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僕の彼氏と私の彼女  作者: 響城藍
第十二話「夢は永遠に」
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【一章】お手をどうぞお姫様

 日曜の夢の国は朝早いというのに大勢の人々で賑わっていた。園内に入り凛は葵の手を引っ張って燥いでいる。その後姿を眺める杏の横でキョロキョロと落ち着きのない陽斗が視界に映り、杏は不思議そうに視線を向けた。


「あんまり来た事ないんでしょ?」

「そりゃあ……まあ」

「でもきっと楽しいと思う」


 少しだけ素直に笑った杏に陽斗は見惚れる。素直な杏は可愛いからもっと素直になって欲しい。その為には自分も素直になる必要がある。そう思って陽斗は視線を合わせて笑ってみる。


「杏ちゃんもいるし、絶対楽しいだろ?」

「……そうねっ」


 ふいっと顔を背けられてしまい、そんな姿さえ可愛いと思う。妹たちのように手を繋げたら良いのだけど、そんな勇気は陽斗にはまだない。

 その後姿を微笑ましく見守る安里と海斗は何度か二人きりでデートに来たことがあり、付き合い始めたばかりの頃を連想させた。あの頃はまだ海斗は手を引っ張れなかったな、なんて懐かしい記憶が蘇って来る。思い出に浸っていると安里が手を差し出しながら微笑んでいた。その手を握り海斗は半歩前を歩き出した。

 入場までの時間に行きたいアトラクションに目星をつけていたので、混雑するものを優先に順番に回って行こうと大体の順序は決まっていた。だけどふと凛の目にとまったアトラクションの前で立ち止まると、葵はそのアトラクションを見て凛らしいなと微笑んだ。


「時間は沢山あるから、いってらっしゃいお姫様」

「あ……、葵は乗らないの?」

「僕は見てたいなって……駄目?」

「……ううん! いってくるね!」


 立ち止まっていた凛の元へ追いついた杏は凛に手を引かれてアトラクションへ向かって行った。海斗はその後ろをエスコートしながら安里を連れて行き、三人で並ぶのを確認すると三田兄妹は視線を合わせて意気投合していた。アトラクションはメリーゴーランドで、北川家がそれぞれの馬に乗ると三田兄妹はそれぞれのベストな位置へ移動してスマホを構えていた。

 アトラクション開始のアナウンスが終わると、馬はゆっくりと動き出す。だんだんと早くなっていき風が三人の髪と服を揺らす。凛はミニスカートなので葵は少し心配そうにだけれども嬉しそうに凛を見守っていた。杏は短パンなのでその心配はないのだが、いつも下ろしている髪は丁寧に巻かれている。風で舞うその姿がお姫様の様に思ってしまって、陽斗は数枚写真を撮ったあと目に焼き付ける様に見つめていた。安里はロングスカートをなびかせていて、海斗がいる位置に来ると手を振って笑っていた。その姿を写真に収めながら海斗も手を振り返す。可愛らしい恋人の姿を堪能していれば、馬は止まり退場案内のアナウンスが流れて北川家は三田家の元に集まる。満足そうな笑みを見せた凛の手を取って、予定していたアトラクションへ向かって行く。

 楽しい一日はまだ始まったばかりだ。


 *


 予定通りに乗れたものと諦めたものとありつつも楽しんでいればもう昼だ。六人は昼食を食べる為に一旦レストランに向かった。そこでこれからの予定を相談する。夜のパレードは見たいという意見は女子組で一致していたのでそこは確定で、あとは行きたい場所がばらけていてどうしたものかと考える。


「パレードの時間までは自由行動……などはいかがでしょう?」


 安里の提案になるほど、なんて顔が集中する。アトラクションを待っている時間も考えると午後は自由行動が適切かもしれない。凛は葵と一緒に行動する気満々で「どこに行く?」と話し合いが始まっていた。安里と海斗も自然と話し合っていて、ああもしかしてこの流れはと思って杏は陽斗を見た。落ち着きのない陽斗を見て不安そうな表情を見せる。内心は嬉しい気持ちで溢れているのに、どうしてこう素直になれないのか、と陽斗に気付かれないように小さくため息をつく。二組の様に杏と陽斗も行きたい場所を相談し始めるのであった。


 *


 昼食を終え、三組に分かれて自由行動が始まる。凛は葵の手を引っ張って行ってしまい、安里の手を引く様にして海斗たちも目的地へ向かって行った。残された杏と陽斗は道端で立ち止まっている。杏が乗りたいアトラクションも相談して決めたが、陽斗はここの地理に詳しくない。左手で園内マップを持って目的地を探す。陽斗には難しい地図を解読するのに時間が掛かっていて、そんな陽斗を横目で見ながら杏は素直な気持ちで左手を横にずらした。


「……ん?」

「……手、つないであげる。迷子になられても困るし」

「ははっ、そーだな……じゃあしっかり繋いでいてくれよなー」

「……仕方ないわねっ」


 陽斗から握られた手を少し乱暴に握り返す。大きな手は温かくて男の人だと認識してしまって、顔が上げられない。まだ園内マップを見ているだろうし、今変な顔をしていたとしても見られてはいないだろう。そう思いながら園内マップを見ている陽斗に視線を向けた。


「……な、」

「……そんなに照れられるとオレまで恥ずかしーんだけど」

「な、なんで見てんのよバカッ!」

 

 右手で陽斗の胸を平手打ちすると、苦しそうな声を漏らしたが自業自得だと思うので謝ってやらない。顔の熱が早く冷めてしまえばいいのに、と杏は苦しそうにしたままの陽斗の手を引っ張って歩き出した。

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