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びんよよ

ジーワジワジワジワミーーー


ジーワジワジワジワミーーー


ワンワンワンワンワンワン


ジャーコジャーコジャーコジャーコ


ギワギワギワギワギワギワ


ジーーーーーーーー



外でセミの鳴き声が凄い。


素数のも重なったから凄い。


生命力激しい。


盆地の夏は暑い、外にはものすごい勢いで育って行く入道雲。


しかし飛鳥は、六畳間の畳の上に伏せ両手をバンザイしたまま、動かなくなっていた。


部屋の外からカチャカチャ音がして、低い位置でコポコポと水音がして、カン、カン、と、乾いた音が続いて…。


ぺたぺたぺたぺた。


「陛下ァ、お茶が入りましたよ」


50センチ程の、腹が白く顔や背中が青緑色をしたツルッとした両生類が2本の足で立って、内と外が赤と黒に塗り分けられた盆の上に急須や椀と漬物を盛った皿を載せて、襖が開いたままの入口を通り過ぎて入って来た。


そうしてそのまま、部屋の入り口から数歩の所で大の字に行倒れている飛鳥の足元の方へ進む。


カチャカチャカチャカチャ…

ぺたぺたぺたぺた


「ん…う?」


両生類の「陛下」は伏せたまま、呻き声を発して僅かに首を傾けた、薄目が開きかける。


両生類…生類の内でも特別に寵愛を与えられるべく生み出された「神代御蛙」は、目の前の下半分を盆と茶器に隠されたまま、カラクリ仕掛けのように整った乱れ無い足取りで部屋の中心へと進んで行き、その鰭足は皇帝陛下の清められた前垂れの端を一直線に越えた、然るに。


ぐに。


「ギ」


飛鳥は一瞬海老反り、元に戻って静かになった。


盆を持った蛙は無言でその上を踏み越えてゆく。


カタン。


盆に載せられて来た茶碗がちゃぶ台の上に並べられて二人分の用意が済むと、そこでようやく振り返って見た。


「陛下、九時になりますよ、お茶とワイドショーの時間ですよ」


従者は、ついさっき玉体が砕け散った事に気づかなかった。


陛下は既に安らかな表情でこと切れていた。


ジワジワジワジワジワジワ


ミーンミーンミーンミーン


シャワシャワシャワシャワ


表の雑木林で蝉が激しく鳴き競っている、それはそのまま皇帝の葬送歌となった。


五十六年の生涯であった。

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