15.
荷物になるから持ってくるなと言ってたのに。
今になって自分の書斎に持っていけとは。
私がパク会長を見つめると、彼は無表情で言った。
「絵を売るのが面白くなったのか。」
「え?」
「また爺さんに売るために絵を持ってきたのか、ってことだ。」
私はすぐに答えた。
「いや、おじいちゃん。これは売れない絵なんだ。」
「……?」
「もらったプレゼントを売るわけにはいかないでしょう。」
「プレゼント?」
うなずく。
「その人が君にプレゼントを?ヒョンガンに取り入ろうとしているんじゃないのか?」
「詳しくは説明できませんが、契約の代わりとでも…そう思ってください。」
「また秘密か?」
「はい。」
「隠し事が多いな。」
そう言いながらも。
にやり。
パク会長の表情は悪くなかった。
何よりチョ・スドクの絵に興味が湧いたようだった。
「寒いな。中に入ろう。」
とことこ。
パク会長は私の歩調に合わせてゆっくり歩き出した。
「おじいちゃん、もしあの絵を…お金を出して買おうと思ったら、いくらぐらい出す?」
「なんで?高く買ったら今からでも売るつもりか?」
「いや、ただ。ちょっと気になっただけ。」
「秘密だ。」
「ええ、そんなのが秘密ですか?」
「お前は秘密があってもいいのに、俺には秘密があってはいけないのか。」
「孫に仕返しですか?」
「そうだ、仕返しだ。」
今日が初めてだった。
おじいちゃん…いや、パク会長と冗談を言い合ったのは。
だからか、庭を抜けて家に向かう道がいつもより短く感じられる夜だった。
チョ・スドクは弟子たちを呼び出した。
仕事ができる、いわゆるエースたち。
その中でも。
『粘り強さが基本で、体力もあり、人と会うのに抵抗がないことが必要だ。』
そうしてもう一度選別した。
『英語も堪能でなければならない。』
最後の条件に合う者を選び出すと、ちょうど7人の精鋭部隊が完成した。
そうだ、この歴戦の勇者たちと一緒なら!
何も怖くないだろう?
パク・ジフンはデューラーの遺作をはっきりと指摘してくれた。
子供を抱いた母親の姿。
古い紙に描かれたドローイングだという。
『いや、でも…そんな情報はどこから仕入れてくるんだ?』
そんな疑問もつかの間。
『まあ、ヒョンガンの情報力は中央情報部以上だと聞いたことがある。』
パク・ジフンはゆっくりと始めてもいいと言っていた。
しかしチョ・スドクの考えは違った。
『おおよその場所も分かっているし、職業も特定されている以上、数回の電話で見積もりが出るだろう。』
ついでにすぐに連絡してみよう。
チョ・スドクは人脈が広い方だ。
恥ずかしい話だが…筆を置いて、人脈を増やすことに専念したからだ。
そのおかげでボストンの大学にも知り合いの教授が何人かいた。
『まずは有名な大学から順に連絡してみよう。』
通話内容は簡単だった。
人を探すのに助けが必要だ。
教授の社会で指名手配すればボストンに住む建築家のリストくらいは出せるだろう。
もちろん難色を示す場合もあった。
その時はアメとムチを交互に使えばいい。
「いや、数年前の学会の時のことだが。ホテルで君が金髪の女性と一緒にいるのを見たんだ。だからこっぴどく叱ってやったよ。韓国人と結婚している友達に何を言ってるんだ!そいつは確かに見たと言っていたよ。それで俺は言ったんだ!いや、奥さんが金髪に染めたんだろう!そうだろう?俺の言ったことは間違いないだろ?」
するとすぐに返事が来た。
(で…誰を探しているんだ?)
「ボストンにいる建築家なんだが、その人が絵を一つ持っているらしいんだ……。」
こうして数回の電話をかけ、ちょうど二日後に連絡が来た。
(庭のある家に住むボストンの建築家で、古い絵を持っている人。)
「もう絞り込んだのか?」
(だいたい50人くらいだ。)
「おお、いいね。」
(抜けている人がいるかもしれないが。)
「いや、君がコンピュータじゃないんだから。人間のやることだ、当然抜け落ちることもある。」
(じゃあ、これで終わりにする……。)
「ちょっと、ちょっと。」
(また何だ?)
「飛行機のチケットを手配して飛ぶのに最低二日はかかるんだ。」
(それで?)
「その間にチェックをお願いしたい。」
(何を?)
「君はコンピュータじゃないんだから。抜けている人がいないか確認してくれ。」
(これはちょっとやりすぎじゃないか?)
「いや、友達にお願いするのに何でそんなに悪者にするんだ?な?前の学会の時…君がこっそり抜け出してカジノに行ったことあったじゃないか。その時に1万ドルくらい負けたのか?落ち込んでいた君を慰めてくれた彼女……。」
(確認するよ。抜けがないか。博士課程の友達に頼めばすぐにわかるさ。)
「いいね、博士課程!聞いただけで心強いよ。」
こうしてすべての準備が整った。
ふう。
すぐにでもアメリカに飛べる。
『そうだ、まずこの仕事から着実に進めるんだ。そして……。』
韓国に戻ったら死ぬほど絵だけを描くんだ。
『ヒョンガン美術館開館展示……!』
芸術家人生の第2幕にこれ以上のスタートはないだろう。
チョ・スドクの目は今まで以上に燃え上がっていた。
次の日、ハンナムドンの自宅。
朝早くから私を呼ぶ電話があった。
まさにチョ・スドク教授だった。
「朝早くにどうしたんですか?」
(準備が全部整ったので、報告しようと思って。)
「え?」
(モンタージュを作って指名手配をかけたら、通報が続出してね。)
モンタージュ?指名手配?通報?
チョ・スドクは何だか楽しそうだった。
(あとは飛んで行って容疑者を確認するだけだ。)
「いや、何…刑事ですか?」
(それほど徹底的に体系的にやっているということだ。)
「いくらなんでも、数日でそんな……。」
(この分野は私が適任だ。もう実感してるだろ?)
「元々簡単な仕事ではなかったんですね?」
冗談交じりの言葉。
相手もそれを知っているのか、にやりとした声で返してきた。
(本物のプロが取り組むとそういう反応が出るんだ。あれ?実はこれが簡単な仕事だったのか?でも実際に取り組んでみると違うんだ。)
「一度は騙されてみますよ。」
(おっと、ありがとう!)
ふふふ。
「それじゃあ、今から経費を送らないといけませんね。」
(おお、また一度感謝しないといけないな。社長!私の金だと思って節約します。)
この人は本当に愉快なスタイルだ。
(入金確認したら一番早い飛行機のチケットを手配して飛びます。そして随時状況を報告するので…なるべく家にいてほしいのですが。)
「もちろん。私は元々家にいるのが好きなんですよ。」
(家にいるのが好きなんですね?)
家にいるのが好きなだけで……。
ああ、当時はそんな言葉はなかったか。
「とにかく家にいますよ。いつでも電話してください。」
(はいはい!それじゃあすぐに……。)
「あ、教授。」
(……?)
「この前にいただいた絵ですが。」
(ああ、はいはい!)
「あれ、おじいちゃんの書斎に入ったまま出てこないんですよ。」
(それがどういうことですか……。)
「気に入ったのか、おじいちゃんが返してくれないんです。」
一瞬の静寂。
この時、私は初めて知った。
静寂の中にも歓喜が宿ることがあるという事実を。
(ジフン君、いや社長!私が忠誠を尽くします。)
「いや、それを言うために言ったんじゃないんですけど。」
(私の忠誠は誰にも止められない!絶対に阻止できない!)
もうすぐ還暦を迎えるおじさんが…11歳の子供に……。
とにかく困惑した(?)通話はそうして終わった。
パク・ヨンハクは大きなキャンバスを二つ並べ、十分な時間をかけて二つの作品を観察していた。
『これが同じ人物の腕前なのか?』
確かにどちらもチョ・スドクの絵だった。
左は数日前にジフンがもらったという作品。
右はチョ・スドクが数年前に発表した絵だった。
あまりにも明確なレベルの違いのせいだろうか。
「ふうむ。」
パク・ヨンハクの口から低い溜息が漏れた。
これまでチョ・スドクが発表した絵はどれも似たり寄ったりだった。
完成度はあるから教授の座に就いたのだろう。
ただし世界市場に出すには…特に特徴がなかった。
ところがどうだ。
ジフンが持ってきた作品はこれまでのレベルをはるかに超えていた。
突然悟りでも得たように。
何がチョ・スドクを変えたのだろうか。
欲に満ちた想像をしてみると。
もしかしてジフンが事業を提案する過程で何かあったのではないか。
一歩進んで、孫がチョ・スドクの真価をぼんやりと察知していたのではないか。
そんな考えを続けていると。
くすくす。
パク・ヨンハクは思わず苦笑してしまった。
たった11歳の子供を相手に…今何を言っているんだ?
『こうしていると、孫の中に五十歳の老獪な男がいるとでも言い出しかねないな。』
パク・ヨンハクは雑念を振り払うように立ち上がった。
彼はカーテンを開けて外の風景に目をやった。
高く昇った太陽。
命の光を感謝の気持ちで受けている木々。
その喜ばしい光景さえもパク・ヨンハクの関心を変えることはできなかった。
『どうして息子よりも孫に期待がかかるんだろう。』
その時だった。
りりりりり。
鋭く響くベルの音にパク・ヨンハクは振り向いた。
「誰だ?」
(会長様、キム・ウクファン室長です。ご報告がありましてご連絡いたしました。)
「報告?」
(はい。すぐに伺ってもよろしいでしょうか?)
「時間が惜しいから、何を来ると言うんだ。電話で報告しろ。」
(はい、会長様。)
キム・ウクファンがしばらく言葉を選んだ後だった。
(坊っちゃんの口座にあった金額の大半がチョ・スドク教授に振り込まれました。チョ教授はボストン行きの飛行機を予約し、即座に空港へ向かっています。)
「ボストン?」
(調べたところ、絵を探しているようです。教授の人脈を活用し、すでに候補者まで特定しているのを見ると…かなりの腕前のようです。)
「その腕前でうちの子を丸め込んだのか?」
(え?)
「良い絵があるから投資してくれ、金だけ出してくれれば自分で行く、と。あの素晴らしい腕前でうちの子を丸め込んだってことか?」
(それが……。)
「なんで言えないんだ?」
(私が調べたところでは坊っちゃんが先に事業の提案をされたようです。)
「……?」
(チョ・スドク教授は元々肝が小さく冒険を嫌うタイプです。降ってくる利益をもらうことはあっても、自ら動いてリスクを取るのは負担に感じる人間です。)
「肝が小さい?」
(はい。ヒョンガンを利用しようとする器ではありません。)
「ではあいつが先ではなく、うちの子が先に丸め込んだということか?」
(丸め込んだという表現よりも提案や…説得の方が……。)
「確かなのか?」
(状況的には確かに見えます。)
「腕前はうちの子の方が上のようだな。」
(会長様、坊っちゃんがどんな絵を探しているのか、その価値はどれくらいなのか確認してみましょうか?)
「いい、やめろ。」
久しぶりに期待していた映画が公開を控えているのに。
内容を知ってしまったら興ざめじゃないか。
「子供は気にせず、さっさと会社の仕事に集中しろ。」
(はい、会長様。)
受話器を置いたパク・ヨンハクの口元には妙な笑みが浮かんでいた。