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第10話 素直な気持ちで

ミルティア  侯爵令嬢 黒髪に赤い瞳


エアル(エリアス) 宮廷魔道士


 カーラ   公爵令嬢 銀髪に翠の瞳

 レフ    転生者 琥珀狐 カーラの相棒(前世ではbarの店長)

 ヘルン   王女 金に近い茶色の髪 碧眼


 ロナルド  カーラの兄


 ジャスミン 町の料理店の店主

 ケイト   転移者 ジャスミンの店の店員(レフの元同僚)

「こんにちは」


 彼女からの指定の場所は、初めて会った湖畔だった。

 今日は、エリアスとしてだけれど。


 彼女は広げた敷き布に座って、待っていた。

 エリアスが声をかけると、ミルティアは怒ったような拗ねたような表情で、口を尖らせた。


「手伝うって、言ったのに」


 たしかに、あの日、伝達魔法の付与を手伝うと言った。襲撃の後、ほったらかしにしてしまっていたが。


「ごめんなさい。ちゃんと、やります。今日、とりあえずできるところまではやって。残りは持ち帰ってーー」


 仕上げます、と言おうとしたのだけれど、ミルティアの視線を受けて言葉を飲み込む。


 ぽんぽんと、自分の膝を叩くミルティア。


「どうぞ」


「はい?」


「膝枕。報酬の先払いよ。もう逃さないから。しっかり働いてもらうわよ」


 エリアスはめまいを覚えて額をおさえた。

 何を言ってるんだ、この(うつく)し可愛い生き物は。

 もう少し警戒心をもってくれ。

 いくら俺の事を犬扱いしていても。


「意地悪をいわないでください。そもそも仕事が終わったから戻っただけで、逃げたわけではーー」


「ほら。私の気がかわったらどうするの」


 二度目のぽんぽん。

 逆らえるわけがない。


「……失礼、します」


 本当に犬だったら、今ごろ尻尾が大変なことになっているだろう。

 遠慮がちにゆっくりと、ミルティアのひざに頭をのせる。


(どうしたら良いんだ、ここから)


 迂闊な発言は身を滅ぼすと後世に伝えようと、エリアスーーエアルは思った。


「……やっぱり、似ているわ」


「犬、ですか?」


「2年前、ここで木から落ちてきた少年かな。あ、あと、私を助けてくれて、勝手にキスして逃げたのも」


「ーー! えっと、それは」


「時々、街で会うこともあったわね。お店ではいつもカウンターに座ってた」


(気づいて……いたのか)


 気配を消していたつもりだったのに。


 いつから待たせていたのだろうか。ミルティアのすっかり冷えきった指先が、エアルの左耳をそっと撫でる。


 ビクッ。


 反射的に起こそうとした体を、押し留められる。


「だめ。じっとしてて」


 ミルティアには魔法は使えないはずなのに、その言葉には抗えない。


 魔道具のピアスは、ミルティアの手によって簡単に外されてしまった。


「ヘルン様から聞いてはいたのだけど、すごいわねぇ」


(いつだってトラブルメイカーはあの人だ……!)


 部下の恋路を見守る気持ちが半分、残りは面白半分だろう。

 感謝しなさいよと、高らかに笑う声が聞こえた気がした。


 ふわふわとした金色がかった栗毛を、ミルティアが遠慮がちに撫でているのがわかる。


 いつか正体を告白するつもりでいたけれど、まさかこんな状況になるなんて。


 いつまでも、寝転がってはいられない。


 話くらいは、きちんとしよう。


 エアルは正座で座り直して、ミルティアの目を見て言う。


「逃げて、ごめんなさい」


「それ、癖なの? 謝らなくて、良いの。言ったでしょう? ()()、待つのは苦手なのよ」


 だから、自らやってきたのだ。そう、ミルティアは言う。


「あれ、そういう意味ですかぁ……」


「ちゃんとお顔を見るのは初めてね。お互いに素直になって、一からやり直しましょうよ」


 これは夢だろうか。信じられなくて、言葉が出てこない。

 そんな事、ミルティアはお構いなしのようだけれど。


「初めまして。私、あなたに興味があるみたい。あなたの事を教えてくれる?」


「無理です」


(だめだ)


 やっぱり素の自分じゃミルティアの顔が見れなくて、天を仰いで倒れ込んでしまった。

 顔を手のひらで覆ったまま、言葉を捻り出す。


「ーーそんな事したら、俺は、完全に勘違いしてしまいます。気持ちが止められなくなります」


「勘違いじゃないし、止めなくて良いわ」


(え? それは、どういう)


「そうそう! 絵本、第一弾ができたの。見てくれる?」


「あ、はい」


 座り直して受け取った絵本には、子供向けの挿絵が追加されていた。


 色とりどりの花。

 可愛らしい女の子。


 絵を描いたのは絶対にミルティアではないなと、エアルは思いながらページをめくる。


 ーーあ。


「ここ、あの、ラストの絵が……えっと、テイストが違うっていうか、前衛的っていうか」


 女の子なのかゴブリンなのかわからない生物は、絶対にミルティアの絵だと断言できた。


 ミルティアは咳払いをして、説明する。


「これは、見本だから。ここはね、白紙で出そうと思うの。読んでくれた人が好きなラストにしてもらえるように。これは、私だけのラストよ」


 頑張って読み解いてみる。

 おそらく、たぶん、少女がゴーレムに花束を渡そうとしている、ように、見えなくもなかった。


「あなたなら、どんなラストにする?」


「俺はーー」


 どうするだろう。

 今の自分なら。

 どうしたら。


 そうだ。


 エアルの手のひらで、しゅるしゅると形作られるものがある。

 小さな少女と、倍くらいの大きさの、無骨なゴーレム。

 ゴーレムはひざまずいて、少女のさしだす花束を受け取った。


 きっと、これが自分の本心なのだ。


 ミルティアの手をひいて、立ち上がらせる。


「ミルティア・ファレノプシス」


 エアルはその手を取ったまま、ひざまずいた。


「いちばんそばで、その笑顔を見たいです。死ぬまでずっと」


 今言わずに、一生後悔するのは嫌だと思った。


「その権利を、僕にください」


「はい。差し上げますわ」


 ミルティアがしゃがんで、エアルに目線をあわせる。

 微笑む顔が、エアルを覗き込む。


「ふふ、照れた顔が可愛いわよ」


「それは、貴女もです」


 可愛いと言われるのも、もう嫌いじゃなくなった。

 

 手を伸ばしたら、届くところに彼女がいる。


 エアルは、ミルティアの首に腕を回して、そっと優しく引き寄せた。






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