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哀しき売子

スタスタスタスタ


「あんれまおひさねケロリンパちゃん!前に一緒に歩いてた高下駄の人今日はどうしたの一緒じゃないけどケンカでもした?それともお留守番?何かお用事?仕事?学校?習い事?ボランティア?御奉公?庭掃除?煙突の建て替え?家のリフォーム?配管の打音検査?引越作業?それとも筑前煮でも煮てるのかしら?それとも市場調査で二三日出張?どうしたの?アタシは今暇してるわよ店番なのにねここんとこお客さん少なくてね足が腐っちゃうわエビマヨ巻き増量中よどう?かっぱ巻きなら年中増量よ丸ごと入ってんのよおかしいわよねどうせ売れないからってやヤケよヤケギャハハハハハハハハハハそんな事しても誰も気付かないのもう五年も売れてないからウチ料亭に刺身出して何とかやってんの仕入れだけ代々いいトコとツテあるからモノが違うのよね特別なお客さんが居ると頼まれるんだけど極秘だから誰にも言わないでよ困っちゃうわよねこんな裏事情ニヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ」


ここまで店の端に差し掛かってから五歩。寿司屋トップの窓口正面に到達する。


「…」


フミマロはチラッと、とよの方を見た…。


とよの爬虫人類である顔つきは人間と同じに進化しようとした地球後発種なので陛下と似ていた、コミュニケーション手段としての「表情」もほとんど同じ心理を反映する。読みやすい。


「キャハハハハハハハハハハハハハ!どうよかったらお一つ買っていかない?もうあんまり暇だから半額でいいわ全部どうせ明日の朝ご飯に出てくるんだしウチのメインの収入源寿司の握り方のライブ配信よ?信じられる?こういうの作ってるの生放送して稼いでやんの父さん作っても全然売れないのに狂ってるわよねこんなもん大砲にでも詰めて撒けばいいと思うわ半日ぐらいに一回町に降るのよ寿司がそうしたらデリシャスな憩いの時間と場所が生まれるわ生魚のベットリ張り付くアーケード!シャリの積もる街角!年末には海苔がパラパラと降り注ぐブラッククリスマス!アハハハハハハハハハハハどう気に入ったのある?見てみて見てみてガラスケースの中」


笑うたび、鱗から変化させた黃灰色の長い髪がフサフサと翻される、あまり綺麗な印象を持たれない色だが手入れに気を使っていて表面は微かに虹色の光沢を保っていた。切れ長の目はくたびれた感じに薄くなっていて、弾むような声の張りようとは裏腹の雰囲気をしている。


「良いですねぇ。しかし、陛下は…」


そう言いかけて、変温動物のシレっとした風を纏って去ろうとする。


「ええええええええ?今なんて?へいか?へいかってなに?教えて?なんの事?知らないは一時の恥っていうか聞きたいなーへいかって誰かのこと?どういう関係なのかな?家族かな兄弟かな両親かな親戚かな?恋人かな?盗っ人かな?どうして言いかけたのどうしてなの?なんで言わないのかな?私とケロリンパちゃんの仲じゃない?」


初めて口を利いたので仲も何も無いが、とよは普段全く相手にされていないだけに他人との会話に飢えきっており身を乗り出して質問を浴びせた。


スタス


「ああああああ待って行かないで歩かないでそこは工事したばっかりだったと思うからその石柔らかくない?まだ固まってないよ多分危ないよ踏んだらズボッてめり込んで一生出られなくて化石になるよイヤだよ店先で人がいや蛙が化石になってるなんて」


フミマロを引き止めようと更に思い付きを口にする。とよの碧く虹色に光る瞳は何か手立ては無いかと激しく動揺しくるくると七色に変わった。


「あっそうだ海苔巻一本食べない?ちょっと干瓢が長さ足りなくて失敗したのあるから余ってんのよねお一つどうぞどうぞこっち来て受け取ってケロリンパちゃん今だけ一本プレゼント!」

「良いのですか?」

「いーのいーの!干瓢一本命の一本足りなきゃこんなもん海苔巻の命入ってないんだから許せないわよね職人としてわさ背信の配信で稼ぐナンパオヤジが許してもアタシが許さないのよだからコレはもったいない米と海苔とキュウリの供養よ供養なのよ行き場のない魂の味よだから頑張るわ口の中にライスブラックキューカンバーソウルが爆発するわ弾けたいのよ弾けさせてやって遠慮しないで持ってってやって!」

「では…」


差し出された「失敗作」の海苔巻き丸ごと一本入りのバックを遠慮なく受け取り、フミマロはバックステップですぐに距離を取った。


「ああ、急がないと、陛下は、陛下は今…」


フミマロが飛び退る動きはスローモーションに見え、とよは悲鳴を上げた。


「ちょっ!!」


スタスタスタスタスタスタスタスタ


「へいかって?へいかって?一体何なの?へいかへいかへいかへいかへいか!それは何なの誰なの!どこのどなたなの?教えて!話して!戻って来て話をしてっ!!」


ガション!


飛び出そうとするとよの前を、父が設置した自動式安全装置である鉄格子が遮った。尚も追い縋ろうとする手が小窓から伸びている。


フミマロは手に海苔巻の重みを感じながら足早に立ち去り、「カミング・スーン」と呟いた。

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