通じ合う心は明るい光のように
輝いていて、神聖な空気の中の太陽といったようだった。
それ以来、タケルと彼女は毎日のように図書館で会うようになった。
二人は、この小説を中心にどこにいても意思が通じるようになっていた。
電話でも、食事でもどこいてもこの小説のやシーンで通じ合えるのだった。
この小説はまるで、映画のシナリオのように二人を導いているかのようだった。