表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/21

永遠の帝国

【分子機械暴走事故】より一カ月後。



「ん…」


目を覚まして違和感に気付く。


「どうなさいましたか?」

「フミマロ…」


自分の手を眺めた、それ【は】、変わっていない。


「いや、何か、以前と体の感じが違う、蘇生は初めてではないが、作り替えたのではあるまいな…」


まだ微かにしか出ない声で訊ね、コレらが正直に話すわけは無いと思った。


「はい、此度の事は近習の者全てが深く反省致し、陛下の御身体をこの世の終わりまで存続させるべく、手を尽くしました」


「…そうか…」


意外にも正直らしい答えがあり、毒気を抜かれたような気持ちがして、意識が眠りに沈んで行った。



「陛下…?っ!!どうしたのだっ!?」


フミマロはキッ、と鋭い視線を典医に向けた。


「はい!」


典医は一言返事をして、手元で情報機械を激しく操作し出した、空間中に投影される入力アイコンのセット自体が高速で切り替わり、何十ものそれを両手の指でタッチする入力方法を駆使して短時間に複雑なシステムを都度組んで操っている、到底並の知能でやれる事ではない。そうして組まれたその場の必要のための即席の知能…マイクロAIは機能クラスターを操って飛鳥の生体情報を収集し、データとして吐き出した。


反魂殿の設備は事故後、無から作り直された、新造計画は数年前からあったが、前任の技術者長の反対で「細かな改良」の加えられ続けた旧設備が使われ続けた。


「玉体は健やかです、人格と身体感覚の間に自己認識の軽微な齟齬を生じておられますので暫くはお心に消耗があり…」


「うぬ。わかった。外見は髪の色ぐらいしか変わらないはずだが、そんなに違うか?」

「根本的に別物の肉体と言えます…ここまでの改造は前例もなく、ご記憶との整合性を保証するのは難しく存じます、設計なさった前任の菩蟾丸ブセンマル様はすごい…」

「仕方がないのだ。着任早々急がせたな、事故によるものとはいえ…」

「いえ…極秘に試作されていたアンドロイドとその補修用分子機械の機能異常、大変な事態であったと…」

「それは…【為すべきことが散らかっておった】のだ、我々貴族が怠惰であったから」

「フミマロ様が大規模漏出をお止めくださったとか。亡くなられた菩蟾丸様に代わり、力を尽くします」

「すまぬな」


皇帝・飛鳥は半眼を開いたまま医療用分子機械の遥かな末裔である人工生物の充満した薬液に浸かっている、ウイルスや雑菌や原生動物・寄生生物の一粒一匹たりとこの液体を侵す事は出来ない。


ホモ・サピエンス種の、しかもごくオリジナルに近い姿を留めた家系は全宇宙でも極めて稀だと推計されていた、これは遺伝的な生活傾向や全的な文明発達史の想定を無数に組み合わせた、太古の空想物語に描かれた「心理歴史学」の現実版が今はもうどうしようもなく遠く隔たってしまった人類文明圏全体をシミュレーションで想像した結果だ。


「超光速航法」が実現不可能と判明して二千四百億年、互いに彼方へと散った地球発祥知的生物の文明圏は単一銀河圏のものであった時代に辛うじて連絡を取り合いつつ生み出した一つの「青写真」に未来を託した。


その描き出す未来を頼りに「金鉱」の所在を算出し見つけ出した家系の一つが現在の皇家である。


蛙属の誰かがクローニングや生体デザインで生み出した「ホモ・サピエンス」では権威とはならない。


全文明種族がとっくに永生不死であっても、犯してはならないのがみだりな人工生殖である。



それでも起源時代のホモ・サピエンスが飛鳥を見たら人種も性別もはっきりと分からない奇妙な子供だと思う事だろう、姿は当時盛んに創出された架空の「キャラクター」達に近い。


宇宙航行と惑星開拓中の暮らしのために身体の物理的質量が少ない方が有利なので体格は当時最小の民族に近く、身長1.5メートル、重量40キログラム。同一の素材で出来ているなら質量の小さな方が衝突時には頑丈で、必要な栄養分も少ない。


全体に均整の取れた容姿で…男性的特徴というものは種全体で内部闘争が無くなると同時に加速度的に消えていき、また極端に華奢であるような女性性も消えて行った。


結果、誰もがかつてと比べると中性的で児童のように見え、それでいて美的に均整の取れた身体性に落ち着いている。


言わば例外なく「可憐」となったが、それでもやはり性別はあり男女は互いを求めることの軸となっている。


56歳という年齢は…今の人類としてはまだ産衣も脱いでいない状態だ。





【宮殿】の板張りの床に薄く積もった埃を払いながら、フミマロはこの一月に起こった事を考えた。


祝賀会を開くために集まっていた貴族たちには日頃の不甲斐なさを叱責して解散させた、その時フミマロは戦った直後の鬼気迫る姿をしていたから全員が真剣な顔をしていたものだ。


遠い記憶を呼び起こして飛鳥様に呼び掛けて頂いた糸霧様は、ショック状態にあったが「テロ犯が偽物を持ち出して乗っ取りを計った」と話しておいた、実際の陛下はより地下の保管庫内で発見されたが、御身体の完成には程遠く、設備も破壊されたために蘇生は長引く、と付け加えて。



実際には…既に封緘された意識の持ち主が何らかの手を加えられて人格を破壊され、その生体脳もバイタルレコードの記録無しに死んだ。


これは、ハイバネートからの蘇生が正常な手続きを完了した紛れもない本人の死亡になる。


「複数の本人」の存在は認められないからだ。



今現在、時間を掛けて再生中の陛下は、情報の最も後まで本人の意識が繋がっていた「呟きの城の中の飛鳥」をベースにしている。


もしかしたら、最も飛鳥という全体にとっての【本当の心】に近いのかも知れない、陰鬱なものを抱え込んだサブ人格だ、個人としての内面に満ちている。


溶けかかった金属の塊が散乱する中で、【聴覚装置】らしいものがあの後見付かった、技師達の遺体は骨まで燃え尽き灰もほとんど集まらなかったというのに、頑丈に造られたそれは表面が輝き、慎重に解体してみると精密な機構が何事も無かったかのように活動していた。


情報を抜き取り解析した結果、記憶が見付かり…飛鳥Rの意識内観も解読された、今はもう滅んだ【男性性】を煮詰めたようなもの。元々の人格は欲動に方向づけられ残骸と化していた。


フミマロは、それをどう扱えば良いか暫く思案した。


確かに、ホモ・サピエンス種は絶滅しようとしている。





夜。



液中で頭部から広がって浮かんでいる長い髪。


頭頂部に電磁場に極めて敏感な生体機構のアンテナ、両耳は【聴覚装置】の設置時に超太古の文化から読み取られた【神人】を模した外耳に蛙としての鼓膜を組み合わせた形状を保っている、この三つが協働して雷の発生を捉える。装置の洗練度は二千四百億年以上の科学の歴史の賜物で、電磁的影響への感応力は物理的に考えられる理論値そのままを叩きだしている。


何も身に着けていない状態ではこの二点ぐらいしか特徴はないが、少なくとも電磁的な力への敏感さは途轍もない。



再生ベッドは透明な楕円形の器に変わっており、薬液も透明な薄い水色のものに変えた、変化した成分はそれほど多くない、代替物が幾らでもある内容だったのだ。


浴槽型の器へは直接的な対話を行う最後に移し替える。



「明日だな」フミマロは新しい【技長】に言った。


「はい、深層での感覚の統合も進み、もう違和感なくお目覚めになられるはずです」


三交代で状況を見ている技師達が常に膨大なデータを頭に流し込み続けている、再生技術者というものは実地のデータに触れる事が多くはなく、このような機会にはいくら学んでも学びすぎるという事がないという。



「これほど多くの事を学べ、実際についてを知る事のできる環境はありません。ここでの仕事は学者としての喜びに満ちています」

「頼もしい、いずれ私も世話になるかも知れん、神世蛙についての学びも頼むぞ」

「はい」


何も知らない若者は実直そうだった、本当にその機会が来そうにフミマロには思えた。





翌日夕方


「ごめんくださいますよーう、糸霧様ー」


フミマロは間延びしたいつもの調子で糸霧家の玄関を訪れていた。


「はーいー。…あら、フミマロさん」


糸霧家の母親が奥から現れた。


「こんにちは。八重さんいらっしゃいます?」

「あの子今裏で洗濯物取り込んでると思うわ、呼んできますね」


沸かしたての麦茶のような匂いのする家の中、暫くすると八重がいつも通りのシャツとパンツの恰好で現れた。


「あ、どうも、あの時はありがとうございました…」


一月前の出来事があって以来、フミマロに対しての態度が違い、少し怖がりながら礼を言われる。


「警備不十分につき、ご迷惑お掛けしました、八重さま」

「いいえ、全然、助けて頂いて」


「あのう…」


フミマロはそこで可能な限り軽い調子を装う。


「一週間前にお知らせしたですが、飛鳥さまが完治いたしましてぇ…出来ますればご友人として本日の夕飯後にでもご起床の面会に来て頂きたいです、事情により私しか家にいないのですねぇ…それだとさびしいので」


八重は「テロ犯罪」に現実感を抱かなかった事もあり、その後更に危険が続くとは思っていなかった、無邪気に返事をする。


「そうなんだ…じゃあ、お邪魔します、この間昔の事思い出したらすごく懐かしくって…久しぶりに話したいなって思ってたので。何時頃出掛けるといいですか?」

「七時ころで宜しければ…」

「大丈夫です、その時間で」

「では、玄関前にお車を用意しますねー」


実際にはフミマロ以外の貴族はこの一月、全員厳戒態勢の指揮に駆り出されていた。


「…あの後、皆さん無事だったんですか?」

「ええ。あの犯人、大騒ぎしただけでみんな特にケガもなく」


二十四人の技術者は全員死亡、骨も回収出来なかった、加えて再生のための個人バイタルの記録が数年前から深く改竄されており、そこから再生処置が施されても最早本人であるとは言い難い何かにしかならない…。


それでも家族達は再生を希望していた、今は周辺情報からの記憶の合成が検討されている。


「良かった…すごい音がしてたから」

「なんだか、「こけおどし花火」というパーティグッズを持ち歩いていたようでありましてぇ、まったくもう」

「そうだったんですか?」

「銃は危なかったですけどねぇ、あれしか持ってないようでした。私が全力でかかったら恐れるような相手では」


全身を何百という金属片に貫通されていて生身なら即死だったが、フミマロはそのような素振りは見せずに地上へと八重を連れ戻していた。


「じゃあ、お伺いさせていただきます」

「はい。じゃあ後でまた来ますぅ」


玄関を出ると、フミマロは数千の蛙、アメンボ、タガメ、亀といった水辺の生き物種族からなる部隊に指示を飛ばして行った。






「…それでね、凧あげの時に、十分に大きかったら乗れるんだって、飛鳥くん言ってたの、どうやって乗るのかそれから二人で考えたなー…」


完全に卵型をした自動車の中でクッションにしなっ、ともたれかかって八重は小さい頃の事を喋っていた、厚さ数ミリの車体の上半分は今透明になっていて、近隣の二重銀河系が全天の半分以上を埋め尽くしながら互いを回っている。


「大きな紙を…何枚も集めて来て、ご飯粒でくっつけて繋げたけどグニャグニャになって、結局凧作ってみたけど飛ばなくて。糸の張り方が難しいって、おじさんから後で聞いて…」


この一月、ずっとこんな具合らしい、自分と同じ希少なホモ・サピエンス種が同年代で近所に居るのがとても珍しい事だと初めて知ったという。父親と母親は三十万歳前後で少なくとも二万年の年齢差がある、それでも生物学的に生殖可能な相手としては初婚で八重は両親どちらにとっても初めての子に当たる娘である…。


「ははははは、楽しい思い出話は飛鳥さまのために取っておきましょう、折角退院祝いなのにお話が我々だけで終ったんじゃお寂しいことになりますよぅ」


「あー、そっか。それもそうねー、帰りにどこかに車停めてあれ見ながら話ししたいなー」


八重は夜空を見上げた。


挿絵(By みてみん)




地下施設の新・特別室。



「覚醒処置を頼む…」

「はい」

フミマロは新技長に注意を促す。

「おかしなデータの流れはどこにも生じていないな?」

「チェックは徹底されています」

「前回もそうだったのだ、何十人もがチェックしていた」

「手法を追加して更に徹底します…」



フミマロは威儀を崩してプール型薬液槽室に向かった、クリーム色と薄桃色の柔らかな色彩で抑えた明るさに照明された丸い、角の無い造りの部屋である。


技師が液槽内の微細機械に指令を出した。


『覚醒刺激レベル上げまーす、閾値まで15秒です』

「では、今度こそ本物の陛下がお目覚めになりますのでぇ…」


八重は水槽内に見えている人影を見た、今回は透明度の高い液体の中で白っぽいシートに覆われている。

「うん…なんかドキドキしてきた…」


フミマロは今回何らかの人格変異が見られた場合、飛鳥とともに自決する覚悟を決めていた。


『覚醒なさいました、どうぞ、マイクお繋ぎします』


「陛下…フミマロです、ご気分は如何でしょうか?」


飛鳥からの応答が返る。


『ああ…すごく気分いい…何だか前と違う…熱い…』


八重が呼び掛ける。「飛鳥くん?」


『あぅ…誰…誰…んん?…声だ…声…感じる…そこに居る…?』

「近くに住んでる糸霧八重だけど…」

『ヤエ…?…ああ…うん…八重だ…』


「やっと治ったね、おめでとう…」

『ヤエ…うん…早くここから出たい…』


フミマロは技師に薬液を抜くよう促した、音を立てて水位が下がって行く。


『ああ…近くなる…スゴイスゴイスゴイ…』


飛鳥の声は昂って行った。


『そこに居る…感じる…メスの声がする…』


挿絵(By みてみん)


八重は水色の薬液が抜けきった後の底を見て違和感を持った。


「このシートは?」


底に白いシートが敷いてあって真ん中が少し盛り上がっていた、人の姿らしきものはない…。


突然、シートが咳をした。「ゴボッ!!ゴホッ… 」

「きゃ…!」


八重は小さく悲鳴を上げた。


『腹這いになってしばらく待って下さい、薬液が自分から抜けますので』技師の音声が響く、水色の薬液は内部の微細機械が水を抱え込みながら動くことによって自ら流れ、飛鳥の肺の奥の隅々から流れ出て行った。


「うう…」

「陛下…?」


フミマロは事態を見守った。

飛鳥の体がシートの下で蠢き、やがてそれを払いのけてすっくと立ちあがる。


「ううぅうぅぅぅ…」


低く呻き声を発してフラフラしながら俯いて立ち、少しづつ、少しづつ、透き通ってゼリーの束のように見えている髪が黒くなって行った。

顔は髪に隠れて表情が全く見えない。


挿絵(By みてみん)


「あぁああああああっっっっ…」


叫ぶ。


「生きたくない生きたくない生きたくないっっ!!!」


叫ぶ。


「どうしたの!?」


八重は呆然とそれを見ていた、薬液の抜けた中で飛鳥は頭を抱えている。

フミマロが身を乗り出して中に入ろうとした。


「やはり現実に戻った途端に心的外傷が口を開いたようです、おいたわしい…」

「そんなに苦痛だったの?」


八重は、自分より小さなその姿を見て液槽の縁を乗り越えて入り、正面から両肩を持って「大丈夫だから…」と言い、抱きしめて頭を撫でた。


「………」


飛鳥は肩をひくつかせ、無言で立っていた。数分もじっとその状態が続いてやがて頭頂部から少しづつ髪の色が透明と光る緑色に変化していく。


フミマロは心の内で回線を開いて問うた。

(技長、これはどのような現象か?)

「心の内を覗くことは許されていませんが、あまり統合されていない心理が入れ替わりつつあるようです、鬱病等と同じものでしょう、脳活動にもそのような分布と波形があります」

(そうか。心的外傷ストレス障害と言うものかな?)

「そのようです、ただ、陛下の御身におかれては多機能を帯びておられますので…」

(極端になられぬよう私が気を付けよう)


「あれ?あれ…あれれれ?髪の色変わって行く…」

八重は目をぱちくりさせた。


「んん…」


さっきまで泣いていたろう飛鳥は、上体を起こして八重の顔を見た。


挿絵(By みてみん)


「八重…?」

「あー。飛鳥くん、おはよう、髪の色キレイ…」


八重は満面の笑みを浮かべると、もう一度飛鳥をぎゅっと抱きしめた。



「えぇ…?八重何でそんなに大きいの?」

「大きくなってないよ?飛鳥くん子供になってる!!」


更にぎゅーっと抱きしめる。

顔の下半分は柔らかいものに押し包まれていた。



「ああっ、ちょっ、ふ、フミマロっ!?」


「おやぁ、陛下、いかがなされましたかぁ?」


「あの、八重が、八重があぁぁ…」


「八重様は喜んでおられるのです、さ、抱擁をごゆるりと」


「飛鳥くん、良かった、元の体があって…!!」


ギュ…


「あぅ…」

「なんだか、すごーく柔らかい、ぬいぐるみみたい…!」

「うぅ…あの、八重…ちょっ…」

「なんか甘い香りもする…」


身長差により、飛鳥の顔は丁度いい収まり具合で八重の胸元に来ていた、頭頂から後頭部にかけてを撫でて「よしよし」とやるのに丁度いい。

飛鳥はしゃがみ込んでしまう、更に必死に股間を両手で押さえながら。


「フミマロっ!!服、服うぅぅっ!!」


耳まで真っ赤になってうずくまった。


「あっ、ごめん、裸だったね飛鳥くん…」


飛鳥を抱きしめていた腕の形を残した体勢を戻しながら、八重は水槽を出て後ろを向いた、「着替えたら知らせてね」と言って水槽の縁に腰かける。


「うう…」

「どうなさいましたか?」


「なにこれ…薬持って来て、早く、服も…(小声)」

「ああ、いつもの鎮静剤はもう効きません、身体の全面的強化によって解毒能力を上げ過ぎましたので」

「ええ?ち、ちょっと…今困る…そんなの…」

「ああ…そうでございますねぇ…。とりあえずは、こちらをお召しに」


フミマロは既に用意されていた「ぼくらのかんがえたさいきょうの」飛鳥用着衣一式を差し出す。


「あっち向いてて!!」受け取った飛鳥は甲高い声で叫んだ。

「はは、はぁい、わかりましたですよぅ…」


フミマロは嫌な顔で笑いながら後ろを向く。消え入りそうにうずくまっていた飛鳥は何とかして体の「どこ」もはみ出ないようまず一式の中にあった褌と水着の上半身らしきものを着た。褌は以前から「蛙の皇だからいつでも泳げるものを」と着させられていて幸い、締め付けていれば目立ちそうにない…。


そしてその他の何だかよく分からないものらと一緒に紙が挟まっていたのを「何これ…」と読む。


そこにはパンフレット状のやけに詳細な能書きで満載の説明書があり、それを読んでいる限りは着方の分からないようなものは無かった、が、変な装身具類ばかりある。とりあえずは無視する方向で今一番の問題を訴える。


「あ、あの」

「いかがなさいました?」

「…さまらない…」

「はあ、よく聞こえません、はっきりとお願いします」


「収まらない。さっき、押し付けられたし…」


また顔が真っ赤になっている。


「ああ…それについてはご心配なく…万一にも褌が瞬時に吸収いたしますので。そこに関しては両方を重篤にご損傷あそばれましたので強化は全力を尽くしました、生産力が倍加していますのでいずれはお世継ぎの誕生も恙無いかと。機能の健全性維持に最適を保つため、毎日のご使用を心掛けて下さい」

「ご、ご使用…」

「まあ…ほぼ絶滅しているご血統が自然繁殖で残っていらしたのですから、飛鳥様。御身の性欲は特別お強い事を御覚悟下さい、それに拮抗するだけの貞操意識も生得的に備えておいでですが。今後は、例え街中でも多い日はお気になされませぬよう。みな理解深くしておりますゆえ」

「余を何だと思っているのかケダモノども…」


飛鳥は深く絶望し、目つきが冷たくなり、その瞳から光が消えた。



八重が呼び掛けてくる。


「もう着た?飛鳥くん?」

「あ…うん…」

「じゃーそっち行くね」


八重は嬉しそうに近付いてきた、やはり頭一つ分は背が違う。


(や…やっぱりだいぶ縮んでる…!!)


衝撃を受け、フミマロに食いつくように聞いた。

「目線が低すぎる、今の余の身長、どのくらい?」

「測定値は133センチメートルと」


衝撃は倍になった。


「子供サイズじゃないかぁっ!?」

「17センチ減ったのには訳がございまして…」

「元々八重より6センチも小さかったのに…!」


ガックリと膝を突き、更に小さくなる。


「カワイイカワイイ!!」


八重が頭を撫でて来た。


飛鳥の体格は元から成人男性としては「最低水準の平均」という所で、自分より目線の低い人間はあまりおらず、ホモ・サピエンス種起源以外の男性と比べても大体が少なくとも自分よりちょっと上、という所であった、そこから靴のサイズと同程度縮んだ。


飛鳥が完全【ジト目】のものっすごく落ち込んでいる顔になり、フミマロは早口で説明を始めた。


「今回は蘇生時に最大限御身を強化せねばならないとの判断が下りまして、そのために肉体を元あった材質そのままから再構築する時に不足が生じていたのです、人工器官など多いですので…そのため、全身としてのサイズが小さくなりました、ただ、どこも元々の陛下の外見をそのまま残しております」


見た感じは、である。全てが15%くらいミニチュア化している。


「ああそう…ところで髪の色だけだいぶ違わない?黒だったのに」落ち込み切って水槽の底を指でなぞる、残っている液体で「しね」と書いていた。

「ご蓬髪については、特に多くの機能が搭載されるようになっておりまして、それで常に黒とはいかなくなりました、常に水界の生物の姿を御背中にディスプレイ頂きたく…」

「どういうこと?」

「まず、今現在の陛下のご蓬髪は通常の銀髪ではなく、表面が常に周囲との屈折率をゼロに近付ける機能を持った【透髪】です、屈曲部では緑色のバリエーションが反射するよう細工も施されております蛙だけに。透髪というものに致しましたのは、水界の皇らしさを演出するため、長い髪が河もしくは滝として見えるようにです、そしてこれにはディスプレイ機能が御座います、陛下の後姿は中に魚や両生類や水生昆虫のシルエットが戯れる豊かな河や滝であって頂きたく存じます。また、同機能を用いて光学迷彩、目くらましの閃光、毛先を束ねての高出力レーザー、光を吸収する暗黒化なども可能です」


顔の横に垂れているのを指で挟み、「何でできているんだろう」、と、ジト目全開で見つつ飛鳥は呟いた。「いいなあ、色変え放題なんて」八重はまだニコニコ笑いながら撫でている。


「死んでいる間に余の体へまた随分と色んな機能を…」

「我々は陛下の死にやすさに【必死】になって御座います!!まだご説明は半ばにすぎません!…先ほどご説明した機能を持った上で、それぞれが常に吸着し合って長さも揃いテープ状になり、その状態ではマニピュレータ機能、ダイヤモンド以上の強度を持つ防壁としての硬化、背中を掻ける孫の手機能、滑空翼機能等も果たし、また長さは2倍以上の伸縮が可能です、今後は高い所から落ちても滑空できますのでご安心を」

「うう…そこまでして何させる気?」

「ご公務のためにと思いましてっ」


実際はアイデア大喜利が一晩起こっただけであったが。


「ふうん…」

「それだけではございませんよ、切った張ったに対応する防刃性能のある体、戦う男の嗜みとして常にガマオイル装甲を分泌するぬめぬめ肌、瞳を守る対レーザー瞬膜、その他いろいろも漢としての戦闘能力を遺伝子レベルで詰め込んでおります!!そして専用のガマ吸着手袋、スーパー蛙ジャンプ超高下駄、お母さまの編まれたマフラーを心材といたしましたヒーローマフラー、超高度な情報をリアルタイムでお届けする遮光器型ゴーグル、職人の手仕事による鞘付き総プラチナ製皇帝笏、高笑い専用扇子、等も御座います、現在開発中の専用必殺兵器として【音響波動砲】というものも…」

挿絵(By みてみん)


「まあスゴイ。でも、どれも扱いが難しいんでしょう?」八重が脇から合いの手を入れた。


「いいえ!全て陛下の知能に相応にナーフ化してあります!」

「それは安心ですね」


「ふうん…」

だんだん飛鳥の髪が黒くなっていく。


「…!?」

そして何かに気付いた。


「え…?お母さんの編んだの、まだ家にあったの?」

フミマロにグイと詰め寄った。

「ええ…床下に落ちてカビておりましたが、最新技術で復元の後、赤色の特殊繊維からなる装具の心材とさせて頂きました。双方の色彩が混ざり合う事で現在は高貴な紫色に…」

「そう…」

「これは陛下が専用高機能メカに搭乗なさる場合に神経系とメカを直接繋いで自身がそのメカと【成る】ための紐帯としてご用意しました、絶えず身に着けて下さる事をお勧めします」

「わかったよ」


飛鳥は紫の柔らかいそれを引っ張り出して首に巻き付けた。


「これ、すごく頑丈だったりする?」端をつまんで持ち上げ、飛鳥はマフラーの素材を確かめた、普通の毛糸のように見える。「ええ。お任せ下さい、燃えも破れもしません、24億世紀の最新技術です、春夏秋冬に合わせた温度調節機能付きでありますので、夏もむしろ巻いていてください、現代の常識です」フミマロは自身ありげに言い切った。


「大事なものなんだね?」八重は後ろの方の巻きを整えた。

「うん、ありがとう…小さい頃の…」


それを巻いて少し元気が出たらしく、髪の色が明るくなる。(あ、髪色が悪くなったら要注意なんだ)と、八重は気付いた。


そうしてもう一度ぐっと抱きしめてみる。


「ああー…本当、ふわっふわ…材質違うよね…アロマっぽい香りもする…」

「むぐ」


飛鳥はまた同い年の女性に顎の下に収められた、なかなかの屈辱である。


「今回の事もありましたし、肉弾戦も想定すると、全身の肉が衝撃吸収材であった方がよろしいのです。骨にも内臓にも筋肉にも、特殊なスポンジ状の繊維構造が浸透して細胞を抱え込んでおりますので柔らかくとも切れも千切れもしません、芳香は虫よけでありますが…陛下にふさわしいやんごとなき香りといたしまして成分は【蘭奢待】としております」


「いいなーお持ち帰りしたいなー」


「ふふっ、それはこれからがお困りですよ?何しろ、これだけの機能を生体に詰め込みました…機能維持のための代謝がどえらい事になっております。毎日白米を一升は平らげないと空腹で死ぬのですから…そんな大食らいの56歳男性を一般家庭に置けますかね?」

「ええー?そうか、残念…」


「陛下は我々のものです」


フミマロはドヤ顔をし、断固として言った。


「そしてその半分は今回修復した【特定部位】の消費となります」

全て着込んだ状態の皇帝飛鳥。

挿絵(By みてみん)


頭上に透明な状態で勾玉形アンテナが常に雄々しく屹立、たまに赤く光ると雷を吸い寄せて自殺。


【神人のもの】と伝わる形状の耳。ロボの耳に良くある円形のカエル的鼓膜が耳朶の中心にあり、穴は無い。


ゴーグルからは赤く内側から光る状態で少しだけ前髪が舌として。


お母さんが編んでくれたマフラーと機械を自身の体にする為の機械神経系の融合した紫マフラー。


胸に二本の扇子を常に携行し、皇帝らしく高笑いする時に使用する。


ホモ・サピエンスの血を引く高貴な血であるのを示すために臍は隠してはならない。


腰には鞘に入ったプラチナ製の笏。


絡まり合う水草を模した透かしの黒い銅製腕輪で固定される、壁にも張り付く事のできる蛙的グローブ。


エンペラーふんどしは水泳用。


足など露出部は常に56歳男性らしい【ガマオイル装甲】が滲んでおり脂性ヌルヌルのテカテカである。


高下駄を固定しているゲートルは長く、ちょっと余ってヒラヒラしているが…気にしない。おっさんだから。


自動で踏ん張ってくれる高下駄のお陰で走っても転ばずスーパージャンプ可能。常に視界は身長2メートル。



おっさんらしく大食いであるため、常に瞬間炊き炊飯器を手下の者に持たせる皇帝陛下。

腹が立つと円を描いて炊きたての飯がいっぱい詰まった炊飯器を脳天にジャストミートさせてお仕置き。

挿絵(By みてみん)


「まずはかるーく三号。行くぞ、おっさんの腕力(握力16キロ)で行くぞ、この俺のパワー(握力16キロ)で行くぞ」

とにこやかにお仕置き。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ