14.
ジョ・スドクから連絡が来たのは、ちょうど1週間後のことだった。
(ジフン君、今日会えるかな?)
ちょうど冬休みが始まったところだったので、特に問題はなかった。
(私が君のところに行きたいんだけど、ちょっと事情があってね。研究室に来てくれると助かるんだが。)
「もちろん、大丈夫です。」
時間がかかるとは思っていたが。
『1週間か。』
思ったよりも慎重なスタイルなのかもしれない。
僕は本を持って家を出た。
「運転手さん、ソウル大学までお願いします。」
走る車の中で僕は『白鯨』を読んでいた。
前世で何度も読んだ本だが、原書で読むと…
『眠くなるなぁ。』
ここ数日、英語の勉強に力を入れてきた。
成果もそれなりにあった。
原文独特のリズムを感じながら読むのが楽しかったこと!
そのおかげで難しい本にも挑戦してみたが。
「……。」
『白鯨』は色々と無理な感じ。
僕は本を閉じて窓の外に視線を移した。
出勤時間を過ぎたせいか。
道路はかなり空いていた。
静かでいい感じだな。
僕の人生も昼間の道路のように渋滞区間なしで…スカッと通れたらいいのに!
『そのためにも。』
まず200億は必ず稼がなければならない。
そうするにはジョ・スドクが大きな役割を果たしてくれる必要がある。
色々と考えが頭の中を巡る頃、今や母校並みに慣れたソウル大の校内が目に入った。
ジョ・スドクがどんな答えを準備しているのかは分からないが。
『すぐに確認できるだろう。』
車が完全に止まった後。
カチャッ。
僕はシートベルトを外して席を立った。
西洋画科の学科長室の中。
僕はソファーテーブルを挟んでジョ・スドクと向かい合っていた。
「何か飲みますか?」
ジョ・スドクは特有の気取った表情を消して、とても淡々と言った。
「大丈夫です。」
「話が長くなりそうだから、ジュースでも飲む方がいいんじゃないかな?」
「いいえ。」
ジョ・スドクはうなずいた。
1週間の間に何があったのか、権力志向的な目つきは跡形もなく消えていた。
「ジフン君の提案…考えてみたよ。でもいくら考えても意味がないんだ。何をするのかも分からないのに、何を決めることができるだろう。」
同意する。
だが世の中には仕方のないこともあるものだ。
「内容を聞けば断れませんよ。」
「情報が命だ?」
うなずく。
「質問を変えてみよう。この仕事が成功すれば、ジフン君は何を得るんだい?」
「お金です。」
「おおよそいくらか教えてくれるかな?」
金額を言えば、絵の価値をおおよそ推測できるだろう。
「僕も分かりません。」
「それなら僕が得るものは何かくらいは…教えてくれるだろう?」
「同じです。」
「いくらか分からないお金?」
「いいえ。教授の収益は決まっています。」
2020年代基準で1億くらい。
金額自体はそれほど大きくないかもしれないが。
『1か月働いて稼ぐお金だぞ!』
さらに付随する効果も期待できる。
「今後似たような事業を進める際、当然教授をまず探すことになりますよ。」
「現康との関係を続けることができるということだね。」
「はい。」
「僕に許された情報はこの程度がすべてだろう?」
うなずく。
「残りは事業に着手しなければ聞けず、それでも…説明を聞いた後には絶対に戻れない?」
「その通りです。」
「残るのは私の決断だけだね。」
この答えを聞くために1週間待った。
推測するに。
彼はおそらく断らないだろう。
もし僕の意思を拒むつもりだったら、礼儀としてでもハンナムドンに来ると言ったはずだ。
ところが。
「僕の報酬は必要ない。」
ジョ・スドクが意外な言葉を口にした。
「お金の代わりに他のものが欲しいということですか?」
「そうだ。代わりに現康美術館が開館する日に、最初の展示作家に選んでほしい。」
突然これはどういうことだ?
現康美術館の館長になる人はソンスヒで、その上初期にはパク会長の影響がかなり強いだろう。
11歳の子供が関わる余地は全くないということだ。
何より。
意義深い開館展示に…キム・ファンギ画伯でもないのに、どうしてあなたの絵を飾ることができるのか?
言いたいことはたくさんあるが。
「……。」
傷つけたくないので、ただ口を閉ざしていた。
しかし、僕の表情がすでに多くのことを物語っていたようだった。
ジョ・スドクは釈明するように急いで言葉を続けた。
「そう言うと思って作品を準備しました。」
「え?」
「その時ジフン君が聞いたじゃないか。新しい作品はいつ描くのかって。これがその答えだ。」
いや、このおじさん。
事業の話をしている途中で絵を見せるって?
驚きもつかの間。
『とにかくお金を…受け取らないってことだよな?』
そうだ、だまされたと思って見てみよう、まさか。
「こちらに来てくれるかい?」
ジョ・スドクは僕を研究室の隅に導いた。
そこには日光を避けるために裏返して置いてあるキャンバスがあった。
彼はキャンバスを持ち上げて慎重にイーゼルに置いた。
「新作だ。見てごらん。まだ絵の具も乾いていないだろう?」
ジョ・スドクの作品はたくさん見てきた。
ソウル大の展示室に行くだけでもかなりあったから。
「今朝までずっとタッチしていたんだ。久しぶりに筆を持ったから感覚が鈍っていたけど、それでもなんとか完成させたんだ。」
なんとか、とは。
「どうだい?それでも見られるものじゃないか?」
「少し待ってください。」
「……?」
「作品を鑑賞できるように、静かにしていただけますか?」
「もちろんだ。ゆっくり見て。私は外れているから。」
今まで見てきたジョ・スドクの画風は過度に鋭かった。
良く言えば鋭敏で、荒々しく言えば神経質だった。
未熟な若さ。
洗練されていないエネルギー。
ジョ・スドクの作品を見て共通して感じた感想だった。
しかし今日のこの絵は違った。
『宇宙を描いたのか?』
黒い濃い背景に立ち並ぶ星々。
この数多くの星を描きながら、作家はどんな思いにふけっていたのだろう。
最初に感じたのは一種の寂しさだった。
星を夢見ながらも、広大な闇の中で彼に許された場所はない。
だからキャンバスの前で黙々と他人の星だけを刻み込むしかない。
『過去のジョ・スドクだったら?』
僕もあのように明るい光を放つぞ…そんな決意を込めたはずだ。
しかしこの絵には重い諦めが込められていた。
自分の限界を認め、それを淡々と受け入れる者の苦悩。
最善を尽くした者だけが直面することのできる、人生の残酷さ。
真の大人に染み込んだ人生の香りというべきか。
僕はゆっくりとジョ・スドクのいる方に顔を向けた。
「学科長。」
「はい、ジフン君。」
「この作品は…ニューヨーク近代美術館に飾っても全く問題ないですね。」
「い、いや、そんなに言わなくても。」
「僕は本当にそう感じました。」
ジョ・スドクはじっと僕の目を見つめた。
11歳の子供の称賛に涙したり笑ったりするには、彼が耐えてきた人生の波がどれほど大きかっただろうか。
彼は感情の動揺もなく、静かに口を開いた。
「それなら…報酬の代わりに現康美術館の開館展示に私の絵を飾ることができるかな?」
「私が決めることではありません。推薦する立場でもありません。ただ。」
「……?」
「このレベルの作品が複数点準備できるなら、その時は現康が進んで教授をお迎えするでしょう。」
言うだけで、ジョ・スドク次第だということだ。
保証されたものは何もないが。
「いいでしょう、やってみます!」
ジョ・スドクは爽やかに答えを出した。
「ジフン君とする事業も!僕の個展も!とにかく全部進めてみよう。」
僕はお金を節約できて嬉しいが。
確実ではないと言っているんですよ、うん。
「ジフン君、契約が成立した記念にこの絵…プレゼントしたいんだ。」
「え?」
「ジフン君からインスピレーションを受けて作った作品だからさ。君が持って行く方が意味があるんじゃないか?」
いや、個展を準備するって言ってたじゃないですか。
絵を一つでも多く確保しなければならない時に。
この素晴らしい作品を…僕にくれるってどうするんですか?
そんな僕の心の中を読み取ったのか、ジョ・スドクがすぐに言葉を続けた。
「作品はまた描けばいいさ、何が問題なんだ?」
「それなら事業はどうするんですか?絵ばかり描いていたら、仕事はいつするんですか?」
「いや、仕事を僕が直接するのか?」
「……?」
「本来の業務は大学院生が見るものだ。」
え?
「ジフン君が若いから知らないのかもしれないけど、大学っていうところは大抵博士課程の友達が引っ張っていくんだよ。」
知ってますよ。
僕も大学院を経験したことがありますから。
「この前、ボストンって言ってたよね?」
うなずく。
「そこにうちの学生を5人も放り込めば、スッカリ変わりますよ。分かりますか?」
「たった5人で?」
「5人も多い。3人で十分だ。」
「そ、そんな5人でお願いします。」
「資金が潤沢なんですね?」
いや、いくらお金があってもそうじゃない。財閥として生まれた奴が…大学院生に払うお金を節約して…何をするんだ!
「教授、人は十分に雇ってください。」
「ジフン君、最少人数で最大の効率を引き出す時の、その喜びというのは……。」
それはあなたの個人プロジェクトを進める時にそうしてください!
僕と一緒にすることは無条件に余裕を持ってやってください、お願いです!
ジョ・スドクも空気を読んで。
「代表がそうしろって言うなら従いますよ、しょうがないな。」
負けたふりをして頷いた。
ハンナムドンの自宅。
僕はジョ・スドクとの事業の話を終え、ゆっくりと家に戻った。
パク・ヨンハク会長の帰宅時間に合わせてだった。
『現康美術館が開館する日に、最初の展示作家に選んでほしい。』
それでも同じ船に乗った以上…努力はしなければならない。
『パク会長にお願いしても聞いてくれる人ではないし、心から湧き上がるようにするしかないか。』
一番いいのはやはり作品を直接見ることだ。
偶然を装った出会い。
ブオーン!
巨大なエンジン音が聞こえる頃。
「絵を出してください。」
僕は社員たちに助けを求めた。
しばらくして。
大型セダンが止まり、パク会長が車から降りてきた。
「おじいちゃん、お帰りなさい。」
「これはなんだ?」
「絵です。」
パク会長が興味を示すと、作品を運んでいた社員たちがその場に立ち止まった。
「誰の絵だ?」
「ジョ・スドク画伯と言いまして……。」
「ソウル大美大の教授か?」
「知ってたんですか?」
「全然大したことないけど、なんでその絵を持ってきたんだ?」
「うーん…思ったより良かったんですよ。」
「何?」
僕の言葉にパク会長は絵の方に一歩近づいた。
おかげで社員たちは会長の目線に合わせて絵の高さを再調整した。
「ふむ。」
パク会長は気に入ると30分ずつ絵の前に立っている。
今もそうだった。
彼は後ろ手を組んだ姿勢のまま10分以上も作品に視線を固定していた。
ジョ・スドク教授。
これくらいなら…僕はやるだけのことはやりましたよね?
それは認めますか?え?
そんな風に何分かがさらに過ぎた後だった。
「おじいちゃん、寒いので中で見たらどうですか?」
「……。」
「おじいちゃん。」
「なんだ?」
「服も薄く着ているので、中で見た方がいいんじゃないかと。最近風邪が流行ってるんですよ。」
「風邪なんて。」
その時パク会長は絵から顔を離した。
そして何気なく社員たちに言った。
「その絵、私の書斎に持っていってくれ。」