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第1話 その気持ちをくれたのは君で

ミルティア  侯爵令嬢 黒髪に赤い瞳

 エアル   ??


 カーラ   公爵令嬢 銀髪に翠の瞳

 レフ    転生者 琥珀狐 カーラの相棒(前世ではbarの店長)

 ヘルン   王女 金に近い茶色の髪 碧眼


 ロナルド  カーラの兄


 ジャスミン 町の料理店の店主

 ケイト   転移者 ジャスミンの店の店員(レフの元同僚)



※『推しを見守る子狐生活』続編(番外編)となります。

 エアルは、逃げていた。


 女の子は、苦手だ。


 可愛いから、好きだから、ファンだから。

 と言えば、何をしても良いと思っている。


 可愛いから、追いかける。


 可愛いから、触ってくる。


 好きだから、待ち伏せする。


 そして、強い態度で拒否すると、怒れる友人を従えて、被害者ぶって泣く。


 どうして、自分の思いが受け入れられて当然だと思えるのか。


 エアルには永遠の謎だった。


 可愛いなんて、もう言われたくないのに。

  



 黄色い声が、近づいてくる。


「ねぇ、エアル様はどこに行ったの?」


「おかしいなぁ、こっちに来たと思ったのに」


 手紙も、告白もいらない。


 いらないと言ったら泣かれるし、まるで悪者だ。


 じゃあ、好意の押し付けは善なのだろうかと問いたくなる。


 可愛いと言われるだけあって、エアルは体が小さい。


 身軽さを利用して、木の上に登って隠れた。


 同級生の友人たちのなかでも、飛び抜けて小さい。


 女の子よりも小さかったりするのだから、嫌になる。


 父や歳の離れた兄たちは高身長だから、これから伸びる希望は多いにあるけれど。


(いま、小さいのが嫌なんだよ)


 とはいえ、こういう場面では、便利な事には違いない。


 木の上に隠れたから、今日はもう見つからないだろう。


 諦めてくれるまで、暇を潰そう。


 無事まいたら、学院に戻ろう。


 太い幹にまたがって、あたりを見回す。


 パシャン


 湖に、水が跳ねたのが見えた。


 ちょうど水面に朝の太陽の光が反射して、眩しい。


 よく見えないけれど、魚でもいるのだろうか。


 正体を見極めようと、目をすがめた。



「ーーーー〜〜〜〜!!!」



 びっくりして、木から落ちそうになる。


 どうしよう、どうしたら。


 魚ではなかった。


 女性だった。


 腰までの黒髪は水に濡れて光っている。


 赤い目が、印象的な美女だった。


(なんで? こんな朝から、こんなところで泳いでいるの?!)


 王都から近い森だけれど、あまり一般人は来ない場所だ。


 エアルは近くの学院に通っているので、よくサボりにきていた。

 それでも今までは、彼女に会ったことは無かった。


 美しすぎて人間なのか疑いたくなったけれど、岸に上がって、身にまとった白いワンピースの裾を絞っているので、神や精霊の類では無さそうだった。


 エアルは女性に免疫がない。


 母親のふとももだって、物心ついてから見た記憶はない。


 ふともも……いや、みちゃだめだ!


 彼女はこちらに気づいていない。

 覗き見なんて失礼なこと、しちゃいけない。

 必死で目を瞑って、顔を手で覆った。


 見ていません。見ていませんよ……。


「ねぇ、こっちで音がしたよぉ」


 まずい! 


 自分のせいで、彼女に迷惑をかけてしまう。

 焦って身動きをしたせいだろうか。


 赤い目と、目があった。



 あ、終わった……。



 何かがガラガラと崩れ落ちる音が聞こえた気がした。

 大袈裟だけれど、本当にそんな気持ちだった。


 しかし彼女は、悲鳴をあげるでもなく、怒るでもなく。


 声のする方とエアルを交互に見て、しばらく考えたあと、白い人差し指を唇にあてた。



 しー……。



 そして、にっこりと笑った。


 その時すでに、エアルは恋に落ちていたのだと思う。


 見ちゃいけないという気持ちも忘れて、もう彼女から目が離せなくなっていた。


 彼女はまた湖にもどり、一度だけ、わざと大きい音をたてた。

 綺麗なフォームで、スイスイと泳ぐ。


 少女たちの声と足音が近づいてくる。


 少女たちから湖の水面が見える絶妙のタイミングで、彼女は岸辺に立ち、濡れた姿のまま声をかけた。


「何か、御用かしら?」


 濡れた髪をかきあげる仕草も、赤い目の輝きの強さも、自分の魅力という武器の全てを知っている人間の演出は、ミーハーな年若い少女たちにとっては目の毒が過ぎた。


「い、いいえ! すみません、人を探していて、音がしたもので……! 大変美しいものを見せてもらい、じゃなくって、失礼いたしましたぁ!」


 叫びながら去っていく。


 もう戻ってはこないなと安心し、エアルは木の上から飛び降りた。


「ありがとうございます。あ、あの、何か、羽織っていただいても……」


 目のやり場に困る。

 このままでは、まともに話もできない。


「ああ、大丈夫ですよ、下着もちゃんとつけていますし」


 そういう問題ではない。


 ノースリーブからのびる白い腕も、濡れて張り付いたワンピースも、その裾からのびる長い足も、すべてが眩しいのです。

 目を見て話したいのに、このままじゃ顔も見れないのです。


 そんな事を言ったら変態認定されてしまいそうなので、自分のローブを渡すのが精一杯だった。


「これ、使ってください……」


「あら、ありがとう。やっぱりさっきのお嬢さん方は、あなたを探していたのね。人気者は大変ですね。でもーー」


 にっこりと微笑んで、彼女は言った。

 その言葉が、エアルの人生を変えることになる。


「あれくらいはあしらえないと、将来あなたに大切な人ができた時に、守れないわよ」


 頭の奥がぼーっとした。


 呪文のように、彼女の声が頭の中に刻まれた。


 もし魔女がいるとしたら、こんな感じなのだろうか。

 こんな魔女だったら、魂まで捧げてしまう。


 馬の蹄の音が近づいてきた。

 彼女は音の方をむいて、エアルのローブを羽織りながら言った。


「あ、従者が戻ってきたみたい」


「じ、じゃあ、僕はこれでーー」


 見つかる前にこの場を去ろう。

 慌てて、エアルは踵を返した。


「あ、このローブ」


「差し上げますぅ!」


 もう、行かせてくれ。


 これ以上、ここにとどまっていてはいけない。

 心臓に負荷がかかりすぎる。


「ふふ、ありがとう。優しいのね。いただくわ」


 彼女の笑った顔が見たくて、エアルは一度だけ振り返った。


 彼女の頬が、形の良い耳朶が、うっすら赤く染まっていた。


 彼女の秘密を、覗き見てしまった気になって、泉のほとりからこちらの姿が見えなくなる場所まで、一気に走った。


 木の影に座って一休みするが、動悸がおさまらない。


 もう少し休んでから、学院に戻ろう。


 こんな赤い顔で戻ったら、また、からかわれてしまう。

『推しを見守る子狐生活』番外編となります!


どうぞ、よろしくお願いいたします!

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