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第1章 サンタ×サンタ

 第1章  サンタ×サンタ

 


 12月23日。




 それは若い人の中では、イブイブとかいうのであろうが、

       



 彼女のいない自分にとってクリスマスなんて、どうでもいいイベントの一つだった。




 高校生にでもなれば、かわいい彼女が1人くらいいてもいいのだが、全くといってもいいほど縁なんてものはない。




 しかも、携帯の電話帳なんざ女の子は2人入っているだけだ。




 女の子の1人は俺のばあちゃんで、3ヶ月前突然シニア携帯が欲しいなんていうから、俺のうちは複雑な理由あって両親は不在だから、俺が着いていってやるしかなく3時間の格闘後、ばあちゃんはようやく携帯を手に入れた。




 そこで仕方なく、赤外線というなんともありがたい機能を使って電話番号を交換したわけだ。




 ばあちゃんは最後まで見ているだけだったのだが……。




 そしてもう1人は、口うるさい幼馴染とか言う奴だ。



                    

 名前はさくら 真央まお




 かわいらしい名前はしているが、性格は真反対で運悪く同じクラスだ。しかも家は隣り同士でこれがまた結構面倒だ。




 小さい頃から、野球好きで何度鼻にボールを当てられたことか。とにかく本当に元気な奴なのだ。




 早速、携帯のバイブが鳴るもんだから俺は慌てて携帯を開いた。予想通り真央からだっだ。

                      



 『明日暇~。翔も来るからどう?どうせあんた、彼女もいないんだから暇よね。6時までには来なさいよ!』とこちらのことは全くお構いなしに書いてあった。




 つまり、暇でも、暇じゃなくても来いということなのだろう。




 行ってやるさ……。




 しかも俺が通う花坂高校のみが、昨日から休みだ。とはいっても、宿題に手をつける元気もなく、こうして夕暮れの肌寒い路地をチャリで飛ばしているのだ。




 もっとも、ばあちゃんと2人暮らしな訳で、家から1キロ程の少しさびれたスーパーに買い物をするために向かっているのだ。




 これから待ち受けていることに全く気づかずに―。



 

 店に着くと、いつも通りおばさん連中が夫の愚痴を漏らしながら、店を出て行った。




 俺は店に入る前に、チャリキーをかけるのを忘れていたのに気づきチャリ置き場まで折り返した。




 そこで俺は人生初となる目撃をしてしまった!




 俺のチャリを盗んで店の裏に隠れるいかにも中年らしき男を見つけてしまったのだ。とにかく道を蹴った。走って店の裏に行って見ると……。

 



 驚いた、チャリを盗んだのはサンタだったのだ―。




 確かに俺のチャリは比較的きれいな方だったのかもしれないが、サンタが白い大きな袋の中にチャリごと入れているもんだから、俺は何もできずにただ唖然とその光景を見ているだけだった。




 ようやくサンタは、俺の存在に気づき急にチャリを抱えて逃げ出そうとするもんだから、慌てて捕まえた。




 「おい、お前サンタの格好なんかして、俺のチャリ盗んでんだよ。」と早口で俺が言うと、




 「それはですね。あなたの自転車が必要だったからでして、たくさんの―。」とサンタの格好をしたおっさんが言いかけたとたんに、俺は叫んでいた。




 「なんで、サンタの格好してんだよ。」




 「つまり私はサンタなのです!」




 俺はひっくり返りそうになった。それもまた、真面目な顔で言うもんだから、思わず吹いてしまった。




 おそらくよっぽどバカでない限り、こういう状況で、サンタの服を着て私がサンタです。




 なんていう奴はなかなかいないだろう。少なくとも、俺が会った中ではこういうたぐいの奴はいなかったはずだ。

                      



 真央よりもバカなのかもしれない。




 そして、サンタは続けた。




 「あなたみたいな一般人にはちょいと話が難かしすぎるかも分かりませんが、サンタが生きる世界には大きく分けて3種類のサンタが存在するのです。




 まず1種類目のサンタは、アクアマリン。2種類目はファイアーソウル。そして3種類目はレインボーサタンと呼ばれ、種族ごとに特徴があるんですよ。




 もっとも例外的に、あなたのご両親なんかもサンタに含まれたりもしますが……。




 簡単に言えばサンタの世界も食うか食われるかということなんですよ。




 私が所属するアクアマリンというのは、とにかく貧乏でしてこうやって盗まなくてはならないことも、度々あるのです―。」




 「つまり、あんたはそのアクアマリンとかいうところに所属していて、子供達にプレゼントを配るために、こうして俺のチャリを盗んだってわけですかぁ―。




 って全然意味わかんねーよ。なんで中年のくせしてサンタやってるんだ?」と俺が尋ねると、




 「サンタなんている訳ないって思っていませんか?実は私もそうでした。




 でもいて欲しいと思ったんですね。当然、サンタは親だと薄々気づいていました。




 いつだったでしょうか。




 多分小学3年生の頃だったと思います。




 友達に親がサンタだって言われたもんですから、最初は驚きましたけど、よく考えてみればサンタなんていないだろうって決め付けていたんですけど、本当にサンタは親なのか確かめたくなりまして……。




 私が小3のクリスマスの日、寝るふりをしてずっと起きていたんです。




 そして夜の3時ごろだったでしょうか、鍵が掛かっている窓から通り抜けて、サンタが現れたのですよ。




 びっくりして、息もできずに、それでも寝るふりをしていました。




 そして、サンタはプレゼントの包みをそっと枕元に置くと、急ぐようにしてまた窓を通り抜けて行ってしまったんですよ。




 私はあわてて窓を開けて見ましたがもうサンタの姿はありませんでした。



 

 そして、明かりもつけずにプレゼントの小包を開けてみると、ずっと私が欲しかった『ベイゴマ』があったんですね。




 当時貧乏な私にとって、『ベイゴマ』一つも買って貰えませんでしたから、それはそれはうれしくてしょうがなかったんですよ。




 朝になって机の上にもう1つプレゼントの包みがあるもんですから、めちゃくちゃうれしかったんですよ。




 そして学校で友達に言ってやったんです。サンタは本当にいるぞって。友達みんなからバカにされましたね。




 あの時は本当に悔しかった。だって本物のサンタを見たんですから……。




 ところがですね、翌年サンタは来なかったんです。正確に言えば、母ちゃんしか部屋に入ってこなかったんですよ。




 つまりあれですね、貧乏な家の子しかサンタは来ないんですよ。私の家も親父がそこそこ農業で食えるようになり、普通の子並みにはお小遣いも貰ってたんですよ―。」と長々と話した。




 俺はそれを聞いて、サンタがもしかするといるんじゃないかと思った。しかも、実際目の前にサンタがいるからだ。




 じゃあなんで、おっさんはサンタになれたんだろうか?




 サンタ、サンタといっているがサンタっていったい何者なんだろうか? 




 心の中で葛藤を続けていた―。




 そして思わず口にしていた。「サンタになるには、どうすればいいんだ!」




 サンタはこのときを待っていたかのような、そんな鋭い目つきをして、俺にそっと話しかけてきた―。







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