16.
アメリカ、ボストン。
チョ・スドクの仕事の進め方はブルドーザーのようだった。
まず休まなかった。
さらに考え込みすぎることもないので、時差ボケも必要なかった。
おかげで一緒に行った大学院生たちはひどい目に遭っていた。
それでも仕方ない。教授が目を光らせて書類を見ているのに、学生たちはただ外に出て走り回るしかない。
チョ・スドクは完全にコリアンスタイルだった。
「無条件でお土産を持って訪問するんだ。そしてたった三つのフレーズを言えばいい。」
『貧しい大学院生です』
『研究目的で絵が必要です』
『遠く韓国から来ました』
最後の「韓国」が出てくると、誰でも心が弱くなる。
家主がそっとドアを開ける瞬間、ドアの隙間から果物籠を押し込むんだ。
思わず受け取ってしまえば、ゲームオーバー!
チョ・スドクの方法はかなり効率的だった。
そのおかげで一人当たり一日四軒は回ることができた。
だから何。
三日もあればゲームオーバーだ。
果たして三日目になると、良い知らせが聞こえてきた。
リンリンリン!
(教授!おっしゃっていた絵…子供を抱いている母親です。)
「見つけたのか?」
(はい!紙の質感だけで何百年も経っているように見えましたし、何より線自体が違います。何気なく描かれたように見えても、明確な力が感じられました。)
「確かか?」
(はい、確かです。)
「どこだ?ボストン大学の方に行けばいいか?」
(でも、教授、一つ問題があります。)
「なんだ?高値を言っているのか?大丈夫、予算は十分にある。」
(いや、それが違うんです。)
「……?」
(どんな大金を積まれても売らないと言っています。)
ひょっとして本物だと気づいたのか。
「お前、何を言ったんだ?」
(私は何も言いませんでしたが、むしろ向こうからたくさん話してきました。)
「それはどういうことだ?わかるように話してくれ。」
(私もなかなか状況が理解できませんでした。ただ……。)
「ただ何だ!」
(その絵が…ずっと倉庫で腐ってほしいと言っていました。)
「なんだって?それがどういうことだ!」
(その絵も自分のように倉庫で腐らせるんだと…狂ったようにぶつぶつ言っていました。)
いや、それは一体何のことだ?
「切るぞ。韓国に電話してみる。」
「倉庫で腐ってほしい……。」
私は受話器から聞こえてきた言葉をじっくりと考えた。
ただ腐らせるだけでなく、「自分のように」が前につくというのは?
自分の人生が倉庫で腐っていっているということだ。
「あの方、状況がかなり悪いんですか?」
(いいえ。チャールズ川近くの高級住宅街に住んでいます。建築の仕事も順調に入ってきているようですが……。)
「経済的には苦しくない?」
(少なくとも、そう見えます。確かに。)
経済的に豊かでも当然不満があるはずだ。
健康、家族、人間関係など。
世の中には様々な問題が山積しているから。
ただ、私が知りたいのは…その不満をなぜ絵にぶつけるのかということだ。
それもよりによってデューラーの遺作に。
「教授が直接行ってみたらどうですか?」
(はい、通話が終わったらすぐに行ってみます。)
今ボストンは午後6時半だ。
急いで動けば大きな問題はない時間帯。
「教授、急ぐ必要はありません。絵を買うという考えよりも、まず相手のキャラクターを把握することに重点を置いてください。」
(キャラクターですか?)
「家を見ればその人をだいたい把握できます。テレビをつけているのか、つけているならどの番組を見ているのか、ソファの上には新聞が置かれているのか、それがウォールストリート・ジャーナルかワシントン・ポストか…机にはどんな本が置かれているのか、オーディオ機器の隣にはどんなレコードがあるのかも。」
(例えば…家具の配置などもチェックしろということですね?)
「正確です。皿洗いが溜まっているか、ゴミ箱は適時に空けているか、服を積み上げているか、ハンガーにきちんとかけているかなど、非常に些細なことでもいいので、できるだけ多くの情報を集めてきてください。」
(いわば…探偵みたいなものですね。)
私のバージョンで言えば、まさに「小説家」になることだ。
人間を観察し、その人の生涯を想像し、物語を展開すること。
私が一生やってきたのはまさにそれだ。
「すべての場面を覚えていることはできません。ノートを持って行って丁寧に書き留める方がいいでしょう。」
(必要ならスケッチもしてきますよ。)
通話が終わった後も、私はじっと受話器を見つめていた。
「倉庫で腐ってほしい?」
意味のわからない言葉に取り憑かれながら。
「それも自分のように……。」
私はしばらくの間、独り言をつぶやいていた。
ボストン。
タクシーに乗ったチョ・スドクはやや緊張していた。
目的地がボストン野球チームの本拠地、フェンウェイ・パークの近くだったためだ。
もし試合でもあった日なら…周辺が麻痺するだろう。
そうなれば歩く方が早くないか。
しかし、心配に反して道路は空いていた。
街にも人がいないほどだった。
タクシー運転手に理由を尋ねるとすぐに答えが返ってきた。
「今日はヤンキースとレッドソックスの試合の日だからね。みんなテレビの前にいるんだろう。」
「ああ、じゃあボストンがニューヨークに遠征しているんですね?」
「そうだよ。今日から3連戦が始まるんだ。俺も君を降ろしたらすぐに帰ってパブに行くつもりだ。」
そんな風に15分ほど経ってようやく目的地に到着した。
アメリカの典型的な中産階級の町だ。
車両二台が楽に入る車庫。
その隣に広がる大きな庭。
確かに生活に困っている様子はなかった。
玄関の前には電話をくれた大学院生助手が立っていた。
「どうだった?」
「ええ、その…何度か話しかけてみましたが、反応は相変わらず冷淡です。」
「研究目的だと言っても?」
「はい。ただ腐って無くなってほしいと言っていました。」
「なんだって。」
チョ・スドクは理解できないというように首を振った。
そうしながらも彼は後ろのポケットから小さなノートを取り出した。
「中にいるのか?」
「ええ。でも……。」
「また何だ?」
「野球を見たいから出て行けと言われました。」
「野球?ああ、そのニューヨーク遠征か?」
「そこまではよく……。」
チョ・スドクはベルを押した。
すると。
ドンドン!
家の中から少し苛立った足音が聞こえてきた。
やがてドアがばっと開かれ、熊のように巨大な男が顔を出した。
「確かに帰れと言ったはずだが。」
「こんにちは。さっき訪ねた学生の指導教授です。」
「教授だろうが何だろうが…今日は帰れって言ったじゃないか?聞こえなかったのか?」
「ああ、今日は絵のことで来たわけじゃないんです。」
「何?」
「野球…野球を一緒に見せていただけないでしょうか?」
「……?」
「今日からヤンキース3連戦があるんですよね?でも、うちの宿舎がここから二時間は離れていて。今から急いで帰っても5回は見逃してしまいます。」
「だからうちで野球を一緒に見ようって?」
「レッドソックスファン同士、一緒に応援したら楽しいじゃないですか。」
「いらない。俺はポップコーンを食べながら野球を見る奴とは違う。全神経を集中しなきゃならないんだ。」
「私も同じです。野球を見るときは口を閉ざして一言も話しません。その代わりにこうして……。」
チョ・スドクは得意げにノートを見せながら言った。
「試合内容を丁寧に書き留めて真剣に視聴するんです。まるで記録員のように。」
相手はチョ・スドクを上から下まで見回した。
どう見ても野球とは関係ないと思ったのかもしれない。
疑いの眼差しを向けていたその時。
「教授はただの生業であって、俺の夢は韓国の選手がボストン・レッドソックスでプレーすることだ。どういうことか分かりますか?俺も野球に少なからず狂っているってことです。」
ボストン・レッドソックスとニューヨーク・ヤンキースの対決。
チョ・スドクがソファに座ったときはすでに2回が進行中だった。
「韓国から来たチョ・スドクです。」
「ジェームズ・ベイカーです。ボストンで生まれ育ちました。」
会話はそれで終わり。
ベイカーはずっと試合に集中していた。
そしてレッドソックスの攻撃が終わり、広告が流れる頃。
トントン。
彼は分厚い大学ノートを開いて簡単なメモをしていた。
まるで監督にでもなったような表情。
そのおかげでチョ・スドクは存分にノートに情報を書き込むことができた。
<家の中はきれいな方。>
<ソファの後ろの本棚には建築関連の本がほとんどない。>
<野球の統計に関するものがほとんどで…使い込んだ大学ノートが20冊以上並んでいる。>
<テレビの横に高そうな飾り棚がある。一番上の棚には子供用サイズの野球グローブがある。分厚い感じからして捕手用グローブのようだ。>
<二番目の棚には古びた野球ボールが四つ置かれている。そのうち一つにはサインも入っているようだ。遠くて誰のサインかは確認できない。>
<その下の棚にはきれいに折りたたまれた灰色のユニフォームとアルミニウムバットがある。どうやら本当に野球狂のようだ。>
どうせ韓国語だから。
相手に見られることもないだろうし、ただひたすら書き留めた。
唯一残念な点があるとすれば。
『肝心の絵を見ていないってことだ。』
野球を見ようと言って入ってきたのに、今さら絵の話をするわけにもいかないじゃないか。
そんな風にこっそり様子をうかがっている頃。
「わあー!」
テレビを見ていたベイカーが両手を広げて歓声を上げた。
何事かと思えば。
0対0。
均衡を保っていた試合に。
「そうだ、それだ!」
なんと3点ホームランが飛び出したのだった。
8回、3対0。
このまま二イニングを守ればボストンの勝利。
それなら…気分が良くなった家主に倉庫の開放くらいは…お願いできるんじゃないか。
考えがそこまで及ぶと。
「レッツゴー!レッドソックス!」
チョ・スドクは三代目のファンでもあるかのようにボストンのために声を張り上げた。
試合終了。
3対2。
ヤンキースが猛追してきたが、ボストンが最後に集中力を発揮して試合を締めくくった。
その時、こらえていた息を長く吐き出すベイカー。
安堵のため息をつくのはチョ・スドクも同じだった。
試合も勝ったし…今はちょうどいいタイミングを見計らって話しかければいいのに!
「絵を見に来たんだろ?」
なんてことだ。
ベイカーが先に口を開いた。
「勝負所でしきりに他のことを考えていたな。」
「いや…それが。」
「倉庫にある絵、それを見せればいいのか?」
「それならありがたいですよ、私としては。」
「お前の弟子にはすでに言ったが、見るのは構わないが売るのは無理だ。」
「理由があるんですか?」
「ただ、カビの生えた倉庫でずっと腐っていてほしいんだ。」
ここでもう一度聞いてみろ。
顔をしかめてすぐに出て行けと言われるだろう。
仕方ない。
絵を見せてくれるというから、まずは満足するしかない。
ボストンが勝ったからか。
ベイカーは鼻歌を歌いながらチョ・スドクを倉庫に連れて行った。
ガチャリ。
「心ゆくまで見てくれ。」
ベイカーは興味がない様子でそのまま戻って行った。
倉庫は広大だった。
大きな規模にふさわしくかなり多くの美術品が保管されていた。
リビングの飾り棚にあった野球用品がどれもよく手入れされているのに比べて。
「……。」
ここはなんというか、どれも粗末に扱われている感じがした。
無造作に積み上げられ、あちこちに散らばっている、文字通り倉庫そのものだった。
「いや…それでどこにあるんだ?」
リビングにいる家主に聞くわけにもいかない。
おかげで広い倉庫をうろうろと歩き回っていたその時。
「…ん?」
チョ・スドクの目を引く絵があった。
巨大なサイズの油絵。
確かにデューラーの遺作を探しに来たのに…突然圧倒的なオーラの作品に出会うとは。
「こ、これは予想外のシナリオだ。」
チョ・スドクの目は大きく揺れていた。