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新帝国の夜明け

二階建てとは言えほとんど平屋の宮殿だが、屋根裏の物置空間への入り口となる階段があった。


薄平べったく結合して「ベルト態」を取り、橙の光を宿して燃える銑鉄の流れとなった髪を揺らして皇帝飛鳥がその階段の上に腰かける。見た目には大変神秘的なものがあるが、着ているのは白い寝巻であって特に礼装とか儀式用の衣ではなく、133センチの体でチョンと座って足を下の段に斜めに投げ出して引っ掛けていた。


夜中に呼び出されて応じたフミマロ他最上位の貴族らは12段下の廊下の行き止まりの狭い空間に正座していた、応じたのは三人であった、他は「眠い」とか「これからダンジョン潜る」とか言って断って来た。


一通りの返答が集まると、飛鳥は収まりの悪いふんどしの上から履いていた縞トランクスを脱ぎ『えんぺらー』の字を翻らせながら階段を上ってそこにいる一同を見た、使い方を覚えたばかりの瞬膜を閉じて簡易情報を見ると、「むう…」と一言発して、普段から敷布として放置してあるランチョンマットに座った。


挿絵(By みてみん)


毛足の長いパステルカラーのスリッパをつま先に掛けた脚をパタパタさせながら、皇帝は不満そうに一同の姿を見た。正面にフミマロ、その後ろ向かって左に祇王丸、右にはわざわざ海の近くから戸棚の三笠を盗みに来て罠に吊り下げられていたダイナゴン。


「毎回集まりが悪いな」


三人は一斉にひれ伏した。祇王丸はひれ伏すようでいてそれはアメンボのいつもの自然体の姿勢で、彼は今ペンペンしていた。


「お、畏れながら陛下、時間が時間でございましたので…」とフミマロ。「全く、蛙共は元々宮殿に居るこやつ以外誰も姿を見せませなんだ、神代蛙などと言ってもこの体たらく、やはり蛙などと言うものは…」伏したまま笑みを含んだ声でそう言うダイナゴンにフミマロは食って掛かった。「御前は戸棚のどら焼きを盗み食いに来て宙づりになっていた下手人の身分ではないかっ!!」「はて、何のことやら…」


飛鳥は傍らに置いていた白金の笏を振り回した。


「エイ」

挿絵(By みてみん)


ビッ、と下に向けて腕を伸ばすと、笏の先端から見えないイオンビームが射出されてそれ伝いに小さな稲妻が言い争う貴族達に向かって伸びる。


稲妻はパシリと二人を撃った。祇王丸が横でペンペンしている。


「ギュ」「ぬぽ」いずれもおかしい声を上げて跳ね転がる。祇王丸が横でペンペンしている。


「会議中である!!」飛鳥から重ねて雷が落ち、二人は再びひれ伏した。祇王丸が横でペンペンしている。


「大変失礼いたしました!!」

「何ともお恥ずかしい限り…」

祇王丸は横でペンペンしていた。


「…まあよい。して、帝国の今後について、余は思うところある」


「はは…」フミマロとダイナゴンはひれ伏す姿勢をさらに低くした。


「余は色々死んだりやられたりし過ぎであると思う、今年だけで落雷が原因でもう四回は死んでいる、即位してから交通事故や食中毒なんかも含めると百回は死んだ、我ながら哀れに思う…」


皇帝はそこで暗い目をしてヘラヘラ笑った、祇王丸だけが地獄の火のように燃える髪の赤い光に照らされたその表情をペンペンしながら見た。


「民はよほど楽しんだであろう」


白金の笏は背後に放り棄てられた。


「いえ、決してそのようなことは!!」フミマロはうろたえて、顔面をこすりつけている階段下の敷物に唾を飛ばした、上から降ってくる声にいつにない暗い響きがしている。


「警察前で、我が帝国の本性を思い知った…人の心臓が止まる度にああしているのではないか?」

「そ、それは常にというわけでは…」


ダイナゴンが顔を伏せたままフミマロの苦し紛れに続けて言うが、「死んだ者によりまする」というきっぱりとした謂いであった。


「どのように?」

「民の気分次第でありまする」

「気分か」

「面白さは気分であります故」

「なるほど」


一瞬、飛鳥の背中から音もなく激しい稲光のようなものが広がった。


ガウンの構造をした寝巻の帯に挟んでいた、『鳥獣戯画』の絵柄が金銀箔の粒子で描かれた扇子を抜いて広げる。


それで喉元を扇いだ、首の左右には金色に光る円が浮かび出ている、飛鳥はまだそれが何なのかを教えられていないが改造されてすぐに浮かび上がって来た構造だ。


「…気に入らぬな」


放り出されていた笏を素早く後ろ手につかみ取って振るう。

バシリッ!!


「おきゃぴぃん」「そぬ」不意打ちで放たれた電撃に、フミマロとダイナゴンは再びそっくり返るようにして跳ね転がった。


飛鳥は、階段の上に座ったまま少しだけかがんで弾き飛ばされた二人の無様な姿を見た、その髪は朱く燃えながら、静電気を帯びて撥ね上がっていた。


半世紀以上を生きて初めて自分を一方的に蹂躙するものでない、自分のものである「力」に触れている。



キヒヒッ…

キヒヒヒヒヒヒヒヒヒ…


喉の奥から引き攣るような声を漏らす。


そして、稲妻に撃たれた二人がのっそりと身を起こすのを、嗤いながら見た。


半透明の光る髪に顔周辺の空間が燃やされている。


挿絵(By みてみん)


「へ、陛下、電撃はご容赦を!蛙の身には厳しゅう御座います!」


「余にはもっとこたえる。この聴覚装置がためにな、脳を焦がされるのだ」


およそそれがどういう意味かは彼以外には本当に正確には測りかねた。


「落雷の危険を察知するためというが、500メートル以内に落ちれば余だけが確実にショック死する。体験させてやりたい、あの意識を完全に吹き飛ばす轟音とこの上ない恐怖を」


「ご容赦を…」


フミマロは額を階段下のドアマットに擦り付けた、ダイナゴンも同じ動作をする。


「これほど【面白い】とはな…」


完全に感情の消え去った目で二人を見、飛鳥は呟いた。股間に置かれた手は雷を秘めた銀色に輝く笏を持っていて、それを膝から下の三人に向ける。


「のう、お前たち、この世は結局、力であろうが?だから余の体もこのようにしたのだ」

「その通りにございます…」


そう、ダイナゴンは太く力の入った声ではっきりと答えた。


「うむ。余もそこは男子であるから他種人類との差を残念に思っていた、ほかの者は何か常にあくどくて傲岸で、油断ならぬ感じがする上に、多くは頭一つ分も大きく気味が悪いものな…」


白金の笏を真っすぐ向けたまま話す。


「何かと隙さえあれば食って掛かって来ては踏みつけにしてそれで当たり前と思っているらしいところが嫌だ、あれはなんだ?」


これにもダイナゴンが答える。


「恐れながら…この世にある限り、生物は物的資源を必要としながら制御なく殖えるのです、そして有限な資源を得るため、いずれ、意思もなく考えもなく争っているものなのです…単細胞生物の頃から。それは自然である限り、どこまで進化しても変わりはござりませなんだ、改められたのは人が自らを省みるようになり、本性再設計の必要に迫られてからです」

「随分と太古の事なはずだが」

「ホモサピエンス種以後の人族はぬるま湯を許されておりましたので、自らに根本的再設計はいたしておりません。そして自然から生じた生き物は知性もそのように振舞うよう出来ております、争っておらぬと、得も言われぬ不全感を生じて不安になるのですよ、「これはあるべき自分ではない」と。ですので、愚かな事に、太平楽の中では『暴力と諍いの自由』を求めて騒ぎ始めることすらあるのです、歴史的に多くの虐殺の原動力が実際にはこのような集合的欲動の産物でしたが、歴史が「意識的言語的解釈」によって組み立てられる物語に過ぎない段階の文明には想像すらされない真の原因です。時代が進み経済競争の目的がため個々のより明晰化した意識を強要されて育った大半の人口が明らかにそれを自らに対する巨大な不利益と認識してすら、心地の良い本性を捨てたくないという倫理観が糺す事を鈍らせ許しません、それが原因で自力での宇宙進出を出来なかった種はあまりに多い。陛下…あの嫌らしく不遜な性質は生命と知性の本質とご理解ください、この世にとって正常な生命や知性は、この世が地獄である事を喜びに満ちて欲求するものなのです」


「救いがないな」


「それについて、超太古に答えは出ておりました、【解脱せよ】と。実現されたのも僅か五千年後です、陛下はこの世ならざる所からの裔であらせる。煩い事は我らにお任せを」


ダイナゴンはそう言って無言になり頭を上げなかった。


「ところで」


飛鳥は既に広げられた携帯スクリーンを懐からピラリと取り出した、【飛鳥R】の姿がそこに映っている。


「余が復活する少し前に現れたと言うこの【偽物】だが、なぜこのような姿なのか?偽物というには違い過ぎる」


フミマロは顔を上げてそれを見るや上ずり気味に答えた。


「それはぁ、遺伝情報を一部改変して作り上げられた生体ロボットなのです、基本が陛下の遺伝情報そのものなので『強化改造をした』と申せば充分に通用してしまうのでありましてぇ…」

「そうか…余はこれになりうる…」


飛鳥は画像をしげしげと眺めた。


「ふむ、これが原種ホモサピエンスの男性型で、解析によれば…桁外れだな身体能力が。全員が僅かな構造改変でいつでも母親になれるよう設計されている現在の我々とはまるで違う…」


脆弱で失われかけていたY染色体の機能をX染色体に統合して発現を人工的な細胞内器官で管理している現ホモ・サピエンス種は、身体構造全体が「女性寄りの中性」化していて、【自分の遺伝情報を持つ異性の生殖器官】を体内の余剰部位に未発達のまま保存しており、簡単な外科的転移を行ってから発達させる事でいずれにもなり得る。


が、それは基本設計で機械的強度に優れた男性型の構造を捨て去って宇宙移民向けの小型軽量化を進めるのと同時だった、力に満ちたその設計が飛鳥の目を引き付ける。


(この肉体で生きられたら…どれほどの事が可能だろう?)


『兵器として稼働していれば一週間で世界が燃え尽きる!!』『信じられない!12G500気圧の惑星への単独での大気圏突入が可能だ!!』解析した研究者らの記した感嘆符が目立つ、驚異的戦闘能力の記された項目が無数に並ぶ。更にしげしげと詳細情報を読んでいく。


「こ、骨格からの変身となりますので難しゅうございまして、前技術長官であります菩蟾丸程の技量の者の管理が無ければこれからその肉体をお使いになるのは長い歳月を要するかと…」


フミマロは慌てた。


「そうか、残念だ」飛鳥はスクリーンを弛緩させて仕舞うと、ややあって宣言した。


「我が帝国は、これより宇宙艦隊を創設する!!」


フミマロとダイナゴンがのけぞり、祇王丸がペンペンした。



これ以後、帝国中枢は大きな変革の波に洗われる事になる…。


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