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Prologue

どうぞよろしくお願いします。



三十五歳。


決して若くない年齢だ。


友達は次々と安定した職に就いているこの時期に…ちくしょう、俺は高校の給食室でバイトをしている。


「はあ、はあ。」


暑いせいだろうか。


毎日登る丘が一段と急に感じられた。


仕方ない。


疲れたら休むしかない。


俺は顎にたまった汗を拭き取りながら顔を上げた。


「まだまだだな。」


とぼとぼと。


三十を超えた年でただのバイトをしていると非難する人?


「数え切れないさ。」


その中の何人かは首をかしげて尋ねる。


『いや、そこまで勉強した人がなんで給食室なの?』


『作家だって?文学賞もいくつか取ったって聞いたけど?』


『そんなことしないで、大学で教えた方がいいんじゃないの?大学院まで出たのに……。』


作家であることは間違いない。


中央日報新春文芸でデビューし、若手作家賞、トンイン文学賞、イ・ヒョソク文学賞を1年おきに受賞したから…いくつか賞をもらったのも間違いではない。


大学院もどうにか出たけど。


「それがどうした。」


小説じゃ一銭も稼げない。


文壇で文章を書いて食べている作家?


せいぜい三十人だろう。


その中に入れなかったほとんどの人は、本業を終えてようやくノートパソコンの前に座る。


俺も同じだ。


給食室……。


仕事は大変だけど、早く帰れるだけまだマシか。


「うう。」


コンクリートが放つ陽炎を突き抜けてようやく給食室にたどり着いた時だった。


ブブブ!ブブブ!


ズボンのポケットで振動する。


携帯を取り出してみると、「02」から始まる番号が表示されている。


普通は知らない番号は取らないが。


「も、もしかしたら原稿の依頼かもしれない。」


俺は一応の期待を込めて急いで通話ボタンを押した。


(こんにちは。XX病院です。)


病院?


出版社じゃなくて?


一気に興味を失い、俺は唇を尖らせた。


(数日前に血液検査を受けましたよね?)


ああ、年齢が来たからか。


国から無料検診を受けさせてもらったんだ。


胃カメラの準備で前日も大変だった。


「どうしたんですか?」


(結果が出たので、一度来院していただきたいのですが。)


「なんで血液検査で来院なんですか?肝機能の数値のことなら……。」


(違います。)


予想外にきっぱりとした答え。


(白血球の数値が非常に低いので。)


ただ「白血球」という言葉を聞いただけなのに…全身の血が凍るような感じだった。


「あ、癌…とかじゃないですよね?」


(詳しくは精密検査を受けていただく必要があります。)


慰めるような声で。


「……。」


俺は古い給食室をぼんやりと見つめていた。


タバコが吸いたい。


どうにかしてやめたのに……。


出勤前に聞いたなら、気持ちが悪くて病院に寄っていたはずだ。


でも今はもう学校まで来てしまった。


あの忌々しい丘をひたすら登ってきたのだ。


俺はないタバコを探してズボンのポケットを探った。


「たいしたことないさ。」


そう、俺はまだ三十五歳にしかなっていない。


最近は酒も飲まず…運動だと言って通勤も歩いているじゃないか。


これなら立派じゃないか?


「心配するな。」


そう思おうとしたが。


「……。」


本当に不思議だ。


電話一本で世界が変わって見えた。


普段は空っぽの運動場を見て心が安らぐのに、今日はそこが寂しい島のように見えたのだ。


人の足跡が途絶えた無人島。


焦点の合わない目で遠くを見つめていたその時だった。


「兄さん、何してるんですか?」


一緒に働く後輩だった。


今年高校を卒業して入隊前までバイトをしているという奴。


「おばさんたちが待ってますよ。早く来てください。」


「あ、うん。」


「兄さん、この前言ったこと覚えてますか。」


「……?」


「メイプルストーリー。面白いからやってみろって言ったじゃないですか。」


はっ!


「まだやってないんですか?」


「……。」


「あれだけ言ったのに、ちょっとやってみればいいのに。」


「忙しくて。」


「忙しいのはみんな言い訳です。俺だって眠い目をこすりながら狩りしてるのに……。」


ゲームってなんであんなに人を狂わせるんだろう。


癌じゃなかったら。


今度はやってみたいな。


俺は社員休憩室に入り、まず服を着替えた。


色あせたガウンにゴム製のズボン。


青い長靴まで履いた後、俺は食器を整理しに出た。


この学校には食堂がない。


給食室でご飯を作り、各クラスに配達するシステムだ。


俺の仕事はまさにその配達だった。


食器と配膳道具を1時間ほど仕分けていると。


「食事ができました!」


栄養士の声が聞こえた。


そろそろ配達を始める時間だ。


俺はカートをあちこちに引っ張りながら各クラスに給食をセッティングし始めた。


1、2年生に配達するときはまだマシだが。


とぼとぼ。


3年生の教室ぐらいになると俺もかなり疲れる。


「よっこらしょ。」


食器の束を移動するのが結構大変だったりする。


「……。」


いっぱい入ったスープの桶を持つと時々目まいがすることもある。


せめてもの救いは日陰の廊下が結構涼しいことぐらい。


そんなに忙しく走り回っているうちに。


俺は壁にもたれてようやく一息ついた。


忙しく働いているときは気づかなかったが、汗が少し引くと忘れていたことが浮かんでくる。


ちっ。


大丈夫って言われても。


俺は大丈夫だってば。


「ふうう。」


俺はぼんやりと廊下に立っていた。


トイレを言い訳に廊下に出てきて他人の給食を盗み食いする奴が時々いるので…俺は案山子役をしなければならなかった。


そうして10分ほど経ったころだった。


こっそり。


教室の後ろの扉が開き、学生が一人顔を出した。


しかし俺と目が合った奴は気まずそうに唇を鳴らした。


そして何事もなかったように。


「今日のおかずは何ですか?」


俺に話しかけてきた。


俺が答えずに首を振ると、奴は自分で確認してもいいかと聞いた。


「いいのか?」


「まったく、先生と同じだ。」


奴は諦めてトイレに向かった。


廊下の真ん中でタバコを取り出すのはおまけだった。


「この学校、本当にうまく回ってるな。」


俺は携帯を取り出して時間を確認した。


授業が終わるまでにはまだかなりかかるな。


ふうむ。


ぼんやりと答えのない健康不安に浸るぐらいなら。


「いっそ小説を書こう。」


俺はメモアプリを開いて適当な文章を書き始めた。


タタタッ。


絞り出すように。


タタッ、タタタタッ。


込めた力の割に出てくるのはごくわずかだけど。


「……。」


このまま時間を無駄にするよりマシだろう。


ようやく三文ぐらい書き進めたときだった。


「『翼』を読む番だな?」


少し開いたドアの隙間から思いがけない声が聞こえてきた。


国語の授業か。


俺は好奇心が湧いて窓越しに教室を覗き込んだ。


黒板の前にはチョークを持った女教師が立っていた。


きちんとした服装。


普通の外見。


二十代後半ぐらいだろうか。


彼女は厚い本を持ちながらイ・サンの『翼』を説明し始めた。


「ここに出てくるデパートは何だ?資本の象徴だ。デパートにはすべてがあるだろう。作家が生きた時代背景から考えると……。」


子供たちは授業が退屈なのか、本に顔をうずめていた。


教師もまた疲れた表情をしていた。


もしかしたら教師の夢を見て期待していた授業とはあまりに違う光景のためかもしれない。


「わからなければとりあえず覚えとけ。」


俺は重い心で顔を背けた。


目の前の光景から無理やり離れたかった。


「小説のことを考えよう。」


携帯を取り出したが、簡単に集中できなかった。


修学能力試験という制度に合わせて作品を説明する国語の先生。


そしてその向かい側…廊下で食事を見守る作家。


なぜ?


お前があの場にいたらもっとよくできると思うのか?


「ばかばかしい。」


お前が選んだ道だろう。


今さら何を羨ましがる?


俺が自分に言い聞かせていたその時。


ピン!


突然視界がぼやけた。


そして左右に揺れる窓。


「な、何だこれ?」


汗をかきすぎたせいか。


そんな疑問も一瞬のことだった。


ふらつきながら。


ドン!


そのまま尻餅をついてしまった。


それから三日後。


俺は血液の癌と診断された。


それも急性だった。


最善を尽くすと言った医者は、しかし人生の最後を準備しなければならないと淡々と語った。


まだ読みたい本がたくさんあるのに。


書かなければならない物語が山ほどあるのに。


「人生の最後?たかだか三十五歳で?」


くそったれ。


丸十日ぐらいは現実を否定した。


その後は仕方なく首を縦に振らなければならなかった。


誰にでも終わりはある。


俺は少し早く去るだけだ。


イ・サンが二十六歳、キム・ユジョンが二十九歳で夭折したからといって一人で大騒ぎする必要はない。


そうだ、どうせ死ぬなら。


最後の作品でも完成させていくんだ。


しかし俺のささやかな夢は結局叶わなかった。


たった四十日。


初稿も完成させることなくこの世を去ってしまったのだから。

ご鑑賞いただければ幸いです。

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