ショウテンガイ〜ン
首尾よく看板娘「とよ」を踏みにじった変温動物は人通りもそこそこな昼前の古い商店街を進んで行く。
「よう、ミカエル!!」
上から声がする。
「…もしかして私に言っておられます?」
フミマロはそう言って立ち止まると、横の呉服屋に立て掛けられた梯子の先を見上げた。
「そうだけど?」
ペンキや灰色の汚れが全体に染み込んでいるニッカポッカを履いた、背中にマントのような美しい長い大きな羽根、つまり翼の名残のある男が上から見ていた、短い羽毛が全身に生えていて、それも大半が更に短く刈られ、顔つきにずんぐりと短くなった嘴が祖先の記憶を留める。
「我々は【御蛙】です、お間違いなきよう」
「ミカエルじゃねえか」
「御蛙です」
「だから、何がどう違うって?」
「ただの蛙共とは違うのです、歴史ある【水辺のいきもの立水たまり帝国】は、古祖の光河のうちに現人神を求めネット投票により誕生しました、今は帝都が移り【プラチナ河水たまり帝国】でありますがねえ。我ら【神代御蛙】は、当時に近習であった【雨津御蛙】の頃からの姿を守り続けておりますゆえ格が違うのです」
「うん」
「ですので、平蛙らからは【御蛙様】と呼ばれる習わしです」
「ミカエル様か。うんうん」
何故か納得している男。
「では…」
「じゃあな」
諦めるに限る。
「わーいっ!!」
ドン!
120センチぐらいの浴衣の子供が手に風車を持って走って来てぶつかった、露出している手足がメカメカしい。頭部以外全身鉄でできたようなロボッ子だった。
「ポゲコッ!!」
フミマロという、一つの命が、無残にも、転がった。
「あいたたたたたたた…」
両手をついて起き上がろうとする、しかし、無情にも電車ごっこの子供たちが更に襲う。
「ファーン!」
「ガタンゴトン」(ロボッ子その2)
「ガタンゴトン」(爬虫類系の子)
「ガタンゴトン」(猫っぽい子)
「ガタンゴトン」(犬っぽい子)
「ガタンゴトン」(人間な子)
「ガタンゴトン」(髪が長い葉っぱな子)
「ガタンゴトン」(触覚のある虫っ子)
「ガタンゴトン」(触手が8本な子)…
12両編成だった
「ガタンゴトン」(ロボッ子その3)
「ガタンゴトン」(建設重機的な子)
「ガタンゴトン」(戦車的な子)
「ガタンゴトン」(製鉄コンビナート的な子)…
「グゲコパケポギゴコッ!!」
都合24の車輪が命を引き裂いていく。
生命の古い故郷からすっかり宇宙に広まった文明には様々な人種が居り、このまだ歴史浅い新開地の惑星でも商店街の人通りはそこそこあった。
宇宙空間には1立方センチ辺り水素原子数個しかないが、商店街には人や子供がいっぱい居る。
気を付けて歩かないと駄目である。