10.
どう話を切り出そうか?
ひとりで悩んでいると。
コンコン。
背後からノックの音が聞こえた。
静かだったからだろうか。
その小さな音にもびくっとしてしまった。
「坊ちゃん、お電話です。」
電話?
急いでドアを開けた。
すると、スタッフが腰をかがめて目線を合わせて話しかけてきた。
「ソウル大学美術学科の学科長先生からです。」
学科長なら、権力に弱そうな男だ。
『あの人がなぜ?』
ただの挨拶ではないだろう。
もしかして絵に関することか。
「お電話、取り次ぎますか?」
「はい。」
返事をして、長い廊下を歩き始めた。
「ジフン君、私の声を覚えていますか?」
「はい、学科長先生。こんにちは。」
「はは、実は作品のことで電話しました。ユ・ソンホ君のことですが、数時間前に連絡がついたんです。」
「本当ですか?」
「正確に言うと、私がユ・ソンホ君の家まで行ってきました。ジフン君が待っていると言ったら、電話だけでは済ませられませんからね。」
玄康の名前が絡むと皆こうも積極的になるのか。
「ああ、自慢するわけじゃなくて、ただ事実を伝えたいだけです。ともかく留学の準備で忙しくて連絡が取れなかったそうです。でも、何度も電話したのに……。」
学科長は自慢たらたらに話し、やっと本題に入った。
「彼に絵を売る意思があるかと聞いたんです。少し悩んでいましたが、私が言いました。ロンドンの物価が高いから、いい値段で売れた方がいいと。」
ロ、ロンドン?
バンクシーの国籍もイギリスだけど……。
これでユ・ソンホとバンクシーの接点が少しはできるのか?
「値段を言ったらすぐに売ると言いました。まあ、結構強気の価格を提示しましたからね。新人にとっては大金ですから、気分が良かったのか、ドローイングは無料でくれると言っていました。」
「お疲れさまでした。」
「お疲れだなんて、ジフン君のような美術愛好家のおかげで我々は食べていけるんです。」
そのあたりで電話が終わるかと思ったが。
「10分以内に絵がご自宅に届きます。」
「え?」
「また学校に来る手間を省くために、こちらから送ったんです。業者を呼んでしっかりと梱包しましたから、無傷で受け取れますよ。」
確かに。
ピンポーン!
ちょうどインターフォンが鳴った。
「もう着いたみたいですね?」
「あら、急いで切らなければ。ジフン君、おじい様によろしくお伝えください。」
おじい様によろしくお伝えください。
この言葉を言いたくてこの男は学生の家まで出向き、契約(?)をまとめたのだろう。
ともかく。
受話器を置いて玄関まで行くのに1分かかった。
大人ならすぐに行けるだろうが……。
11歳の足取りでは仕方がない。
だからか。
俺が玄関に到着するころにはスーツを着た男たちが家の中に入ってきていた。
「どこに運べばよろしいですか?」
彼らは俺を指して質問した。
まるで俺が絵の持ち主だと知っているかのように。
「こちらへどうぞ。」
パク会長は絵を最初に見たいと言っていた。
『まだ退勤時間前だから。』
外部の人を無闇に書斎に入れるわけにはいかない。
とりあえずドアの前に置けばいいだろう。
「ここに開けてください。」
俺の言葉が終わると同時に、彼らは梱包を解き始めた。
過剰なほど丁寧な安全装置。
しばらくして。
「油絵一枚、ドローイング48枚、配達完了しました。確認しますか?」
男の言葉にすぐに首を振った。
解体の過程で何度も確認させられたからだ。
「これで失礼してよろしいですか?」
「ありがとうございます。本当にお疲れさまでした。」
俺が頭を下げると、二人の男もつられて挨拶した。
二人を玄関まで見送り、戻ってくる間に。
「……。」
時計をちらっと見た。
午後6時半。
放課後だけでもユ・ソンホの絵を買うのに夢中になっていたが。
『数時間たっただけで。』
今はデューラーの遺作に完全に心を奪われている。
仕方ない。
『この作品を手に入れたように……。』
デューラーの遺作も早く、ふむふむ!
ともかく絵も配達されたし、今日中にパク会長と話す機会があるだろう。
鉄は熱いうちに打てと。
『むしろちょうどいいな。』
パク会長の退勤までおおよそ30分。
どう話せばいいだろうか?
壁に寄りかかって静かに考えた。
パク会長は退勤後、まず食事をした。
席に着いたパク会長を中心にパク・ジョンインと송수희ソン・スヒ夫婦が向かい合って座っていた。
俺とパク・ユゴンはそれぞれ父親、母親の隣に座っていた。
食事の席はいつも通り静かだった。
パク会長が先に口を開かない限り、誰も話しかけなかった。
それだけでなく。
食事の礼儀を重んじるパク会長のおかげで。
「……。」
口をしっかり閉じて、食べ物を噛む音も聞こえないようにしていた。
だから非常に静かだった。
そうして何事もなく食事が終わるかと思ったとき。
「三男。」
パク会長の言葉にパク・ジョンインは箸を置いた。
そしてすぐに水で口をすすいだ。
「はい、お父様。」
「半導体の会社を見ていると?」
「はい。技術は持っているが資金難に悩む企業がありまして。慎重に接触してみています。」
「半導体に関心を持ったのはどれくらいか?」
「留学時代からです。」
「なぜだ?日本では半導体が大騒ぎだと言っている。」
パク・ジョンインは静かに姿勢を正した。
おそらく重要な話になると判断したのだろう。
「留学時代、私の唯一の楽しみは電子機器を扱うことでした。新製品が出ると使ってみて、分解して、再び組み立てて…それが私の日課でした。」
「……。」
「しかし、ある日から真空管の代わりにトランジスタが使われる製品が増えました。変化に鈍感なオーディオ機器でさえ変わるほどで……。」
「使ってみてどうだった?」
「すべてを手作業で作る真空管は音質の面で優れていると感じました。しかし大量生産には不向きでした。一方、トランジスタ方式はコストが安く、発熱も少ない上、どんな素子を使うかで音も大きく変わりました。」
「半導体方式は…コストが安く、大量生産が可能で、発展の可能性も無限大だと?」
「その通りです。」
パク・ジョンインは隠遁の経営者として知られていた。
政治家のように多くの人と会うのではなく、一人でこもって一つの分野を徹底的に掘り下げるタイプだった。
オーディオ事業のために市販のすべての製品を数ヶ月ずつ使ったエピソードは有名だった。
そんな息子の性格を知っているからだろうか。
박会장(パク会長)も専門的な知識についてはそれ以上尋ねなかった。
「他人が血と汗を流して作った会社を買収しようとすれば、相当な資金が必要だが、資金はどこから調達するつもりだ?」
「……。」
「なぜ答えがないのだ。まさか会社に手を出すつもりだったのか?」
ちょっと待て。
半導体事業に会社の金を使うことが何の問題か?
しばらく後におじいさんに頼る予定の俺にとって、この会話はいつも以上に敏感に響いた。
「半導体事業はいいだろう。未来があるのは誰もが知っている。しかし問題はそれが金食い虫だということだ。1、2年ではなく、10年経っても回収できないかもしれないのに、株主たちをどう説得するつもりだ?」
「……。」
「まさかこの老人を前に出して、株主に頼み込むつもりだったのか。」
「…違います。」
「10歳年上の兄たちと競い合って副会長の座を手に入れたのなら、それに見合った胆力を見せなければならないのではないか?」
「その通りです。」
「半導体を成功させる確信があるなら、自分の金でやれ。」
「……。」
「そうすればそこで出た功績は、お前が独り占めできるのだぞ?」
「……。」
「警告するが、本当に確実なものは他人と分かち合うものではない。それがたとえ父親であっても同じだ。」
「……!」
「分かったか?」
「心に刻みます。」
息が詰まるような会話が終わり、再び沈黙が訪れる間も。
『本当に確実なものは他人と分かち合うものではない。』
俺はパク会長の最後の言葉がずっと耳に残っていた。
デューラーの遺作…200億…投資金の十倍を差し上げます……。
一度はっきりとお願いしようと思っていたのに。
くそ。
こんな話を聞いた後でどうやって投資を頼むんだ!
俺の計画が早々に崩れたその時。
「ジフン、絵を買ってきたのか?」
パク会長だった。
「はい、おじいさん。」
「では、食事の後、書斎に来い。」
「…はい。」
「どれほどいいものを選んだのか、見せてくれ。」
「……。」
何の希望もない(?)独り言だ。
長い食事はそうして終わりを迎えた。
パク・ヨンハクの書斎。
パク会長は作品を非常に注意深く観察していた。
2メートルほど距離をとって全体を眺めたり。
とことこと。
鼻先まで近づいて非常に細かい部分を確認したりしていた。
国立美術館クラスのコレクションを持つ박용학(パク・ヨンハク)だ。
彼の審美眼は言うまでもなく優れたものだ。
良い作品を無数に経験してきたから一目でおおよその答えが出るだろう。
さらに大学1年生の絵だ。
それでも。
「ふむ。」
パク・ヨンハクは非常に慎重に作品を鑑賞していた。
そうして時間が流れる間、俺も考え込んだ。
食事の席での会話を考えると、パク会長の助けを得るのは難しそうだ。
だからと言って諦めるわけにはいかない。
『諦めるなんてありえない。』
方法が全くないわけではないだろう。
まずボストンに住む建築家のリストを作成し、その家に絵がある人を絞り込めば必要な人員はかなり減るだろう。
『もちろんその絞り込みの過程もすべてお金がかかるが……。』
費用を節約に節約すれば5000万ウォン以内でどうにかやり繰りできるだろうか?
俺も1000万ウォン程度はあるので…不足分を補うことができれば!
『でもそれをどこで手に入れる?』
あれこれ考えているうちに頭がいっぱいになる。
「なぜ立っているんだ。」
パク・ヨンハクが俺の方を見ながら言った。
「座っていなさい。足が痛いだろう。」
「あ、平気です。」
「退屈ではないか。」
「いいえ。おじいさんの後ろにいるのが楽しいです。」
ふふ。
彼は小さく笑いながらルーペを外した。
鑑賞が一通り終わったようだ。
「この絵を自分で選んだと?」
「はい。」
「何がそんなに気に入ったのか?」
「他の絵と…少し違って見えたんです。」
「……?」
「他の絵は一つだけうまく描こうとしているように見えました。素朴というか。でもこれは少し違いました。何でもうまくやりたいという欲望。その溢れる野心に惹かれました。」
「お前の目にはこれが成功した作品に見えるのか。」
「いいえ。欲望が溢れているだけに見えます。」
「そんな絵をなぜ持ってきたのか?」
「ああ、それは。」
「言ってみろ。」
「絵から…金の匂いがしたからです。」
「金の匂い?」
パク会長が初めて俺の話に興味を示した瞬間だった。
修正が必要でしたら、いつでもレビューをお願いします。