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僕の彼氏と私の彼女  作者: 響城藍
第二話「僕を支えてくれる存在」
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【三章】いつの間にか変わっていた景色

 結局、決勝戦は負けてしまったのだけれども、準優勝でも良い結果が残せた。一時期はエースが不調でどうなる事やらとチームメイト達は心配していたが、大会前に不調は戻り、寧ろ絶好調になった理由はチームメイトは知らない。

 夏休みが明け、いつもの様に三人で昼食を摂っている日常も変わらない。だけど楓は不思議に思っていた。


「なんかさ……」

「ん?」

「どうしたの?」

「いや、距離おかしくないか?」


 気のせいではないだろうか?なんて顔で楓を見つめる二人の肩は触れあっていて、弁当のおかずを交換し合ったりしていて、一体夏休みに何が起きたんだと楓はジト目で二人を見続ける。


「え? 付き合ってる?」

「え!?」

「……いや」

「おかしくないか!? あたしがおかしいのか!? あ?」


 こんなにも距離が近くて付き合っていない方が可笑しいのに、何故か二人は照れながら否定している。楓は目が可笑しくなったのかもしれないと、目を擦っても光景は変わらない。


「あたしいない方がよくない?」

「それはだめ……!」

「うん、それは困る……」

「……明日から食堂行くわ」

 

 どういう事か解らないが、どうやら夏休みで二人の仲が進展したのは理解した。泣き付かれる様にして三人でのランチタイムを継続するように頼まれて、楓は盛大に溜息を吐いた。


(これで付き合ってないって言うのはな……)


 どう見ても二人の間には愛の印(ハートマーク)が浮かんでるのだが、二人には見えていない。恋は盲目とは言うが二人の恋仲に挟まないで欲しいと楓は切実に願った。楓は恋のキューピットではないと心の中で断固否定しながら、昼食が終わるまで二人が放つ愛の印(ハートマーク)を眺めていた。



 *



 夏休みが終わってから凛はバイトの無い日には教室か体育館にいる様になった。バイトの無い日はいつも直帰する事が多かったが、それは少しでも一緒に居たいという気持ちが芽生えたから。それに凛も勉強を頑張りたいと思える様になったから。だから教室で三田が来るのを待つ間に勉強する様になった。


「ううー、ここはどの公式を使うんだっけ……?」

「ああ、そこはね、」


 いつの間に三田は目の前の席に座って居たのだろうと思う位に集中していたらしい。ノートに公式を書いて三田は解説してくれる。流石だという位に説明が分かりやすい。


「あ! できた!」

「うん正解。良く出来ました」


 嬉しそうに微笑む凛に三田は照れ臭そうに笑った。三田が来て問題も解けたので、帰る為に机に広げた勉強道具を鞄に仕舞う。


「待ってくれるのは嬉しいんだけど、凛の負担になってはない?」

「え…………」


 鞄にノートを仕舞う凛に三田は質問したのだが、何故か凛は顔が真っ赤だ。何か変な事を言っただろうかと不安になる三田。それでも凛は顔を赤くして三田を見続ける。


「あ、葵と……一緒にいたい、から……」

「え…………」


 凛のその言葉に三田葵は自分の失言を理解した。心の中で呼んでいた名前で呼んでしまっていた事に。葵も顔を真っ赤にして凛を見つめた。


「ごめん、完全に無意識だった……」

「う、ううん……ビックリしただけだよ」


 耐えられなくなり、二人は視線を外した。鼓動の音が聞こえてしまうのではないかという位にお互いにドキドキとした鼓動を抑えようと必死だ。


「まだ残ってんのかー? そろそろ鍵閉めるぞ」


 葵の部活が終わる時間と最終下校時刻は同じ位だ。だから着替え終わったらすぐに帰っていたのだが、凛があまりにも真剣に勉強しているものだから少し眺めていたら見回りに来た教師に怒られてしまった。二人の心臓は破裂してしまっただろう。

 冷静を装い校門から出てバス停へ歩いて行く。相変わらず葵は凛を家の前まで送っていて今日もそのつもりだ。夜になるとバスの本数は減るので、バス停で待っている間に会話をしようとした。だがしかし動揺のあまりにお互いに何を話せばいいのか分からなくなってしまっていた。沈黙が続いている間にバスは来る。バスに乗り十数分。凛の家まで歩いて行って、いつもの様に玄関前で凛は葵に向き合う。


「おやすみなさい」

「おやすみ」


 手を振って凛は家に入って行く。筈なのだがまだ手を振り続けていた。


「凛?」

「……葵が帰るまで手を振ってたい」

「……本当に凛ってずるいよね」


 凛の助けになりたいと思う葵と同じ様に、凛も葵の助けになりたいのだ。送ってくれるのは嬉しいがそれでも凛は葵の事が心配。歩いて帰れる距離である事は知っているけれど、葵だって夜道に気を付けて欲しいと凛は思っている。まさか帰る後姿を見られる立場になるとは葵は思ってもいなかった。


「また明日」

「うん。また明日!」


 葵は手を振った後凛に背を向けて帰路へ着く。その姿が見えなくなるまで凛は手を振り続けていた。暗い道でも葵に不安は無かった。気を付けて帰っているつもりではあるし、これからは凛が傍にいる。葵は自分を支えてくれる大切な存在が出来た事が嬉しくて、家に着いてもずっとご機嫌だった。


 

(三話へ続く)

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