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生存率1%の異世界で無双するクイズ王  作者: ろくろドクロ
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Q0.最強のクイズ王


 20XX年、世間は新しいクイズ王の誕生に沸いていた。


奪取(ゲット)!!」


 会場に彼の快哉が響き渡り、ややあって「ピンポン」という正解音。


「……20XX年のQuiz-1グランプリ、優勝者は!

 高田選手に決まりました!」


 司会者の発言が続くと

 新しいクイズ王、高田 新(たかだ あらた)は万雷の拍手で迎えられた。

 

 百戦百勝。

 誰よりも早くボタンを押し、押せば確実に正答する。

 そんな姿から、一部では彼は「クイズマシーン」と称されていた。


 ただ実際には、かなり負けず嫌いな面も持つ。

 

(勝ったっ! やっと勝てた……っ!)

 

 小学生の時に「クイズ王」という称号に憧れてから、はや10年以上。

 それから全てを費やして知識や技術を詰め込んできたものの

 全世代が参加できる Quiz-1グランプリの壁は高く

 諦めかけたことも何度もあった。

 

 それでも次こそは、と励んできた努力が、今日ついに結実した。

 

「では、新クイズ王の高田選手にインタビューしてみましょう!」

 

 気がつくと、高田の近くに司会者が来ていた。

 

「高田選手、優勝おめでとうございます!

 今日は序盤から他の選手を突き放して、圧倒的でしたね!

 ご本人としては、いかがでしたか?」

 

(正直に言えば、圧倒したという感覚はないけどな…)


 競技クイズは誰がボタンを早く押すか、というコンマ1秒の判断が勝敗を分ける戦い。

 楽な戦いであったはずもないが、それは周囲もわかっているだろう。

 なら、ここは少しでも盛り上げにいくことにした。


「……まあ、余裕でしたね。負ける気はしませんでした」

 

 強気なコメントに会場からはざわめきも生まれるが、大会での活躍もあってか

 概ね好意的に取られているようだ。


 インタビューは続く。

 

「そうですか!

 高田選手は子供の頃からクイズ王になるのが夢だったとのことですが

 夢を叶えてのお気持ちはいかがでしょう?」

「ようやく達成できた、という気持ちですね。

 でも、取れなかった問題もあるので、そこは少し悔しいです」

 

 正直な気持ちを吐露すると、司会者は少し微笑んだ気がした。

 

「まだ上を目指されているということですね。

 次の目標などはあるのでしょうか?」

「次の目標……?」


 思わず、オウム返しのように言葉を発する。


「はい、以前に優勝された方だと、――さんはクイズ作家になり、今回も運営側として参加していますし

 ――さんは謎解きゲームを作られているそうです。

 ――さんは……」

 

 様々な大物の名前が出てくるが、高田にはピンと来ない。


「次のことは、まだ考えられないですね」

 なにしろ、この大会のことだけを、十数年ずっと考えてきたのだ。


「そうですか、わかりました。

 では観客の皆様、新しいクイズ王、高田選手に、もう一度盛大な拍手を!!」

 そして、会場に響く大きな拍手とともに、高田は会場を去った。


 そして、かつてない栄光に包まれたその日――

 彼は表舞台から姿を消すこととなる。

 

****

 

「……くそーっ!

 まさか10tの大型トラックに轢かれるとは……」


 何も見えない暗闇の中、ぼやくクイズ王。

 帰り道。いつも行く歩道橋に立ち寄ったのが、運のつきだった。

 

 歩道橋の柵によりかかり、エゴサーチをしようとスマホを取り出したところ

 柵が老朽化していたのか、気づけば体は落下し、目の前に大型トラックが迫っていた。


「運も悪かったな。

 ちょうど車が来てなきゃ、助かったかも」


 10m以下の落下なら、打ち所が悪くなければ

 助かる可能性は高いらしい。


「それにしても…」

 

 周囲を見回そうと、首を回す。

 

「ここは一体なんだ?」

 

 何も見えないが、地面はあるようだ。

 硬い地面に座り込んでいるような感触がある。

 

「もしかして……トラック?

 あれのせいか……?」

 

 独りごちていると、暗がりから「ほう」と高い声が聞こえた。

 

「随分と冷静なやつだね」

 

 声とともに、薄っすらと明かりが生まれ

 ぼんやりと来訪者の姿が見えた。

 一見すると、魔女のようにも見える、妖しい女性だ。

 

「不思議そうな顔だね」

 

 くっくっ、と小さく笑う。

 

「あんたは……」

「誰だと思う?」

 

 疑問形で聞かれた瞬間、高田の頭はフル回転した。

 

「はいっ!」

 

 挙手して大声を上げると、女性は気圧されたように後ずさる。


「これは異世界転生! そしてあんたは、女神だ!」


「……」

「正解だろ?」

 

「別に、クイズのつもりはなかったんだけどね……まあ、いいか」


 女神、もとい目前の女性は呆れたように笑った。


「最近は私達の存在を知っている人間も増えたからね。

 驚かれるとは思ってないよ。

 あんたの言う通り、ここは転生先を知らせる場所だ」

 

「やっぱり!奪取(ゲット)!」

 

「騒がしいね……」

 

 ため息を一つ。


「あんたはトラックに轢かれて死んで、ここに来た。

 生前の行いに応じて、転生先が決まる仕組みになっている……

 んだけど、最近、ちょっと問題があってね」

 

 女神は深刻そうに話す。


「ある世界に行った人々が、ほとんど数日で命を落としてしまってね。

 必要な魂が足りなくなっているんだ。

 今までに300人が行って、まだ生きているのは、たったの3人」

「百分の一か……」

「そう、生存率1%」

 

 苦笑するように女神は言う。


「まあ、確かに自然は険しいし、人も優しいとは言えないし。

 平和に暮らしてきた人間にとっては、いささか厳しい場所かもしれないけどね。

 ただ、それにしたって、簡単な二択を間違えるやつが多くてね」

「二択?」

「……そう。

 たとえば、どう考えても強そうなモンスターを見て、無謀に突っ込んでいくやつとか。

 危険だとわかっているのに、野次馬根性で様子を見に行くやつとか。

 まあ、そういう奴らは、根こそぎ死んでるね」

「死……」

 

 思わず繰り返してしまったのは、馴染みの薄い言葉だったからだ。


「そうか、そりゃまあ、死ぬだろうな」

「わかってくれるかい?

 当たり前のことなんだが、最近は物分かりが悪い連中が増えてね。

 自分をヒーローだとか、物語の主人公だとか、信じている奴が多いんだ」

「……」

 

 それは少し刺さる言葉だったのか、苦い顔をする高田。

 

「……まあ、つまりは、簡単な問題のはずなのに、答えを間違えて死ぬ奴が多いってことだな。

 それなら、俺の得意分野かもしれない。

 俺は、クイズ王だからな!」

「……クイズ王??」

 

 しばらく呆気に取られた表情をした後、女神は大笑した。

 

「へえ、クイズ王か!

 あたしが生きてた頃には、そんな言葉は聞かなかったね!

 今はそんな職業があるのかい?」

「職業というか……まあ、称号かな。

 クイズが得意な人を指す言葉、というか……自分で言うのは少し照れるが」

「いやいや、いいじゃないか! どんどん名乗ったらいい!

 もっとも、王様なんて言ったら、異世界では皆ひっくり返るかもしれないけどね」

 

 くっくっく、と女神は笑う。

 

「まあ、あんたがクイズ王ってやつなら、良かったよ。

 安心してこの世界に送れるってもんだ」

「おう、選択肢がある問題は得意だからな!

 俺がその、生存率ってやつを上げてやるよ」

「そいつぁ楽しみだね。

 じゃあ、期待してるよ」

 

 そう言うと、女神はパチンと指を鳴らした。

 

 その音に誘われるように、クイズ王、高田の意識は

 闇の中に薄れていくのだった。



 つづく

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