18.
「どこにそんなに急いで行くんだ?」
僕が答える前に、パク会長は目線で僕の行き先を探っていた。
庭の端にある別邸に目が届く頃、
「父さんのところに行くのか。」
パク会長が微かに口元を上げた。
「おじいさん、今日は出勤しないんですか?」
「今日は日曜日だ。」
「普段は日曜日でも出勤するじゃないですか。」
「なんだ? 祖父が金を稼がずに家でゴロゴロしてるのが気に食わないのか?」
「そんなことはないですけど……。」
「言いたいことがあれば言ってみろ。」
「いや、僕のような子供でもこうして走り回っているのに、経済を左右するおじいさんが家で遊んでいるのは……国家的損失じゃないかと思いまして。」
「この野郎、ずいぶんとお世辞を言うな。何だ? 事業をやっていて祖父の助けが必要か?」
「……うん。」
僕がためらうと、パク会長も少し期待する様子を見せた。
「おじいさんの助けはいつでも必要です。」
案の定、パク会長の口元に微笑みが浮かんだ。
「そうか、何を手伝えばいいんだ?」
「まだ大丈夫です。」
「……?」
「困ったときにすぐ頼ると、僕の取り分が減るじゃないですか。」
「何だと?」
「どうせただで助けてくれるわけじゃないでしょう……。」
「欲張りやがって、全部自分で持って行かないと気が済まないのか?」
「ちょっと欲張るのは罪じゃないですよ、ふふ。」
なぜだかわからないが、
パク会長を見るとつい本音を言いたくなる。
それも必ず冗談を交えて。
「それで、欲張った分だけ得られるのか?」
「そうなるように一生懸命走り回ってます。」
「金を稼いで使い道はあるのか。」
「うーん……考えてみます。」
僕の勘違いかもしれないが、
パク会長の微笑みがさらに大きくなった気がした。
「父さんが待ってるだろう。早く行け。」
僕は深々と頭を下げた後、パク・ジョンインの別邸に向かって急いで歩き始めた。
トントン。
あまりにも小さな手でノックしたので、よく聞こえたかどうか不安だった。
心の中で5秒ほど数えてからドアを開けようとすると、
カチャッ。
待っていたかのように玄関のドアが開いた。
「ジフン。」
パク・ジョンインはやつれた顔で僕を迎えた。
「どうしたんだい。この時間にお父さんを探しに来るなんて。」
「お父さんに会うのに理由が必要ですか?」
僕の言葉にパク・ジョンインは「あっ」と気づいた表情になった。
「そうだな、早く入って。久しぶりに息子と話がしたい。」
「楽しみだな。」
パク・ジョンインの執務室に入るのは初めてだ。
だいたい30坪ほどあるだろうか。
大きな机と高級なオーディオシステムだけがまともで、それ以外は分解されて用途がわからない家電製品が所狭しと散らばっていた。
「お父さん、これ全部何ですか?」
「いろいろと勉強しているんだよ。」
「大人でも勉強しないといけないんですか?」
「もちろんだ。」
パク・ジョンインは手慣れた手で手袋を外しながら言った。
「お父さんはたくさんの人を責任持たないといけないからな。当然、学びを怠るわけにはいかない。」
「大変じゃないですか?」
「大変だよ。」
言葉ではそう言ったが、
パク・ジョンインの目はやつれて見えた。
肉体的、精神的疲労が積もり積もっている証拠だ。
機嫌がよくてもアメリカ行きを許してくれるかどうかわからないのに、
この状態ではちょっと……。
まずは雰囲気を和らげてから、適当なタイミングで話を切り出すべきだろう。
僕の頭が複雑に動いているときだった。
「何か飲み物でもあげようか?」
「自分で取ってきますよ。」
「いいや、お父さんがあげるよ。」
パク・ジョンインが冷蔵庫に向かう間、僕は慎重に机の上を観察した。
メモがぎっしり書き込まれた革表紙のノート。
その横には積み上げられた決裁書類。
しかし、最も目を引いたのは、
「……!」
机の一角に山のように積まれた小さな短い鉛筆たちだった。
財閥だ。鉛筆なんて半分使って捨てても誰も文句は言わないだろう。
しかし、わざわざ最後まで使い切り、それをすべて集めておいた。
理由は何だろうか。
小説家の想像力を働かせると、それは一種のトーテムのように感じられた。
企業の未来を決定する位置にいる。
決裁のサイン一つで数万人の従業員の運命が左右される立場。
その選択が正しいのか?
その判断が正確か、どう確信するのか?
終わりのないプレッシャーを払いのけるためにも、パク・ジョンインは短い鉛筆を一つずつ積み重ねているのではないか。
執務室の床を埋め尽くす機械部品も同じだ。
食品系列社に勤務していた頃、食パンだけを食べて舌を敏感にしていた姿も。
そのすべては、実は限界まで努力したことを思い出させる装置なのではないか。
必死に足掻くように没頭したから、どうか自分を信じてくれという呪文、お守り、トーテムなのだ。
「何をそんなに考えているんだ?」
その瞬間、背後から聞こえた声。僕は平静を装って振り返った。
「ただ……見学していただけです。」
「オレンジジュースが好きだったよな?」
「もちろんです。」
僕がぎこちない笑みを浮かべながらジュースを飲んだ後だった。
「お父さん、最近忙しいんですか?」
「ん?」
「帰宅時間も遅いし……。」
「そういえば、最近ジフンとあまり話してなかったな。」
パク・ジョンインは申し訳なさそうにぎこちない笑みを浮かべた。
そして彼は僕に色々な質問を投げかけてきた。
それでも視線はずっと机の上の受話器に向かっていた。
待っている電話があるということだ。察するに、
『半導体投資が難航しているんだろうな。』
なぜならないだろう。
パク会長がしっかり食い込むようにと命じたのだから、
このあちこちでお金を工面するのに苦労しているだろう。
『くまなく目の周りに影を作るのもそのためだろう。』
だが、心配はいらない。
詳しい過程までは覚えていないが、パク・ジョンインはこの危機を完全に克服することができる。
『もちろんだ。』
僕は前世でしっかり見た。
半導体産業を先頭に立って、ヒョンガンが世界トップの企業に成長する姿を。その言葉はつまり、
『パク・ジョンインの勝負がうまくいったということだ。』
そんな彼に何の助けが必要だろうか。
どうせうまくいくのだから、全力で支持するだけだ。心が決まったせいか、僕はゆっくりとパク・ジョンインを見つめて尋ねた。
「お父さん、この鉛筆ですけど、一人で全部使ったんですか?」
「何?」
「鉛筆が山のように積もるまで、ずっと勉強してきたんですか?」
パク・ジョンインは答えの代わりに気まずそうな笑みを浮かべた。
依然として彼の心は鳴らない受話器に向かっているのかもしれない。
「ここにある機械たちも全部分解して実験したんですか?」
「もちろんだ。」
「うわー!この多くのものを全部ですか?」
コクコク。
「じゃあお父さんが韓国で一番の専門家ですね?」
「必ずしもそうではない。」
「いやいや、お父さんほど製品をたくさん使っている人はいませんよ。それに分解して、修理して、記録して…研究もたくさんしてきたじゃないですか。」
パク・ジョンインが最も聞きたい言葉。
「お父さんは誰よりも一生懸命やってきたから、必ず成功するでしょう。ね?」
「ジフン、残念ながら努力が必ずしも実を結ぶわけではないんだよ。」
「でもお父さんの周りには賢い社員がたくさんいるじゃないですか。お父さんがそんなに一生懸命やっているのだから、優秀な社員さんたちだってもっと頑張るでしょう。」
パク・ジョンインほどの人物が僕が何を言いたいのか理解しないはずがない。
「お父さんを100%信じている、ということ?」
「もちろんです。」
「お父さんだから?」
「いいえ。誰よりも情熱的な事業家だからです。」
「……!」
「鉛筆を山のように積み上げながら勉強する経営者じゃないですか。僕が株主ならすごく幸せだと思います。」
「だから、お父さん、頑張ってください?」
「無理に頑張らなくてもいいですよ。」
「ん?」
「今まで一生懸命やってきたじゃないですか。絶対にうまくいきますよ。そうなるに決まってます。」
僕が見たからですよ。
僕の目に映る根拠のない信頼が伝わったのだろうか。にっこりと、パク・ジョンインが初めて僕に完全に集中した。
「その言葉を伝えたくて来たのか?」
「うん、まあ……。」
この雰囲気でアメリカ行きの話を持ち出すのはちょっと。
「そう、そうですね。お父さんを応援したくて来ました。」
アメリカ行きの許可はお母さん…いや、ソンスヒから受けることにしよう…クフン。
「それじゃ、もう行きますね、お父さん。」
「ジフン。」
「……?」
「言いたいことがあるんじゃなかったのか?」
「え?」
「例えばアメリカに行かせてほしいとか。」
え?
それ、どうやって!
「数日前にお祖父さんがそう言っていたんだ。近いうちにジフンが訪ねてくるだろうと。」
数日前といえば…僕自身がアメリカ行きを考えもしていなかった時期だ。
僕が当惑した心を隠してパク・ジョンインを見つめているときだった。
「ジフンが行かせてほしいと言ったら、仕方なく許してやるようにと。」
「ああ、そうなんですね。」
「お祖父さんはとても確信に満ちておっしゃっていたんだ。」
はあ…あの人は一体何手先を見ているんだ!
「でも、どうしてお祖父さんに直接許可をもらわなかったんだい?」
「お父さんの息子だから、当然お父さんのところに先に来るべきでしょう。」
「それでここに来たんだね?」
「……うん。」
「いざ来てみたら、お父さんの顔があまりにも悪くて…話もできずに帰ろうとしてたのか?」
カリカリ。
「でも、よかったね。」
「……?」
「お祖父さんが待ち構えていたんだよ。親を置いて祖父のところに先に行くと…事業も何もかも、ひどく叱られるだろうって。」
うーん。
パク会長の性格上、多分こう言っただろう。
「子供が金に目が眩んで上下無視して突っ込んできたら、事業も何もかもぶち壊してやるぞ!」
トップダウンの報告体系が光る瞬間か。
ともあれ。
「ジフン、もしかしてプレッシャーのせいでそうしているのか?」
「プレッシャー?」
「お前がアメリカまで行ってやるということだ。お祖父さんは事業と言っていたけど。」
「……。」
「大人になって企業を継ぐことを心配して、先に練習しているのか?」
僕は答えずにパク・ジョンインが口を開くのを待った。
彼がどんなことを言ってくれるのか気になったのだ。
「本当にそれが理由なら、気にしなくていい。無理に大人の論理に従わなくてもいいんだ。お前が好きな文学、思う存分やらせてやるから……。」
「お父さん、僕が好きな文学を思い切りやるためにアメリカに行こうとしているんです。」
「それはどういう意味だ?」
何と説明すればいいのか。具体的な計画を話せば理解しやすいのだろうか。僕が少し悩んでいるときだった。
ピリリリ!
突然、ベルの音が鳴り響いた。
ずっと待っていた電話がついにかかったのだろうか。
パク・ジョンインは僕と受話器を交互に見つめた。
残りの話は通話が終わってからでいいかという目線。
僕が頷いた直後だった。
「パク・ジョンインです。」
良くない話を聞いたのか、パク・ジョンインの顔色が暗くなった。
しかし彼はそこで屈しなかった。
パク・ジョンインはいつもよりも力強い声で口を開いた。
「一生懸命走ってくれたでしょう。大丈夫です。代わりに、さっき言った通りに進めてください。損失はどうでも構いません。」
どうやら、受話器の向こうで反対する声が聞こえてきたらしい。
パク・ジョンインはさっきよりも断固として答えた。
「絶対に成功する事業です。私が責任を持ちますので、2週間以内に持ち分を整理してください。」
そのくらいになると、相手も納得せざるを得なかったのだろう。
パク・ジョンインはそうして受話器を置いた。
彼は通話の余韻が残るようにしばらく短い鉛筆を見つめていた。
その後、僕の存在を思い出したのか、彼は僕の方に近づいてきて言った。
「アメリカ…お父さんも一緒に行こうか?」
「いいえ。忙しいですし。社員の方と一緒でも十分ですよ。」
「それでも大丈夫か?」
「もちろんです!」
「そうか。今回は一人で行くけど、忙しい仕事が終わったら…お前たち息子を連れて旅行に必ず行こう。このお父さんが約束するよ。」
「ありがとうございます、お父さん。」
待ちに待った許可が出たわけだ。でも、なぜだろう。目的を達成した喜びよりも、
『絶対に成功する事業です。私が責任を持ちますので、2週間以内に持ち分を整理してください。』
パク・ジョンインの通話内容がずっと耳から離れなかった。