13.
私はソウル大学のキャンパスをゆっくり歩いていた。
学科長が決心するには数日かかるだろう。
『急ぐことはない。』
それにしても。
『最近、ソウル大学によく来るなあ。』
キャンパスも広くて、空気もきれいだ。
ソウル大学の学生たちは勉強するのが楽しいだろうな。
せっかく生まれ変わったのだから…僕も勉強を頑張って…いや、やめておこう。
『無理だな。』
数学は得意じゃないから、うん。
私はしばらく歩いて図書館へ向かった。
ソウル大学の図書館がどんな感じか、気になったのだ。
『せっかく来たのだから。』
家にすぐ帰るのはもったいない。
そうだ、本でも読んでいこう。
私は足早に閲覧室に入った。
いつ嗅いでもいい匂いだ、本の匂い!
何を読もうか考えていたら、ふと英語の原書が思い浮かんだ。
前の人生で英語が上手な人を見て本当にうらやましかった。
特に同僚の小説家が翻訳の仕事をしているときは…ああ、それは本当にかっこよかった。
あの時は生活が忙しくて小説を書くのもやっとだったけど!
『今は時間がたっぷりあるから。』
この機会に英語を勉強してみようかな?
しかも、ちゃんとした理由もあるし。
『そうだ、デューラーの作品がアメリカにあるから。前もって勉強しておいて損はない。』
とことん、どんどん。
原書コーナーは静かだった。
英文学科の学生も結構いるはずなのに、ここは妙に人が少ない。
『僕にとっては都合がいいけど。』
僕の英語力は大学入試で止まっていた。
良くても大学入試レベルだ、あの時覚えたものもほとんど忘れているだろう。
『どれどれ。』
ヘミングウェイは簡単な言葉で小説を書いたと聞いたことがある。
『レイモンド・カーヴァーも似た感じかな。』
私は比較的簡単に書かれた小説を探してみた。
しかし、驚いたことに。
『なんだ、難しいじゃないか!』
いや…難しいのは当たり前か?
確かに大学入試の時も2等級ぎりぎりだったし。
そのレベルで原書を読むのは無理だな。
『ああ、人生の2回目なら…英語も簡単だと思ったのに。』
それでも仕方ない。
一度に満足することはできないなら、続けて読むしかない。
『読めるようになるまで頑張ろう。』
私は背もたれに寄りかかりながら、長い間本に没頭していた。
『老人と海』を半分くらい読んだ頃だった。
とことこ。
初めて原書コーナーで人の気配を感じた。
英語の波に溺れていたせいか。
私はなんとなく嬉しくて顔を上げた。
普通の身長に、ぼさぼさの髪。
古いシャツに色あせたジーンズ。
全てが普通の格好だったが、ただ一つ、赤い眼鏡だけが特別に見える青年。
『あれ、この人?』
彼もまた私をじっと見ていた。
子供が図書館で原書を読んでいるのが不思議に見えたのだろう。
しかし、彼の視線は長くは続かなかった。
男は軽い笑みで挨拶を代わりにし、すぐに本棚に目を向けた。
ほんの短い時間だけ目が合っただけだ。
それでも、私は彼が誰かを確信することができた。
『そうだ、赤い眼鏡。』
2020年代で最も注目されている映画評論家。
それは、ユ・ドンジンだった。
私は前の人生でユ・ドンジンに会ったことがあった。
ユ・ドンジンが進行する文学ポッドキャストに私を招待してくれたおかげだった。
当時、私は特に有名な作家ではなかった。
出版した本は短編小説集一冊だけ。
それも千部も売れず、出版社に迷惑をかける存在だった。
人気がない小説家。
そんな私を…ユ・ドンジンが直接招待して放送に出演させてくれた。
韓国文学界に必要な存在だと。
このような小説家を知っていて損はないとリスナーに推薦してくれた。
録音が終わった後は、別途飲み会まで開いてくれた。
彼は手垢のついた本を取り出し、一文一文噛み締めるように読んだと言って、サインを丁寧にお願いしてくれた。
そして宝物のように大事にするという言葉と共に、書類カバンに大切に本を入れている姿まで。
数年も前のことなのに。
私がその場面をまだはっきり覚えているということは……。
人生で数少ない幸せな思い出の一つだったのだろう。
その後、ユ・ドンジン評論家は特有の真面目さを武器に成功を収めた。
一方、私はなんというか。
うん。
とにかく良い思い出のおかげだろうか。
私はユ・ドンジンの旅行記から評論集まで、ほぼ全ての本を読むようになった。
そんな彼を…今回の人生で再び会うことになるとは。
『それも大学生時代のユ・ドンジンだなんて!』
私は嬉しくて彼に近づいていった。
彼は私が出て行くと思ったのか、本棚の方に寄って、できるだけ道を広く開けてくれた。
しかし、私がユ・ドンジンの近くでぼーっと立っていると。
「……?」
すぐに彼の顔に疑問の表情が浮かんだ。
「どうかしたの?」
嬉しくて無意識に近づいたけど。
前世で知り合いだったからといって、知っているふりをするのはちょっと変だ。
でも、ただ通り過ぎるのもなんか違う気がする。
それで無理に言葉を発した。
「兄さん…家庭教師しませんか?」
私とユ・ドンジンはベンチに並んで座っていた。
彼は自販機のコーヒーを、私はオレンジジュースを持っていた。
通帳の残高を考えれば…私が買うべきだったのに。
自然とユ・ドンジンが支払ってくれた。
まあ、初対面で11歳の子供が飲み物を買うのも変だよな。
「この近くに住んでるの?」
「いいえ。あの辺りのハンナムドンです。」
「でもどうして大学に来たの?」
「見学…見学に来ました。」
「そうか?」
「……。」
「英語を勉強したいんだって?」
「はい、まあ。」
「ごめんね、僕は誰かを教える力がないんだ。」
「ソウル大学生じゃないですか。私は11歳ですよ。」
ぷっ。
彼は漏れる笑いを無理に紙コップで隠そうとした。
「なぜ英語を学びたいんだい?」
「原書を読みたいからです。」
「その年で?」
35歳です。うん。
しかし、本当のことは言えないので、私は適当な答えを探した。
「翻訳されていない本がまだ多いじゃないですか。」
「だから…英語を学んで直接読もうって?」
「はい。」
「偉いね。」
ユ・ドンジンはコーヒーを一口飲んだ。
「好きな作家はいる?」
「フィッツジェラルドです。」
「グレート・ギャツビー?」
「はい。レイモンド・カーヴァーやカート・ヴォネガット、リチャード・ブローティガンも好きです。」
「ん?」
「どうしてですか?」
「リチャード・ブローティガンまで知ってるの?」
「はい、翻訳されたものは全部読みました。」
ユ・ドンジンは信じられないという顔で見てきた。
まあ、当然だろう。
11歳の子供がリチャード・ブローティガンの小説を読むのは普通ではない。
「読んだことがあるんだ?」
「はい、ただし原書で読みました。分からないところはお父さんが訳してくれて。それでお父さんが面倒がって…自分で学ぼうと思ったんです。」
「なるほど。」
幸いに疑われていないようだ。
「本当に一生懸命読んでるんだね?」
「はい、本が好きなんです。」
「なぜ本が好きなの?」
「人間は二度生きられないじゃないですか。」
私以外は。
「でも本を読むと…別の人生を生きることができるから。今日はギャツビーで、明日はコールフィールド、明後日はハックルベリー・フィンとして生きられるから好きなんです。」
「誰として生きた時が一番楽しかった?」
パク・ジフンです。
正直な答えはそうだったが。
「もちろんギャツビーですよ。」
私は今回も適当な答えを出した。
私たちはその後もいろんな話をした。
すべて文学に関することで、二人とも詰まることなくスラスラと話を続けた。
日が沈みかけてくる時間。
体が寒く感じる頃、ユ・ドンジンは半分残ったコーヒーを飲み干した。
しばらく考え込むかと思ったら。
「…うん。」
慎重に言葉を選んだ。
「時々、学校に遊びに来るのはどう?」
「え?」
「家庭教師は負担になるけど、小説の話をするのは楽しくできそうだからさ。」
「本当ですか?」
「うん。ただし君を教えるのではなく、対等な立場で、友達のように話をするという条件で。」
文学を愛する4年生の少年。
その子の心を利用してお金を稼ぎたくはないという意味だ。
『家庭教師は半分くらい言い訳だったけど……。』
いかにもユ・ドンジンらしい答えだった。
「でも、兄さん。」
「うん?」
「小説じゃなくて…映画は好きじゃないですか?」
僕の質問にユ・ドンジンは子供のように目を輝かせた。
おかげでその後も私たちはしばらく話し続けた。
家に向かう車の中。
純粋に偶然の出会いだった。
しかし、その出会いは…漠然としていた僕の心を具体化してくれた。
『デューラーの絵を売ってお金を稼いだら?その後は?』
そうだ。
目の前の200億ウォンを見逃したくなくて動いているけど。
目的を達成した後、そのお金で何をするつもりか?
多くの選択肢があるけれど、今日は非常に有力なアイデアが浮かんだ。
『出版社を作ってみたらどうだろう?』
僕が読みたい本だけがいっぱいの出版社。
そうだ、出版社を一つちゃんと作れば…一生本の心配はないだろう。
かなり現実的な気がして、考えは次々と繋がっていった。
『11歳の僕が経営することはできないし。』
できれば本好きな社長を迎えたいけれど。
誰がいいかな。
僕と同じくらい本を愛する人なら……。
まず頭に浮かんだのは当然。
『今日会ったユ・ドンジン評論家!』
そうだ、その人なら信頼できる。
収益性は知らないけど。
とりあえずいい本がたくさんある会社!
お金を稼ぐ理由が一つ増えた気がする。
『出版社を作るのに十分見積もって5億くらいかかるだろうな?』
それでもまだ195億が残る。
そのお金で何をしようか。
幸せな想像のおかげで僕はずっといい気分だった。
同じ頃。
ヒョンガンのパク・ジョンイン副会長はユウォン半導体、キム・ユウォン博士に会って買収を交渉していた。
買収金額自体はパク・ジョンインの私財で賄えるレベル。
問題はその後に投入される莫大な投資資金だった。
10年間で最低1兆ウォンは必要だ。
そして同じ期間、日本企業より3倍はお金をかけなければ意味のある結果を期待することはできない。
本社の力を借りずには絶対に不可能なレベル。
パク・ジョンインの表情が暗かったからだろうか。
キム・ユウォン博士が重々しく口を開いた。
「お、お金の額はとてつもないですね。でも…ある程度の成果を示せば…株主たちも投資を許可してくれるのではないでしょうか?」
ある程度の成果といえば、当然アメリカ企業から半導体の生産を依頼されることだろう。
しかし。
アメリカの基準に合う設備を構築するだけで最低1000億ウォンが必要だ。
いくら財閥とはいえ……。
1000億ウォンはどこの家の犬の名前でもない。
「簡単ではないでしょうか?」
キム・ユウォンは半ばあきらめたようにすぐに頭を垂れた。
それに対してパク・ジョンインの目はまだ冷静さを失っていなかった。
「どうにか方法を考えます。」
「…本当ですか?」
「ですから博士はアメリカ企業と引き続き接触してください。」
「は、はい。わかりました。」
「そしてお約束したように……。」
「……?」
「買収後もいろいろな権利を保証しますので、今のように研究に専念してください。」
「ありがとうございます!この恩は忘れません。」
ぴょんと立ち上がって腰を下げるキム・ユウォン博士とは対照的に。
『1000億ウォンか……。」
パク・ジョンインの心は少しずつ燃え尽きていくようだった。