第壱話「髪長卑女」
彼岸、人ならざる者の住む世界。
此岸、人が住む世界。
二つの世界が、存在する。
2023年。
探偵さんが、此岸の者に悪さをする彼岸の者を還すため常日頃依頼を受けている。
依頼はほとんどが、妖など、彼岸の者たちの話が中心である。
設定にはこだわっているので、読んでくれると嬉しいです。
彼岸、それは、死したもの達が住む世界。
彼岸から、此岸、こちら側の世界に干渉し、悪さをしているものがいる。
そのもの達を彼岸に還す者がいる。
その者はある喫茶店にいるらしい……。
チリン。
小さいベルが鳴る。
「いらっしゃいませ」
店員の声がする。
一人の着物を羽織った男が、窓際の席で珈琲を飲んでいる。
「珈琲一杯奢るよ」
突然、上から声がした。
「座りなよ」
僕の目の前の空いてる席を指す。
声にかけてきた男は指された席に座る。
「助けて…ください」
「君、名前は?」
「晨乃創です」
「晨乃くん、ね」
閉じていた瞳を開き、赤い瞳で前に座る男を見つめる。
「?」
「ははッ、君、モテるでしょ?」
「は?いや、僕は、その逆ですよ、てか、急に、なんで」
彼から感じるのは、彼岸の者たちが好きそうなオーラ。
やっぱり、君はモテるよ。彼岸に生きる彼らに。
「いや、君はモテているはずだよ、人ではない者たちから、ね?」
「なんで…」
「あれ?そういう者たちが君に悪さしてるから、僕に依頼したんじゃないの?」
「……そうです、けど、信じてくれるんですか?」
「信じるも何も、僕は、その者達をよく知ってるからね」
「?(霊媒師ってことかな?)」
「お待たせ致しました、アイス珈琲です」
店員が珈琲を置く。
「あ、どうぞ、依頼料ってこれでいいんですよね?」
「うん、それじゃ、依頼内容詳しく聞こうか」
「現れるのは夜なんです」
「ほぉ」
「僕は彼女とか、女友達とか居ないんです」
「急に寂しい」
「なのに、お風呂場の排水溝とかに、長い髪の毛が詰まってるんです」
「だけ?」
「……っ!……最近は、朝起きた時、首に巻きついてたりするんです」
「……ほー」
髪の長い女、ね。
「ぼ、僕はどうすれば…」
「君の家に連れて行ってくれ、何かわかるかもしれない」
「は、はい」
晨乃くんが住んでいるマンションに着いた。
彼の部屋は、444。
死の数字だな〜。
「……」
ガチャッ。
扉が開き、
「どうぞ」
そう言われ入る。
感じる。視線。
この視線が、嫉妬心、だというものはすぐに理解できた。
「全く、君、女っ気ないって思ってたけど、違うよね?」
「え?じ、事実ですよ」
「……過去、女の子を助けたことは?」
「……い、1度だけ」
「聞かせて」
目の前にいる彼は、何か言葉が詰まるのか、黙ってしまった。
数分たち、彼は思い口を開いた。
「僕が、学校に行く途中で起きたことです」
『痛い、痛いよぉ』
『女の子の声?』
『痛い、痛いよぉ、うぅ』
声の元は、公園の方から聞こえた。
『君、大丈夫?』
『髪が、引っかかって、痛いのぉ』
少女の髪の毛がフェンスに引っかかってしまったらしい。
『待ってて、今、解いてあげるから』
『……うん』
「僕は、彼女の髪をフェンスから解放しました」
「その女の子とは、どうなった?」
「どうって……挨拶の後に、別れましたよ」
「…一方的な片想いか……」
「片思い?どういうことですか」
「…君が、過去に助けた少女は、人ではない」
「……え?」
「彼女の名は髪長卑女」
そう、名前を呼んだ瞬間……僕に影が降った。
「……ッ!……あ、の、うし…………ろ」
晨乃くんの顔が真っ青になっていた。
「……やぁ、初めまして、髪長卑女さん」
振り向いた先には、部屋の一角を髪の毛で埋めつくしている女の姿があった。
〔が……え''…………〕
「…………」
バタッ。
大きい音が聞こえた。
振り向くと、晨乃くんが倒れていた。
「…あーらら、倒れちゃった」
晨乃くんの元に駆け寄った。
「来い、狐紅」
そう呼んだ瞬間、赤い炎が僕の周りに出現した。
ブワッ。
炎の中から、1匹の耳や尻尾の毛先が赤い狐が現れた。
「お呼びですか、主様」
「この子を守れ」
狐紅に晨乃くんを任せた。
「承知!」
〔ざ……わ''…る''な''〕
彼女から髪の毛が伸びてきた。
ヒュンッ!!
バッ!!
「主様!」
晨乃くん目掛けて伸びた髪の毛を自分の手に巻かせた。
〔づ……え'だ…そご……どげぇぇ!!!!〕
手に巻きついた髪の毛に力が入り、体が浮く。
「主様!!」
ヒュンッ!!
「お」
遠くに投げ飛ばされた。
「孤白」
背中がぶつかる前に名を呼ぶ。
周りに白い炎が出現し、炎の中から白い狐が現れた。
「無事か、主殿」
「ああ、ありがとう」
〔お''まえ…どげぇ、!!〕
狐紅に向かって髪の毛を飛ばす。
狐紅にあたる瞬間、
「''動くな''」
そう言うと、髪長卑女の動きが止まる。
〔ぐ……ゔゔ……ぎ、ざ、まっ……なにじだ…〕
「俺の言葉には、妖力が含まれる、お前程度の妖を止めることなんざ、簡単なんだよ」
雰囲気の変わった男。
「改めてご挨拶しよう、髪長卑女」
バサッ!
扇を広げ赤い瞳を髪長卑女に向ける。
「俺の名は白鬼夜晃、今からお前が行く彼岸の王の名だ、覚えておくといい」
〔ひ…が………王…?!〕
「''己の行いを改め、彼岸に還れ''」
床に手を付き、髪長卑女にむけ妖力を放つ。
髪長卑女のすぐ下に、陣が現れた。
「彼の者のを彼岸に送り給え 強制送還」
髪長卑女の足元にある陣が赤く光り、引きずり込まれて行く。
『伝えたかった、ずっと』
「!」
吸い込まれる髪長卑女から声がした。
『あの時、私を助けてくれて、ありがとう』
本来の姿であろう彼女が現れ、晨乃くんの元に行く。
『どうしても気づいて欲しくて、怖い思いさせてごめんなさい、もう、大丈夫だよ』
少女は晨乃くんの頬に触れ………消えた。
「……ん」
彼女が還された後に、目を覚ました晨乃くん。
「…起きたかい?」
「…あの、彼女は…」
「居るべき場所に還したよ」
「そう、ですか、」
「なにか聞こえた?」
「…ありがとう、そう聞こえました」
ちゃんと聞こえたようでよかった。
「あの、彼女、最後どんなでした?」
「……笑っていたよ」
「…そうですか、良かったです」
やっぱり、この子はモテる。
彼から感じるオーラが一番の理由だろうが、他にも、彼の性格だろう。
彼は、彼岸の者に対して、優しすぎる。
「……」
彼を暫く見つめた。
「な、なんですか?」
視線に気づいた彼が、ビクついてこちらを見る。
「君は、今までの依頼者の中で最も彼岸の者に好かれやすいタイプだ、僕も君に惹かれてる……ってことで君、僕の助手として、僕の仕事を手伝え」
「…え、断ったら…」
「悪いけど、同じ人から依頼受ける気は無いから、君が次なにかに襲われても助けないよ」
「……(お、鬼だこの人)」
「どうする?」
「や、やります、やらせてください!」
「そうだ、僕の名前知らないよね、僕の名前は白鬼夜晃、
よろしく晨乃くん」
彼岸の者に好かれやすい晨乃と彼岸の王夜晃の二人が日々起こる怪奇現象の謎を解いていく。
チリン。
「いらっしゃいま……!お客様店内は走らないでください!」
店員の声を無視して、僕の元に走ってきた一人の女。
「助けてください!!!」
息を荒くしながら、行ってきた。
「……お代は珈琲で」
新たな謎が2人に訪れようとしていた。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
少しでも、面白い、という方が居てくれたら嬉しいです。